SNS
朝もやの中にいるように、ぼーっとしている。
「ねえねえ、あれってやばくない?」
「え、どれ?」
学校の女子の声が、後ろから聞こえる。
聞き取れる距離にいるようだ。
「これよこれ」
「?」
「この子、あれじゃない」
どうも僕のようだ。この子って、失礼なやつだ。
「にてる?」
「制服、うちのじゃん。」
「だね」
「後ろすがた、これとそっくり」
「そうか?・・・・え?これって、マジ?」
「そ、いま最高にバズってる」
「やばくない」
「あいつ、真ん中にいるから、わきをいくよ」
「うん」
女子二人が、ガードレールの脇をすり抜けていく。
僕を害虫みたいに・・幾分憤慨していると、もやが薄れて周りが見えてきた。
ここは、いつもの学校へ行く大通りの歩道、立っているのは、・・まん中。
ああ、これじゃ邪魔だと言われるな。
右により塀に背をつけて、周囲を見渡す。
特に変わった様子は、ないようだ。
しかし、僕がバズってる?SNSに最近あげていないはずだけど、前のがバズってるのか?スマホを取り出し、動画の再生数をチェック・・していると。
「よ、朝からこんなとこでなにしてるんだ?」
肩をたたいて、幼なじみの友達以上マブダチ未満のあいつが、僕の隣に並んで塀に背をつけた。いつもは「よっ」だけで、通り過ぎていくはずだけど?
ついでだ、聞いてみる。
「なあ、僕がバズってるて、あいつが言っていたんだけど、わかるか?」
「はぁ、お前知らないのか?今、ここいらで最もバズってる本人さんがよ」
「なにを言ってるんだ」
「まあ、これを見ろ」
スマホを取り出すと、何度も再生したのだろう、すぐに動画が始まった。
それは、公園に、二人で行くところから始まっていた。僕が小さく見えることから、結構後ろをついてきたのだろう。どおりで、気付かなかったわけだ。
僕らがベンチに座ると、ベンチ後ろの生垣に移動して、そのまま動画は録画される。
最初、少し雑談した気がしたが、聞こえないから、さほど近いのではないか・・ああ、ズームで撮っているのか。
僕がポケットからプレゼントを取り出して、なにか言っている。
たしか、彼女は、ここでお礼を言ったはず・・そうだ、唇が動いている。
それを聞きながら。僕は、自然に彼女の腰に右手を回し、すこし引き寄せた。
動画の彼女は、困惑しているのだろう、見るからに硬直している。
その時、僕は、これを肯定と思っていたんだ、腰を浮かせ彼女の方を向いて、唇を彼女の口へ。
この時、彼女はビクッと頭が後ろに振れたが、興奮していた僕は、気がつかなかった。
彼女は、右手を僕の胸に当てると、そのままグィッと押し込む。
この時、僕は何が起きているか分からなかったんだ。だって、予定していた事と違うんだから。焦るだけで、頭が真っ白になり、いつも見ている動画が頭をよぎる。
彼女から押され離れた僕の左手は、彼女の胸を鷲掴みにした。それは、僕も思いがけない事だったんだ。だって、拒否されるとは、思ってもいなかったから。体が勝手に動いたんだ。
再び硬直する彼女。数秒だろう硬直から解けると、押し当てていた右手を引き、後ろにスライド、勢いをつけた掌が、僕の頬に「バチーン」を音を立てて吸い込まれていく。
僕の左手は、宙を掴んだ状態になり。歪んだ顔は、後方へと向きを変えた。
その顔は、頬をへこませ、あちらを向いている目、幾分とがった唇、空に舞う僕の髪。
僕には見えなかったが、顔の向いた先にあいつらが居て、スマホを向けていたのだろう。
「おい、これってヤバイだろう」
「どうすんだよ」
「とりあえず、逃げるぞ」
スマホは生垣を映し、ついで、芝生と、「ハアハア」言う息遣いが聞こえる。しばらく芝生が見えていたが、スマホに気づいたのか途中で終わっていた。
蜘蛛の子を散らすように、逃げて行ったそうだ。
「これって」
「ああ、お前の蛮勇だ。ばっちり撮れているだろう」
「お前が撮ったのか?」
「いや、これを撮ったのは誰だかわかるだろう。あの後、一緒に居た俺らに流れてきたんだ」
「みんな持っているのか?」
「ああ」
僕は、どういえば消してもらえるか、考えていると。
「まあ、こっちがバスってる方だ」
素早くスマホを操作して、動画再生サイトを開く。
