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No.11 過去

ダングの姿が見えなくなると、カイは今まで苦しそうに悶えていた様子とは一変、いきなり腹に短刀を刺したまま立ち上がった。


「いやぁ。今の、会心の演技だったと思わねぇか?」


カイは、深く刺さった短刀を勢い良く抜くと、その短刀を眺めながら言った。


その光景に、カーザは唖然としている。


「あれ?カーザ、どうかしたのか?」


「・・・・・・、俺、まさかお前が演技してるとは思わずに、お前が本当は不老不死じゃなかったんじゃないのかと思って、本気でうろたえてた・・・。」


カーザが間の抜けた表情で言った。


「だから、さっき言っただろう?今まで関わった人間には、不老不死だってことを気付かれないように配慮してるって。」


そのカイの言葉に、カーザは笑わないではいられなかった。


「それより、ダングが言ってた「例の物」って、何のことだ?」


カイが、自分の腹から抜き取った短刀を、手の上でクルクルと回しながら訊ねた。


「・・・・・・。・・・・・・、悪いが、今は答えられない・・・。」


結局、カイとカーザとの間には重い沈黙が立ち込め、そのまま夜が更けていった。










「自分は不老不死になったんだ」カイがそう気付いたのは、不死鳥の鮮血を浴びた直後だった。


その後の行動は実に無謀で、普通なら命を失っていただろうことを、当たり前のようにこなしていた。


無数の銃弾の雨を浴びてみたり、剣で滅多切りにされてみたり。


血は出ないが、それなりの痛みは伴うことも知った。


そんな無茶をし続けること37年の後、カイは運命の出会いを果たした。


その日カイは、ライク国の南に面した海岸にいた。


ふと目を向けた先には、2〜3才ほどの女の子の手を引く女性が、砂浜を歩いていた。


黒い長い髪が海風になびき、海面に反射した光を浴びて、光り輝いて見えた。


しかし、何を思ったのか、その女性は女の子の手を引いたまま、海に向かって行った。


海水浴を楽しむような姿ではないし、何よりその日は極寒の冬の日。


どう考えても、それは普通ではない行動だった。


カイは、急いでその女性と女の子のもとへと駆け寄った。


「おい!!何してんだよ!?」


カイは叫んだ。


しかし、その声を聞いた途端、女性はさらに深みへと進んで行った。


一緒に連れている女の子は、大声で泣き叫びながら、女性に手を引かれている。


「よせ!!何考えてんだ!?」


カイは、海にバシャバシャと走り入ると、勢い良く女性と女の子の手を自分の方へと引き寄せた。


すると、


「離してください!!私はもう、死ぬしかないの!!」


女性は必死な形相で、瞳にたくさんの涙を浮かべながら、カイに怒鳴るように言った。


「何言ってんだよ!!こんな小さい子を道連れにするつもりかよ!?」


カイの手を振り払おうとする女性の両腕を、カイは力強く掴んだ。


「何があったかは知らねぇけど、大事な子どもの命を奪ってまで死ぬことが、そんなに幸せなことなのか!?大事な子どもと生きることの方が、あんたにとって幸せなことなんじゃねぇのか!?」


