No.10 再会
「さっきのは、一体何だったの・・・!?」
サガミが、逃げて来たシオンの港で、上がった息を整えながら言った。
「さぁな。たぶん、あの男と同じように消そうとしたんだろうな。」
「消す!?何で!?」
サガミが、明らかに驚いた様子で言った。
「・・・・・・、さぁ?」
口元に微かな笑みを浮かべながら、カイは首をかしげた。
「あ、そうだ。「何で?」と言えば、サガミ、さっき何であの男に親父さんの居場所を訊いてたんだ?」
カイが、とぼけた表情で言った。
「え?あぁ、あれね・・・。実は、・・・・・・・ロングシャドウの奴らに連れ去られたの・・・。返してほしければ、羽をよこせってさ。」
「へぇ。また、汚いことをするねぇ。じゃあ、すぐ親父さん迎えに行ったほうが良いかもな。」
そのカイの言葉に、サガミが何故?という表情をした。
「取引が成立しなかったんだから、親父さんに危害が加わってもおかしくないだろう?」
カイは、明らかに他人事だと思っている素振りでいる。
特に一大事とは、思っていないようだ。
「早く、カーザっていう医者を探さなきゃっ!!」
サガミの表情が一変して、うろたえ始めた。
「そういえば、カーザって名前、どこかで聞いたことあるなぁ・・・。」
カイが、遠くを見ながらアゴに手を当てて考えている。
「あ!!レストランの女の人に紹介してもらった医師の名前と同じだ!!」
サガミが、カイの大きな独り言に反応した。
そして、サガミは港で一軒だけ白い壁の建物を見つけると、一目散に走って向かった。
サガミは、三階建ての建物の二階に階段で勢い良く駆け上った。
そして、二階の部屋の戸をノックもせずに勢い良く開け放った。
すると、
「わぁぁっ!!何だ!?何だ!?」
中にいた白衣の男が、大袈裟なほどの驚きぶりで、薬品を床にぶちまけた。
「何だ、キミは!?ノックもせずに入ってくるなんて、失礼だぞ!!」
白衣の男は、床で小さな池をつくっている薬品を雑巾で拭きながら言った。
「あ、あの、・・・ごめんなさい・・・。」
サガミが、我に返ったように、小さくなった。
「それで、何か、用かい?」
白衣の男のその言葉に、
「私の父が、こちらに来ていませんか!?」
サガミが、掴みかかるような勢いで白衣の男に迫った。
「キ、キミのお父さん?さぁ?・・・・・・、ただ、先日ここに連れてこられた中年の男性だったら入院してるけど、その人がそうなのかな?」
「きっと、そうです!その人に会わせてください!!」
そのサガミの言葉に「どうぞ」と白衣の男が答えると部屋の奥から、
「その声は、サガミか・・・?」
杖をついた中年の男が現れた。
「・・・・・・!?父さん!!!」
サガミは、父親に駆け寄ると、その体を強く抱きしめた。
その感動の再会の場に、一足遅れでカイが到着した。
「良かった。無事だったみたいだな。」
カイが、小さく安堵の息を吐いた。
すると、
「あれ?カイ?」
白衣の男が、カイの顔をまじまじと見て言った。
「・・・?カーザって、やっぱりあんたのことだったのか。」
どうやら、カイと白衣の男もといカーザは、顔見知りのようだ。
二人は笑顔で握手した。
サガミは、父親と二人で建物の屋上で談笑していた。
その間にカイは、カーザに少し話そうと言われ、部屋でカーザと机を囲んで話し始めた。
「ミキカは、元気にしてるか?」
カーザの最初の質問は、それからだった。
「あぁ。変わりないよ。」
「何年ぶりに会うんだっけ?」
そのカーザの質問に、カイが少し考えた後、
「確か、・・・・・・一年か二年くらいじゃないか?」
と、カーザから目をそらして答えた。
「そうか。もう、そんなに経つか。・・・・・・、カイ、お前は変わらないな。」
カーザが一直線にカイを見ながら言った。
その瞳には、どこか鋭さがある。
