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「チート」神通力(1)

 ズドッ! 背中全体を、大きなハリセンで叩かれたような感覚。


 次に来たのが、ジワッと背中全体に浮き出てきた冷たい汗。それに憑いてきたかのように全身を襲う悪寒。指先が痺れる。頭、後頭部かな、ズキズキと痛熱い。


 あぁ、なんかヤバイ。もうダメかも・・・


 そう思ったら、妙に冷静になれた。


 このままだと、もうすぐ全身動けなくなる。なにもしなければ死んじゃうだろうな、それも良いかな。と、すこし頑張ればどうにかなる。両方の考えが頭の中で行ったり来たり。


 『かのじょ』が、居ない?あれ、かのじょって誰だっけ?それにここは?


 頭が急にさえる。俺は、昨日ここに来て・・。


 薄目を開ける。汚い布の天井が見える。顔を横に、すると見た事のあるベッド。そして、土の床。


 ベッドとの隙間が少ない、向きを変えるなら反対に。


 痺れているのは指先、ジンジンと痛い。悪いのは、次第次第に痛みが広がっている事。すぐに肩まできそう。急いで肘に力をいれ、足を引き寄せ、踏ん張る。そして、腰を捻った時。


 ズギッ


 強烈な痛みが襲ってくる、これは腰の神経だろうか。今度は、全身から冷たい汗が噴き出す。


 さらに冷静になれた『これに負けたら、もう終る。』理性が教えてくれる。


 この痛みをバネに、手と足に力を入れ・・腹ばいにできた。


 曲がった手足を伸ばし、息を整える。

 少し動いても、腰は痛まないが、すこしでも体をひねると激痛が襲ってくる。一体、なにがどうなったのだろう?


 全身の冷や汗は、腰が原因だろうか?

 だとすれば・・『痛いの痛いの飛んで行け』これで治るだろうか。

 いつまでもこうしては、いられない。もう手のひらも痺れてきた。


 右手を静かに静かに、腰の上に。原因がわからないけど、腰が痛いのは事実。腰の痛みを手のひらに集めるイメージ、その痛みを軽く握る。それを上に放り投げればいいのだが、無理だ。

 上に上げようとすると、腰がひねられるか、筋肉が引っ張るのか、背中を激痛が襲う。


 ああ、どうしたらいいのか。


 動かなければ痛くない。だったら、集めた痛みを指の間から出してやればどうだろう。イメージは、子猫が母親の腹をムニムニするようにかな。


 ピタッとついている手のひらを、指だけ離れないように、隙間を開けて、痛みを集める。


 今度は、『痛いの痛いの出ていけ』指の隙間から漏れ出ていくイメージ。


 無心で何度祈っただろうか。重しの乗っていた腰の違和感が薄れていく。

 もう、捻っても痛くない。


 動ける様になったので、キョロキョロとあたりを見渡す。


 間違いない、ここは昨日来た村の家だ。かのじょは、ここは居ないようだ。人の気配がしない。


 光が頭の方からさしている。頭を向けると、勝手口が開いていて日差しが入っている。

 勝手口の外には、荷車と上に置かれた大きなカゴ?がいくつか見える。そこにも、誰もいないようだ。



 

 しかし、腰の激痛の原因は何だろう?


 右手を腰からおろして、ベッド脇の土間を触ってみる。


 なんだこれ?


 小さな石?いや、この手触りは、土のようだ。形は、垂直に伸びた小さなもやし?原因は、小さな突起。これかな?

 激痛で思い出した、足裏健康シートの突起の痛みもこれにちかいものがある。おそらく、これが腰に直撃したとしか考えられない。


 こんな小さな突起が、そう思い手のひらでこねくり回していると、いつの間にか消えてしまった。


 あれ?どこに行った。



 「あ、起きたんだね。それななら、こっちを手伝ってくれない。」

 女の声がして、かのじょが勝手口から入ってきた。


 なぜ土間で寝ているのか、ベッドと僕を見比べて理解したようだ。

 僕が、土間をスリスリしているのも見られたのだろうな。少し恥ずかしい。


 起き上がると、勝手口を見る。通路の奥に、荷車があり荷台に大きなカゴが6個のっている。均等に置かれているのだが、位置がおかしい。手前に1列分のすきま、奥に2列分のすきまがある。