そこに映っていたのが、腰に手を回して、彼女の口に顔を近づける僕。
明らかに胸を押されて、拒否された僕。
お返しだろう、彼女の胸を掴む僕。
そして、頬を叩かれ、画面に歪な顔をさらす僕の顔。
動画は、そこで終わっていた。
「どうだ、おまえ超有名人になっているだぞ」
頭が真っ白になった、なに言ってんだこいつ。と思ったが、動画再生サイト・・削除要請しよう・・・無理だ、これを削除しても、バズってる以上、もう何か所にも面白可笑しく編集された動画が流れている頃だろう。
「なあ、不思議なんだが。なんでこんなことをしたんだ?」
「なにって・・おまえがくれた動画があったろ、それを見たんだ」
「動画?」
「うん、これだ」
僕のバイブル。こいつにもらった動画の一つを再生した。
「まさか、これを手本にしたのか?」
「そうだよ。腰に手を当てて、自然にキスをして、胸の隙間から手を入れているだろう。だけど、うちらの女子制服、ブレザーだけど合わせ目が結構上まであるだろ。そこから手を入れるのって、立ち上がって差し込むしかないだろう。それが、頭に浮かんでとっさに掴んだ。」
「お前の中では、それが女子との付き合い方なのか?キスの後、胸に手を入れるのか?」
「ん?動画見てると大抵そんな感じだぞ。そうじゃないの?」
「おまえ」
絶句すると、なにやらサイトをいじって。
「これを見てみろ」
映し出されたのは、タイトル。どう見ても朝見る動画じゃないのはわかる。まあ、さっきのは、タイトル無しのもっと際どいやつたけど、こいつの物だし良いだろう。
タイトルの後、文字が画面に表示される、結構長い時間(イライラするので長く感じる)流れるので、いつもスキップしているやつだ。
画面を止めると。
「これ、見た事あるだろう?」
「あるよ、邪魔だからいつも飛ばしている」
「読んだことは?」
「ないよ」
「じゃ読んでみろよ」
なになに・・18歳以上で、本人同意の上撮影しており・・・
なにこれ?
「読んだ?」
「これって、芝居?」
「芝居?・・まあ芝居というより演技じゃないか」
「演技・・じゃ、お前がくれた動画も?」
「あれには、これがなかったかな。まあ、ごく一部の動画以外は、全部合意の上の演技だぞ。知らなかったのか?」
「演技?じゃ、僕が思っていた女性との付き合うやり方って・・・」
「なんだ、本当に知らなかったのか、てか、エロ動画は付き合いに使えないだろう」
真っ白になった頭は、考える事を拒否して、別の事を考える。
「でもなぜ、あれがサイトに?」
「ああ、それか・・おれから聞いてって誰にもいうなよ」
そう前置きして、教えてくれた。
俺の一部始終を公園で見ていた仲間の一人。居間でスマホを見ていた、そこに動画が流れて来て。それをみていたが、最中、奇声をだして見ていたそうだ。
そこにいた、兄貴とその友だち。何事だとスマホを取り上げ、二人で見ていると。見る見る兄貴の友達が怒り始めたそうで、この動画の一部始終を根掘り葉掘り聞いていったそうだ。その動画もしっかり写していったんだが、それが流れただろうと言っている。
「その兄貴の友達が?」
「どうも、お前の彼女の兄貴らしい」
「え・・・」
「こいつを、社会から葬ってやる。とか言って帰ったとかいっていたから、兄貴の友達が流したのだろうな」
「・・・・・」
「まあなんだ、おれは幼なじみだし、お前を軽蔑したりしないからな。でも、これから俺に話しかけたりしないでくれるか。あいつらは、LINEから抜けているが、おれはそこまでしていないし。なにかあったらLINEしてくれ。じゃな」
LINEを見てみると、あいつらが大騒ぎしているのがわかる。
俺はヤバイヤツ認定されて、LINEからキックしようとしていたが、同じLINEを使っていたとばれると、色々ヤバくなりそうだと、全員抜けて作り直す事にしたようだ。あいつだけ残っていた。
前を通る女子の視線が痛い。僕を、G虫認定しているようだ。だれもがスマホを片手に、僕をそれとなく指さす。
男子は、まだ見ていないのだろう。僕を見ても、こいつなにしてるんだ、程度で終わっている。
家に帰りたくなった。
でも、そのあとどうなる。間違いなく、もう家から出れないだろう。言われたように、社会から抹殺されるんだ。
