世渡り
0チャンネルは、時代ごとの中編小説です。前の小説は、ここから始まる 未来の話になります。この話を進めながら統合していきます。
後頭部が痛い。何かに殴られたようで、ズキズキと痛い。血は止まっているようで、顔や額に流れる物は無いようだ。
頭から意識を、体に向けてみる。
背中が火照っている、目が開かないのだが、どうやら太陽が当たっているようだ。ポカポカしている。
手を・・動かない。肩は動くようだ。肘も幾分、感覚がある、たぶん動くだろう。手の甲の感覚がない、当然、指の感覚はない。
腰がポカポカしているのだが、尻の感覚がない。いや、尻より下の感覚がない。
このままだと、かなり危ないのでは。
見えれば状況がわかるはずと、瞼に力を送る。何度も瞼を開けようとすると、徐々に瞼の感覚が戻ってきた。瞼に映る太陽の位置から、昼前、おそらく10時頃だろうか。
うっすらと開いた目に入ってきたのは、握りこぶし大の石から小さな物は砂粒程の砂利が広がっている。
ここは、河原か?
耳も感覚が戻っていたようで、すませば川のせせらぎが聞こえる。
とすれば、頭にケガをおって川を流れてきた?下半身に感覚がないのは、川の中だからか?
動かない首をねじるように動かして、せせらぎの聞こえる方に動かす。
やはり、下半身は川の中のようだ。それよりも、着物?着ている物が違うようなのだが・・問題はそれではない。
何とか川から出して、体温を上げないと死ぬ。
肩を上げて、肘を前に。掌は存在しないかのようだ、それでも、二の腕を前に出して、肘で体を上方にやる。
ズッ、数ミリ動いたようだ。死にたくない、肘を前にやり、石に腕がこすれるが痛みは感じない。とにかく、体を川から出さないと。
何時間そうやったのだろう。精も根も尽き果たころ、足首に感覚が戻ってきた。太陽は、真上に位置している、このまま、下半身を温めておけば夕方までに、立てるだろうか。
状況を確認するため、上半身を動かし、下半身を見る。
足の指はまだ川に入っている。
このままだとヤバイな。どうすれば。もう腕で、ずり上がる力はない。
ならば、体を転がすことは出来ないか?川から流れてきたので、下流に向かって斜めに流れ着いている。上流に向かって転がれば。
まともに動かぬ肘と肩を使い、幾度か体を回すことができた。今は、腹を上に日向ぼっこをしている。
当然、後頭部は石に当たっている。ズキズキは、幾分直ってきたのだが、今度は石に押されて、こぶが痛い。
たまらず、体を回す。さっき、回っていた時も石に当たっていたのだろうが、ただ無中で回っていたからだろうか、頭の痛みは感じなかった。現金なもんだな。
やや感覚の戻った、掌をこぶへ。
おおきなこぶに亀裂が入っている。血は、前と同じに流れていない。
そういえば、小さいとき母がたんこぶに手を当てて「痛いの痛いの飛んでいけ」とやっていたな。フッ、なんでもいいさ、飛んでいくのなら。
さて・・母は、確か。掌をこぶに当てて、空に向かって手を動かしていた。痛いモノを捕まえせて、放り投げるようだった・・はず。
この体で、あの動きは出来ない。しょうがないので、そのままジッとすることにした。まだ腹が濡れている、向きを変えたいがどうしようもない。ただ、石は焼けているので、体温を回復のは役に立ちそうだ。
急に暇になったので、動くようになった首を動かして周囲を眺めることにした。
掌を当てながら、上方(頭)を見る。
カラスがいた。
死んではいないようだ。全身が硬直している様子はない。
なぜこんな所に?