 それも、なぜかわかった。向かいの家の夫婦だろう、荷台の籠と同じ籠をもって移動していた。早朝、畑から収穫した野菜を荷台に載せ、ここに置いて今まで運んでいたのではないだろうか。それを3人で、今まで運んでいたのではないだろうか。


 1列にカゴが3個、2列あるので6個が乗っている。

 女の人が荷台に向かって歩いていく。僕もついていくと。


 「そっち持って」

 二人で、荷台から下ろしていく。持ち手につけた心張棒で、水平に支えているので、振動で外れないように気を付けながら。

 置き終わると。


 「玄関に置いてくるから、先に行って開けてくれる」


 持ち手の中に入ると、スタスタと玄関に向かっていく。

 『遅れる』、それじゃと家の中に入って玄関へ。


 飛び出た小屋の中には、何も無く。厚手の布が外との行き来を隔てている。

 荷車の音が近づいてきた、入口付近にあった棒の先端を、布の下にある穴に入れると、十手状の枝が滑り落ち防止になっている。そのまま持ち上げ、荷車が入る邪魔にならないように。


 「ありがとう、もう時間が無いから向こうもお願いね。」


 荷車を小屋にいれると、かのじょは、勝手口に向かっていく。

 僕は、布をもとに戻すと後ろをついていった。


 勝手口脇、内開き扉が壁についているので、少し離れている場所に、カゴ、手桶、ゴザ、クワ、ジョウロ、棒、丈夫な紐など雑多な道具が積まれている。


 少し大きなオケを2個手に持つと勝手口左右の壁際に置き、戻って囲炉裏脇の丸太の(自分の)椅子?を持ち左のオケの手前に置く。

 僕と囲炉裏脇の椅子を、視線で・・持ってくるようにかな。


 椅子を右のオケの前に置く。その間にかのじょは、ゴザを持ってきて椅子の間から奥の畑へと広げる。

 さらに、道具置き場から持ち手付きの手桶(2個)を持ってきて、カメから 

水を汲んで、左のオケに入れた。2度繰り返すと6~7分目になったので、今度は右のオケにも、同じ様に水を入れていく。


 入れ終わった手桶を、カメの下に置き。

 「このカゴを、お願いね。」


 4個のカゴを、左の椅子の脇に。2個のカゴを右の椅子の脇へ。


 「見ててね。」


 そう言うと、左の椅子に座り、カゴから、二十日大根を取り出しオケにいれ、大根と茎についた土を落としていく。

 洗い終わった大根は、ゴザの奥へ並べる。大根は畑側、葉は勝手口に向ける。次に洗い終わった大根を隣に、順に並べていき。手の届かない所から折り返すのか、手前に並べてある二十日大根の葉に洗った大根を重ねて置く。


 見えていると、洗い方が少し雑に見える。昨日食べた大根もあんな感じだったようだが。

 椅子に座った僕は、カゴから大根を取り出し、かのじょより丁寧に土を洗ってみる。


 指で茎や大根を傷つけないように、丁寧に・・


 ・・・


 1個洗う間に、かのじょは4個洗ってる。みるみる広がる差。


 『これでは・・』


 多少雑でもと、かのじょ位のスピ-ドに洗いだすと。

 かのじょは、こちらを見。僕が洗った大根を掴み、自分のオケで再度洗った。

 「もう少し丁寧にお願い。」


 こんどは、かのじょの洗った様に合わせてゴシゴシ・・

 チラッとこちらを見るが、何も言わない。


 慣れてきたが・・かのじょが2個洗う終わるのと、僕が1個洗うスピ-ドが一緒だ。ちょっとへこむ。


 ゴザがいっぱいになると、二人で崖下の道路まで、ズルズルと引きずっていく。1カゴでゴザ1枚のようだ。またゴザを広げて、ゴシゴシ・・。


 当然、オケは土で汚れていく。カゴの半分位?かのじょは、オケを持つと畑の向かい、横一線、シャワーと撒く。え?もしかしてか弱いかのじょじゃなかった?