仕方ない、鉛より重くなった足を、学校に向ける。
学校までの道、重く遅い僕を幾人かが追い越していく。女子の反応は、前と同じ、僕をG虫か汚物の様にチラ見していく。
学校に入ったら動画は物凄い勢いで拡散していて、その主犯が僕だとすぐにわかる。まあ、あれだけ顔をアップされば、特定は簡単だったろう。
学校、昇降口。想定通り、女子達の視線が刺さる。男子も気づいた連中がいるようで、僕をあからさまに指差している。
今までの仲間に裏切られた結果、僕はボッチになるのだ。
まあ、ここまでは、容認しようじゃないか。ボッチになれば、誰もあいさつに来ないし、話もしに来ない。
ああ、不良グループに目を付けれそうだ。それは勘弁してくれ。あいつらのイジメは、限度を超す時があるんだ、最悪転校だな。
目をつけられないようにするには、今までの仲間(リア充になりたい仲間)、クラスだけでいいから挨拶してもらえれば、何とかごまかせるか。
教室に入る前に、幼なじみのあいつに頼む。LINEは、すぐに既読になり「わかった」と、返してくれた。
何とか、挨拶だけ認めてくれるようだ。これで、一安心。それでもばれるだろうから、さらに手を考えないと・・。
いたたまれない中、遅刻ギリギリで教室へと入っていく。
約束は守ってくれるようで、前の仲間が僕を向き「よっ」と軽く手を上げてくれる。ただ、声に出してはくれない。
これは、毎日の事なので、見ていた女子達の反応は薄い。
最初の授業が始まった。女子から女子へと小さく折りたたんだメモが飛び交う。いつもながら感心するが、先生の視線を潜り抜け、素早く手渡される。
2時限になると、めっきり少なくなり、3時限では、メモ交換は終わっていた。
一方男子、こいつらは休憩時間、机で話し込んだ時が情報交換の時で「まじか?」「それおしえろよ」とか聞こえる。
この調子なら、興味あるやつらだけなら、放課後までに行きわたるだろうな。
昼休み、さすがに便所飯はしたくない。堂々とボッチメシ。
情報に疎い男子達も、なんかの異変に気付きだした。まあ、僕の周囲だけ、誰もいないのだから、気づかない方がおかしいのだが。
いつもより大きいざわつきのなか、ボッチメシを食べ終わった僕は、誰も来ないし行けない。そう、急に暇になったのである。
何かないかと、リュックを机に置き、中を見てみる。
底に、弁当のシミと匂いがする本を見つけた。
これは、学校入学の前に買ったラノベだ。暇な時に読もうと入れておいたんだ。幾分読み込んだところで、幼なじみのあいつに誘われて、リア充になりたいグループに入ることになったんだっけ。
取り出して、ベリベリと少し音と匂いがあるが、読むことにした。周囲の圧を受けるよりましだった。
数ページ読むと、思い出した。事故にあい、女神様の手違いだったとチート能力をもらい。異世界で無双する王道ラノベだった。
はぁ、僕も異世界転移できたら、イジメやボッチでクヨクヨする事ないんだけどな。
そういえば、前の仲間の姿が無い。休憩時間や昼休み、いつもなら誰かの机の周りで、情報交換や動画の受け渡しをやっていたのだが。
昨日の仲間は、このクラスと隣のクラスの混成グループだ。特に僕たちだけが仲がいいのでは無い。2学年になるとき、隣のクラスと半数が入れ替わって、クラスが編成された。そのため、隣のクラスに相当数の仲間が分かれていった。それで、交流も同じクラス並みにあるのだが。
今日は、休憩になると誰もいなくなる。聞くまでもない、隣のクラスでやっているのだろう。
リア充の(前の)仲間は、横の広がりが大きい。仲間の友達で、興味のあるやつならだれでも入れた。そのため、いくつものグループができた。
LINEは、いくつもあり。僕の入っていたLINEは、同じクラスと隣のクラスで構成されたグループだった。
当然、いくものLINEに入っているやつは、何人もいる。僕は、あまりかかわりを持ちたくない無いので、1本しかはいっていなかった。
言いよってくるのもいない。行くつもりもないので、本に集中する。
内容も面白かったので、無中で読み。その間は、周囲の視線を気にせずにすんでいた。