理由はすぐに分かった。片足がちぎれそうになっている。
これは、野犬に襲われたのだろう。以前、公園のカラスを襲っているのを見たことがある。音もたてずに近づいた犬は、驚いて飛び上がったカラスの足にかみついた時があった。足のケガは、その時にそっくりだからだ。
痛そうだな、これも飛ばしてやろうか。頭に当てていない手を伸ばして、足の上にかぶせる。ヒャとした感覚があるが、体はふっくらとしているから大丈夫だろう。
首を伸ばしているのも疲れるので、戻して目を閉じる。おしりもふくらはぎもホカホカとしてきた。意識が、遠のく。
コツコツ・・イタ痒い
どうやら寝ていたようだ。
コツコツ
頭をつつかれているようだ。目を開け、首を回す。そこには、カラスが立っていた。
『ようやく目が覚めたか』
カラスがしゃべった。
『そう驚かなくてもよい。ヌシが治癒の術をかけてくれたので、短時間で回復することができた。礼をするため、ヌシをおこしたのじゃが。どうじゃ、話が聞き取れるか?』
「え?カラスが喋っている」
『ワシは、喋ってはおらぬ。ヌシの耳の奥にワシの術を送ったのじゃ。術が振動するのだが、それが耳の奥に届くのじゃ。』
「はぁ・・、耳が壊れたりしないのであれば・・」
『話が終われば、術は解ける。心配することはない』
「そうですか・・ところで、あなたは、なぜ話せるもです?ここのカラスは、みんなしゃべる?」
『いやいや、どこのカラスも話すことは出来ないよ。ワシは特別なのじゃよ』
「・・」
『そう不審がるな。お前、まだ腹が濡れているのはないか、もう頭はいいだろうから、返ったらどうじゃ』
手は、頭から離れていた。改めて、後頭部に手を置くと。こぶが小さくなっていた、そして、割れていていた傷が塞がっている。触れば、ここに傷があると分かるのだが、その両側が盛り上がって傷をふさいでいる。体の向きを変えて。
「あれ、直っている?」
『そうじゃ、ヌシの力で直したのだろ』
「治癒の術?」
『そうじゃ、・・?なんじゃ、自分で直しておいてわからんのか?』
「痛いの痛いの飛んで行け、ですよね?」
『なんじゃそれは?ヌシの術のかけ方か?まあいい。こんな話をしていても時間の無駄じゃ。
それよりも、ヌシへのお礼の話をしよう。ほれ、足も直っておるじゃろ』
確かに、カラスの足は元にもどっていた。かみちぎられた部分も再生したようで、もっともその部分は石灰のように白くなっているが。
「それを、僕が?」
『そうじゃ。ヌシの術じゃ。
さて、ヌシが寝ている間に、ヌシの頭を覗かせてもらった。ヌシも大変な目にあっているの』
「大変?」
『なんじゃ、分からないのか?そうじゃの、ヌシの最後の記憶はどうなっておる?』
「記憶ですか?僕は、・・あれ?僕は誰、名前がわからない。・・・え、それよりどうしてこうなったかですか。
えーと、僕は、高校2年生です。
たしか、学校の行事で、橋を渡っていた?・・ああそうだ、林間学習があって、山奥の学校跡地で合宿生活することになっていました。・・みんなで途中の吊り橋を渡っていたんです。
危険だからふざけて踏み板を揺らしたり飛び跳ねたりしないように、と先生が言っていたのを覚えています。
橋の中程に来た時、スマホが鳴り出して取り出すと。
離れただれか・・隣組のおそらくあいつ。いつもクラスでいじめやいたずらをしているあいつだ。・・が、踏み板の上でジャンプをしたのです。
最初のグワァーンで、スマホを落として。・・運よく踏み板の上に落ちたので拾おうとかがんだら、二回目のグワァーンが来て・・オットットとなり。踏み板を外れないようにスマホを取ろうとしたのですが、体をスマホに向けた瞬間、泳ぐ勢いがついていた体がワイヤーの間をすり抜けて・・キャーとか人の騒ぐ音を聞きながら落ちていく・・のまで覚えています」
『そうじゃな。そこでヌシは、【世渡り】をやったんじゃが、分かっておるか?』
「世渡り?ですか」
『なんじゃ、無意識でやったのか。・・・ヌシは、アニメ?ナノベ?が好きか?』
「アニメはそうですが、ナノベ?ラノベですか?それなら好きです。毎日みています」
『それに合わせて話をすれば、分かりやすいだろうな。
いいか、ヌシには、代々【チート能力】が備わっておるようじゃ。
その【チート】じゃが、発動は本人が強く願うと叶う。発動しなかったら、子孫に受け継がれていく。ただし、一子相伝じゃ。
嫡子が生まれるとそれにすべてが受け継がれる。他の子には、【チート】の因子だけが与えられる。
生きていく間に【チート】の発動のための原資が蓄積されていくのじゃが、これも一緒に相伝されていくのじゃ。ヌシの【チート】には、数百年分が蓄積されていたようじゃ。