 水を汲むとモクモクと、洗いだした。僕も真似をして、横一線、ジャワワワー、手前に巻き散らかす。

 横目で見ていた、かのじょの目が笑うを見逃さない。ちょっと恥ずかしい。


 ゴザが5枚になると、今度はおおきなザルを出してきた。1つはかのじょ、もう1つは僕に、これに入れるようだ。


 ザルが平らになると流し横に置き、上に木の板をかぶせて次のザルへ。


 かのじょのカゴが終わった。背伸びをすると、5個のカゴを掴み畑に向かう。大根の抜き終わったところに、カゴをひっくり返してポンポン、中の土を払い落ちしていく。水の音も聞こえるが、かのじょの背中でどうやっているのか見えない。


 カゴを片付け、最後の僕のカゴも終わるという頃。


 「まいどどうも。ちょうど終わったあたりですかね。」


 崖脇の通路から男の人の声。


 「では、奥から行きますので。」


 荷馬車に乗った男の人が、奥へと入っていった。


 「もう終わる?」

 「そうだね、これだけだから。」

 「そうね。」


 自分のオケと椅子を持ってくると、一緒に洗う。


 後片付けをしていると、さっきの人とは違う人が隣の家から歩いてきた。荷馬車の人だろう。ここの村人と着ている物が違うので、一目でわかる。


 「今日は、これでいいでしょうか?」

 「はい、お願いします。」

 「では、いつもと同じで?ただ、いつもより量が多いので何か入り用ですか?」

 「次回に種を持って来てもらえる。」

 「種ですか。実は最近の日照りで、種が入りにくいのです。しかも値上がりしているので・・どんな種が必要です?」

 「そうね・・」

 かのじょと荷馬車の人の話が聞こえる。


 僕は、残った後片付けを。オケや椅子を元の場所へ、カゴを流しの横に置き、オケの水をなげて片付ける。


 終わって外に出てみると、かのじょとの話は終わっているようで、雑談をしている。どうも僕が話題のようだ。


 話に入るのも気まずいので、家に入って腰かける。休憩していると、荷馬車の音と、物を積み込む音。

 手伝おうと外にでてみると、ゴザの大根は木の箱に詰め替えられ、それを荷馬車に積んでいるところだった。


 「手伝おうか?」

 「もう終わったから大丈夫。ゴザを持っていって。」


 ゴザを丸め、5枚抱え込むと勝手口横に置く。濡れているし、どうしたらいいのか?


 大きな葉で幾重に包まれた物?を持って、かのじょが来る。それを台所に置くと戻ってきて。ゴザを家の周りに広げる、これで乾かすようだ。

 2人で、4枚を広げ終わると。


 「遅くなったね、ごはんにしましょう。」


 残ったゴザを広げ終わった僕が家に入ると、昨日の木皿に二十日大根を盛り、さっきの葉で包まれた物を包丁で切り分け、別皿にいれて持ってきた。

 「ご苦労様、疲れなかった?」

 「まあ、大丈夫です。」

 「そう?ごはんが終わったら、畑をお願いね。」


 昨日の大根より量が多い、さらに別皿の?

 色、におい・・乾燥肉?


 「これって肉ですか?」

 「そうよ、食べれるでしょ?」

 「ええ、いただきます。」


 手桶をとりに行く、大根の残った土を落とす為だ。

 見るとカメには、ほとんど水が残っていなかった。底に土が、・・ああ、僕が洗った土か。


 「わたしのもお願い。あなたは、こっちを使って。」


 渡されたのは、小刀。少々切りずらいがまな板代わりの木片の上で、切り分けていく。さっと洗い、口に入れていく。

 少々分厚く切られた、干し肉をパクリ。なんの肉?今まで味わったことのない味がした。うーん、なんの肉か聞くのが怖いような・・聞かないでおこう。


 食事の後片付けが終われば、畑仕事。


 クワを2丁持って、隣の畑へ。畑は、歪な形だが2面ある。手前と奥。


 この家は、村へ入る最初の家になる。村で一番大きな家になっている。後から聞いた話だと、荷車を引いて村に来たかのじょ達に、荷車を売らない条件でこの家を与えれたと。前は、隣に住んでいる『むらおさ』の家だったそうだ。