午後になると、周囲が静になった。女子の冷ややかな目と汚物を見る目、G虫を見る目は、僕に無言の圧力をかける。
男子の目が変わってきた。馬鹿なことをやったもんだと冷ややかな目となぜか尊敬?羨ましい?そうな目。
違ったのもある、面白いものを見つけた目だ。不良グループが、僕をチラ見するが寄ってこない。
リア充グループに干されたようにも見えるし、ただ謹慎中にも見える。ほとぼりが冷めるまで、寄ってこないのだろうとは分かっているようで、様子を見ているのだろう。
放課後、いつもなら屋上や校舎の裏に集まって、ワイワイやっているのだが。
さっさと帰るか。
幾分、視線を感じる。それならばと、堂々と歩いていく。変にオドオドしたりすると、つけまれる恐れがあるからだ。
帰っても、誰からも何も無い。寝るまで、ラノベを読み。続編を、ネットで注文する。その時、アニメ化されていると知り、検索してみる。TVerでやっていた。
それからは、ラノベと異世界アニメ・漫画と、とっぷりと異世界チート無双に入り込んでいった。
そこに、頭を抱える問題が発生する。
「前に、林間学習の出欠を出してもらった集計が終わった。このクラスは、全員出席だ。そこで、これから班を作ってもらう。5人で一組になってもらう。」
「先生、男子だけでもいいですか?」
「まあいいが、分かっているだろうが、班で飯を作ってもらう。食材は、こちらで準備するので、レシピを出してくれ。男子だけで、調理できるなら、先生はなにも言わない」
ザワザワ。一斉に騒がしくなる。
「静かに。この時間を使って班を作ってくれ。入れなかった者は、それで作ってもらう。」
クラス35人。確かに、5人の班ができるのだが・・ボッチの僕は、・・・どうしようか。
ざっと動きを見る。不良グループは、グループの女子に料理スキルは無いと判断。優等生グループに接近して、男女とも半ば強引に班決めをしている。
リア充グループは、全員男。だが、意外に調理可がいる。中にキャンプ愛好家が幾人かいるのだ。それを分け、男子の班を作っていく。
女子は、何も問題ない。キャッキャッと言いながら女子だけの班を作っていく。
残ったのは、僕、オタク系ボッチの面々、眼鏡司書女子が1名。これで、5人になった。お互い目をあわせ、仕方ないかとあきらめる。
意外だったのは、眼鏡司書女子。僕に特に関心を示さない。冷ややかな目でも軽蔑する目でもない。
あとで聞いてみると、単に興味がないそうだ。このどうでもいい目、数に隠れて気づかなかったが、そこそこいるようだ。
オタク系ボッチの全員は、料理不可。僕は、自炊できるくらいの腕前はある。まあ、親が共働き家庭なので、腹が減ったら自分で作るしかなかったのが実情だが。それに、眼鏡さんも弟に飯を作ってやっているそうなので問題なし。
レシピを眼鏡さんに丸投げすると、前にもらった「林間学習のしおり」を開いて、買い物リストを作っていく。
放課後、買い物と不足分の注文をして、お帰り。
そして、林間学習の日。
班ごとの行動なので、バスを降りると、まとまって歩いていく。
「これから吊り橋を、わたる。歩み板がレールみたいに敷いてあるから、踏み外さないように。落ちても、騒がないで、先生の到着をまて。慌てると落ちることもある。慎重にいけよ。」
班ごとに、間隔をあけて渡る。僕たちは、最終組。下を見ると、川の流れが遠くに見える。
さすがに眼鏡さんは怖いようで。両方の手すり代わりのワイヤーを掴み、恐る恐る歩いている。
ジッジッジッ・・・突然スマホのバイブレーション。振動でポケットから落ちそうになっている。
片手でつかみ「なんだよ、こんな時に」
顔に近づけ・・表面に現れたLINEの知らせと、その内容。幼なじみのあいつからだ。
おまえのボッチがばれた。あいつらが、お前を狙っている。気を付けろ。
その時、足元が揺れる。ボワーンボワーンと上下に揺れている。
「キャー」
眼鏡さんがその場にしゃがみ込み。
僕のスマホが、宙を舞う。
手を伸ばすが届かない。体をスマホに向け手を伸ばす。
「キャー」
また眼鏡さんの悲鳴。
僕の体が宙を飛んでいる。
ドーン
いたた。
あれ?俺生きてる?
目を開けると土の床。そして見覚えのあるベッド。