ここまでいいかな。じゃ、次のはなしじゃ
この世界は、単一ではないのじゃ。元は一つじゃが、時間と共に分裂する。今は、星の数以上の世界がある。
その世界の一つにヌシが生まれたのじゃ。世界は、常に動いておる。ヌシが橋を渡っておった頃、もう一つの世界と交差したのじゃ。それは、こすれる程に接近しておってな、一時はぶつかるかと心配したのじゃ。
その時じゃ、ヌシが橋から落ちたのは、ヌシは死を覚悟したのだろう。ヌシは、落ちながらラノベを思い描いていたのじゃろう。【チート】を発動させたのじゃ。それが、他の世界へと移動する【世渡り】じゃ。ただ、蓄積が体まで移動させるほど溜まっていないようだ。【世渡り】は、魂だけこっちの世界へ送ったのじゃ。
さて、こっちの世界じゃが、生きている者にはいる事は出来ないのじゃ。条件があって、体は生きているか死んで間もない事。魂は、なくなっている(死んでいる)事。この二つが必要になる。
そこで、その体じゃが。その主は、この川の上流の村人じゃ。
今は、日照りがひどくてな、雨がめったに降らんじゃよ。それでも年貢は、厳しく取り立てられる。どこの村も食う物に困る状態じゃ。
その上に国同士で小競り合いを起こしておる。そのたびに農民は、駆り出されるのじゃ。
その主の村も同じじゃ。食う物に困った親父は、爺と婆に握り飯一つをやって山に置いてきたのじゃ。姉と妹は、とうに女郎小屋に売られておる。兄は、国元から言われて、戦に行ったのじゃが昨日帰ってきたのじゃ。
あとは、分かるじゃろ』
「食い扶持を減らすために、僕を川に連れて行って、石で殴った?」
『うむ。そこで、ヌシに聞きたいのじゃが。その家へ戻るか?』
「また殺される・・」
『ふむ、そこでじゃ。ヌシにお礼をやろうとおもうじゃが。
もう起きても大丈夫だろう。起きて向こうを見るのじゃ。』
「あの人たちですか?」
『そうじゃ。次にこっちの川上を見てみい』
「あの、一段低くなっている村ですか?」
『あの者たちは、そこの村の者じゃ。ヌシの兄と同じ戦に行って、いま帰ってきたのじゃ。
その村は、特殊な所でな。罪を犯した者の家族や家を追放された者たちが暮らしておる。』
「家族に罪が及ぶのですか?」
『罪はないのだろうが、同じ村の中に罪人の家族がいればどう思う』
「罪人が処罰されても、その受けた罪は意識に残って家族をも恨むですか」
『一緒の村にいれば、それも仕方のない事だろうな。大概は、持てるだけの荷物を持たせて、財産を取り上げ村を追い出すのじゃ。行く所のない者たちは、あそこの村を頼って移り住む、ということじゃ。そこは、追放の村と呼ばれておる』
「その村と僕は、どういう関係なんですか」
『その村に、大店でもないがそこそこの店の娘がおる。娘は、店の小僧と恋仲になってな。ばれて旦那に分かれるように言われたのじゃが、娘は頑として言うことを聞かない。では、小僧を始末しようとしたら、『小僧に何かしたら自害する』と大騒ぎになり。困った旦那は、小僧ともその村に送り込んだのだよ』
「はあ?」
『その小僧が、先の戦にかり出されたのじゃ。それで、唯一戦死したのも小僧じゃ。』
「なんと運のない人」
『それが今帰ってきている村人なのだが。ヌシ、その村に行かぬか?』
「僕が?もしかしてその小僧の代わり?」
『そうとも言えるが。ヌシに【魅了の術】をかけてやろう。ヌシのそばにいる者は、【魅了】でヌシに好意的になる。それに娘にも、ヌシに好意を持つよう【魅了の術】をかけておくが、どうじゃ?』
「どうじゃ・・と言われても・・もう行く所がないなら、お願いするしか・・」
俺は、村人の集団の後ろにつくように歩き出した。最初は、いぶかしげに見ていた村人も次第に関心を失っていった。
村に近づくと、気づいた村人が出迎える。村に着くと、それぞれの家へと家族ともなって入っていく。
一人たたずむ女が一人。村の入り口で立っている。僕は、入り口の手前の石に腰かけて、村を見ている。
「あの、うちの旦那さんがいません。ご存じありませんか?」
「戦で亡くなったと聞いています」
「・・・・・」
体が震えている、立っているのもやっとだろう、崩れ落ちるように四つん這いになると、声にならない嗚咽を出しながら震えていた。
しばらく時間がたち・・落ち着いたのか、女は。
「お見苦し所をお見せしました。お礼と言ってはなんですが、お腹はすいていませんか?よろしかったら、たいしたものは出せませんが、腹に入るものをお召し上がりくださいませんか」
僕は、そのまま居座ってしまった。