 入口から大きな家があり、上流に従い、家は小さくなる。


 小さな家は、若い2人用で。大きな家は、老夫婦と若夫婦それに子供の5~7人家族用だとか。村人に決まった家は無く、家族の構成で家が決まっているそうだ。


 村の奥、下流。僕が流れ着いた河原横の長い下り坂の先に村があり。その下り坂は、村の崖下を通って川につながっている。

 家は、この通路の脇に並んで立っているのだが、家と家の間も畑が食い込んでいる。

 畑は、大体幅50m、奥行き25m。ほぼプール1面。それが並んで2面。これが、大きな家用の畑として割り当てれている。

 小さな家は、1面だけなのだと。


 前の旦那が争いに駆りだれて人手の無いかのじょは、畑を耕す事が出来なかった。1面だけ耕して、二十日大根を育てて食し、余った大根を売って日用品や食料を買っていたそうだ。


 女の力では、畑を深く耕す事もできない。実際、かのじょがクワを入れていたのは、クワ半分だった。それでも、二十日大根を育てるのには十分だったようで、こうして出荷してきた。

 今日は、僕が来たので育っていた全部を収穫してきたという。


 1面の半分くらいが、大根の抜かれた後になっている。・・・これを耕せというのだろう。


 「次も大根を植えるのですか?」

 「こっちは、そうね・・半分、さっきの大根にしましょ。残りは深くしてね。まだ種があるから、それを植えましょ。」

 「深く?」

 「そう、そのクワの根元近くまでお願いね。今日は、この畑をお願いします。明日からは、隣の畑を耕してください。」

 「ええ・・、でもやった事が無いので、どうやるか見せてもらえます?」

 「あなたは、村で育ったのでは?まあいいわ。」


 そう言うと、自分のクワを上に上げると、ザクッと土の中にクワが入っていく。半分以上入っているが、返す事が出来ないようで1/3まで引き上げてから土を反して空気を土に和ませていく。


 「どう、わかった?」


 数回見ただけで、土がいじれる分けもなく。何度も試行錯誤しながら、息を切らしながら耕していく。


 「もうお昼ね。休憩にしましょ。」


 この村、いやこの時代か。昼に食事をする風習は無い。家か日の当たらない場所で、軽く昼寝休憩をするのが習慣となっている。


 「痛い・・」


 手のひらを見ると、皮が膨らんで水が溜まっていた。


 「あら、やわらかい手ね。まだやれる?」

 「このくらいなら。」


 手のひら同士を合わせ。

 「痛いの痛いの抜けてけ。」

 「なにそれ?」

 かのじょは、僕を見て笑っている。冗談に見えたのだろうか。


 「どう。」

 きれいになった手のひらを見せる。


 「え?どうやったの?」

 困惑しているかのじょ。


 「傷とかケガは、こうやると治るのですよ。」

 「本当?じゃ、私のも治る?」


 かのじょの手は、もともと白くやわらかったのだろう。くるぶしの奥に、その片鱗が見える。でも、かのじょの手は、固くひび割れていて、所々に土が食い込んでいた。


 かのじょの手のひらを上に向けさせ、その上に僕の手をかぶせる。

 「痛いの痛いの抜けてけ。」


 僕と程度が違う。一度や二度で治るはずもなく、十回やると手のひらが柔らかくなってきた。ひび割れも筋が残る程度に治っている。


 「うそ、本当だ。」

 どっちだ?

 「あなた、神通力を持っているのね。」

 「神通力?」

 「そう、大きな町やいくつかの村の1人に、たまに現れるそうよ。」

 「チートの事かな?」

 「チートは、知らないけれど。そうね、死んじゃった私の旦那も神通力の持ち主だったのよ。」

 「旦那さんも・・・えーと、どんな神通力だったのですか?」

 「彼のは、『土』と話せたの。」

 「はい?」

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