「たかが、一年や二年で、変わらないだろう?そう言うあんたこそ変わってないじゃん。」
カイが、苦笑いを浮かべて言った。
「俺をバカにしてもらっちゃ困るな、カイ。俺が言ってるのは、そう言う意味じゃないんだ。」
「じゃあ、どういう意味だよ?」
少し不機嫌そうに聞き返したカイに対して、
「じゃあ、唐突に質問しても良いか?」
カーザが意味深に言った。それに、カイは複雑な表情で小さく頷いた。
「お前は、不老不死なのか?」
そのカーザの質問に、カイは黙り込んだ。
部屋の壁に掛けてある時計の針が動く音だけが聞こえる。
「何で、そう思うんだ?」
カイが質問し返した。
「勘かな?」
カーザがイタズラ小僧のような顔で笑ってみせた。
するとカイは、
「何で、分かったんだ?」
不思議そうな表情で訊ねた。
「勘だよ。」
カーザは、再びイタズラ小僧のように笑ってみせた。
しかし、その答えに満足していない様子のカイを見て、
「半分は勘だけど、実は、もう一人不老不死の奴を知っててね。それで、もしかしたらと思ったんだよ。」
イタズラ小僧の中に微かな真面目さを出した笑顔で言った。
「なるほど・・・。まいったね・・・。今まで関わった人間には、誰一人として気付かれないように配慮してきてたんだけどなぁ。」
カイが、苦笑いを浮かべながら頭をガシガシと掻いた。
「あはははは!気にするなよ!俺は、誰にも言わないから。」
カーザがそう言った次の瞬間、部屋の戸がゆっくりと開いた。
カイとカーザは、そちらを振り返った。
そこには一人の男が立っている。
「随分、楽しそうにお話しているところ悪いけど、お邪魔するよ。」
「急患ですか?」
カーザがその男の方へ駆け寄ろうとしたのを、カイが即座に腕で制した。
「何で、あんたがここにいるんだ?」
カイが、その男に言った。
「あれ?カイじゃねぇか。お前こそ何でこんな所にいんだよ?」
それは、先日テグスターのバーで会った、ダングという男だった。
「何だ、知り合いか?」
カーザのその言葉に、カイはただ、頷いてみせた。
「今日は、お前に用はないんだ。」
そう言って、カーザの方に歩み寄るダングの肩をカイは掴んだ。
「あんたの言う「用」っていうのは、あんまり良い予感がしないんだけどな。」
そのカイの言葉に、
「気のせいだろ?」
ダングは、カイの手を力強く払って応えた。
「カーザさん、あなたが保有している「例の物」を受け取りに来たんだが。」
そのダングの言葉に、カーザの表情が突然険しくなった。
「何だ、何かと思えば、あんたもアレが目的で来たのか・・・。悪いが、アレは誰にも渡せない。俺の切り札なんだよ。」
カイは、二人のやりとりを複雑な表情で見つめている。
「仕方ないな。」
そう言って、ダングは小さくため息を吐いた。
そして、懐から鋭い短刀を取り出した。
それを見ていたカイが、すかさずダングとカーザの間に入った。
しかし、ダングはそれを予測していたのか、ためらうことなくその短刀の刃を深々とカイの横腹に突きたてた。
ザクっという鈍い音の後、カイが表情を歪め、唸り声を出しながら、その場に落ち伏せた。
「カイっ!?」
カーザが慌てた表情で、倒れているカイの体を起こした。
「いいか、カーザ。こうなりたくなかったら、さっさとアレを我々に渡すことだな。」
そして、
「いっけねぇ!ミキカの仕事を奪っちまったじゃねぇか!」
ダングは、何か思い出したような表情を浮かべて、うなだれた。
それを見ていたカイは、
「ダング。こんなんで、俺を殺せたと思うなよ。」
と、苦痛に顔を歪ませながら言った。
するとダングは、一度鼻で笑った後、
「負け犬が吠えているようにしか見えないぜ、カイ。」
と吐き捨て、憎たらしい笑顔でその場を去って行った。
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