カイは一度も女性の目から目を離さなかった。


二人の荒い息の音と、さざ波の音が混ざり合う。


その傍らでは、女の子が泣き叫んでいた。


女性の瞳から、一気に涙がこぼれ落ちると、その膝も砕けたかのように、その場に崩れ落ちた。


カイは、女性と女の子を砂浜まで、優しく運んだ。


カイは砂浜に二人を座らせると、着ていたコートを二人の肩に掛けた。


泣いていた女の子の様子は落ち着き、女性は涙を拭って女の子の肩を強く抱きしめた。


「・・・・・・、もう、バカなことは考えません・・・。この子を護ることだけを考えて生きていきます。」


女性は、震える唇を噛み締めた。


「そっか。それを聞けて安心したよ。」


そう言って、カイは口元に笑みを浮かべた。


そして、カイは静かにその場を離れようとした。


すると、


「あの・・・!お名前だけでも・・・。」


女性は、少しはにかんだような表情でカイを呼び止めた。


「カイ。それが、俺の名前だよ。」


「私は、エイミと言います。この子は、ルミです。・・・・・・、・・・・・・ありがとうご

ざいました。」


エイミは、深々とカイに頭を下げた。


その瞳からは光るものが一つ落ち、その声は心なしか震えていた。


それから数日後、カイはライク国の町の中で、エイミとルミを見かける。


しかし声を掛けることはしなかった。


その二人の横に、長身の男がいたからだ。


カイはいつしか、その町で、エイミとルミに会える瞬間を探すようになった。


エイミも、カイが町のはずれにある林の中にいることを知り、ルミと二人で林を訪れるようになった。


ルミはカイによく懐き、エイミもカイの前では笑顔が絶えなかった。


そんなある日、カイはエイミの実状を知る。


エイミの夫は町で有名な地主で、ルミと共に何不自由ない暮らしをしていること。


夫は女癖が悪く、その周りには愛人が複数存在すること。


夫は気に入らないことがあると、エイミやルミに暴力をふるうこと。


そんなことを、エイミは話してくれたのだ。


「そんな男となんて、さっさとおさらばしたほうが、いいんじゃねぇのか?」


そんな話を聞いて、カイの反応は当然そうなった。


しかし、


「それができれば、今頃そうしているわ・・・。前に一度離婚をお願いしたとき、銃を向けられたの・・・。殺されると思ったわ・・・。」


エイミは、怯えた様子で応えた。


「・・・・・・。もう少し早く、あなたと出会っていたら・・・。」


エイミが呟くように言った。


微かな沈黙の後、


「俺が何とかする。だから、ルミを連れてあの男のもとを離れるんだ!」


カイが、力強い眼差しでエイミを一直線に見つめて言った。


その言葉に少しためらったエイミだったが、その言葉を信じようと、大きく頷いた。


しかし、それがカイの運命の歯車を狂わせる結果になろうとは、その時のカイもエイミも気付いていなかった。


エイミはカイに言われた通り、夫のいない間に、ルミを連れていつもの林にやって来た。


しかし、その行動に目ざとく気付いたエイミの夫は、迷わず家から銃を持ち出し、カイとエイミ、ルミのいる林へと現れた。


「貴様だな!?エイミをたぶらかしてる小僧は!!」


エイミの夫の第一声は、それだった。


その表情も険しく、まるで悪人だった。


エイミは、やはり夫から逃れることはできないのだと、怯えた様子で、


「カイ、逃げて!やっぱり無理なのよ!」


ルミは、エイミの足にしがみ付いている。


「大丈夫、何とかなる!」


そう言って、カイはエイミとルミの前に立った。


「何をコソコソ話してんだ!?胸くそ悪い奴らめ!」


エイミの夫は持っていた拳銃を構えた。


エイミはますます動揺する。


「カイ、やっぱりダメよ!諦めましょう!」


エイミが、カイの背後からそう叫んだ瞬間だった。


バーン!バーン!!という銃撃音が林の中に響き渡った。


無数の鳥が一斉に飛び立ち、その勢いで木々が大きく揺れた。


エイミの夫が撃った銃弾は、確かにカイの体を貫いていった。


もちろん、カイがそれで死ぬはずはなかった。


しかし、エイミの夫はカイを撃ったことに満足して、その場を足早に離れていった。


カイは、しめたとばかりの笑みを浮かべて、背後のエイミの方を振り返る。


しかし、そこにエイミがいない。


下を見ると、呆然と立ち尽くしたルミと、その場に倒れこんで動かないエイミの姿があった。


カイは、驚愕の現状にかれるほどの声で叫びを上げていた。










カイは勢い良く起き上がった。


どうやら、過去の夢を見ていたようだ。


その全身には大量の汗が光っていた。


カーザの部屋を後にした後、カイはサガミと二人でシオンの港に面した小さな宿で、就寝していたのだった。


窓の外には、まだ丸く大きな月が不気味に見えていた。

こんにちは。作者のJOHNEYです。お読み頂きましてありがとうございます。今後もよろしくお願い致します。

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