4.アイスコーヒーの透明度(1)
毎年3人で行っていた花火大会。当日、集合場所にこそ現れたが、用事があるからとドタキャンして帰った輝。俺と輝と未来は幼馴染みで、子供の頃から一緒に出かけていた花火大会。未来はきっと楽しみにしていただろうに。もちろん俺もまた3人でワイワイできると楽しみにしていた。
それ以来、輝とは会ってはいなかったが、連絡は取り合っていた。ドタキャンの理由を聞いても言葉を濁す輝。未来と付き合っているなら、もっと構ってあげればいいのに。
引っ越し先から数日間こちらに帰ってきている輝。こっちにいる間にゆっくり話そうと、未来と俺の3人で喫茶店で待ち合わせることにした。
俺と未来は先に着いて、輝が来るのを待っている。注文を聞きに来た店員にも、注文は全員揃ってからと伝えた。
しばらくして、カランコロンと音を立てて喫茶店の扉のベルが鳴り、開いたドアからひとりの爽やかイケメンが入ってきた。
「いらっしゃいませ」と声をかけた店員に「待ち合わせなんで」と告げ、輝はキョロキョロと店内を見回す。俺は軽く右手を上げて合図をした。
俺たちを見つけた輝は、「早かったな」と言いながら席につく。
まだ待ち合わせの時間にはなっていないが、全員が揃った。
そこへ店員が輝の分のおしぼりと水を持ってやって来る。
「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりでしょうか」
て、今来たばっかりでお決まりもなにも……。
「あ、オレ、アイスコーヒーで」
輝は即答した。
「で、ふたりは何頼んだ?」
「いや、全員揃ってからと思ってまだ頼んでないよ」
「じゃ、私もアイスコーヒーにしよっかな。なんか大人な感じ」
未来は両肩をきゅっと上げて、ニコリとした。
「で、雄志は?」
輝に聞かれて、少し迷ったけど。
「じゃあ、俺もアイスコーヒーで」
みんながアイスコーヒーを注文する中、まさか俺だけがクリームソーダとは言いづらい。
いつもアイスチョコレートを美味しそうに飲む未来までもが大人のマネをする。
今日も暑い。ホントは冷たいアイスクリームに炭酸をゴクゴク飲みたいのを、グッと我慢した。
「てか輝はいつも炭酸系だったのに、どうしたんだよ。アイスコーヒーなんて珍しいな」
俺が聞くと輝は照れくさそうに、「まあね」とだけ答える。
「ご注文はアイスコーヒー3つでよろしいでしょうか」
店員の問いかけに俺たちは「はい」と答えた。
久しぶりに3人でいろんな話をした。子供の頃の懐かしい話に花が咲き始めた頃に、アイスコーヒーが運ばれてきた。
俺と未来がガムシロップとフレッシュを入れようと手に取ったところで、輝はストローをグラスにさして、飲もうとしている。
「え、何も入れないのか?」
俺は驚いて訊ねた。
「そりゃそうだろ。せっかくのコーヒーにいろいろ入れると味わいが変わっちゃうだろ」
「まあ、ここのコーヒーは美味しいって評判だしね。私も入れるのやめよっ」
え、またまた未来までもがそんなことを。
「雄志はムリすんなよ」
「俺だってアイスコーヒーのひとつやふたつ、ブラックでグイッと飲み干してやるぜ」
何に対抗してるのか、意地になっているのかは解らないが、つい言ってしまった。
輝と未来は笑っているけど、俺はなぜだか無性に腹が立った。子供扱いされているように感じたのかもしれない。
ひねくれているのかもしれないが、俺はふたりのおじゃま虫のような気がした。
いや、何か得体の知れない違和感を憶えた、という方がしっくりくるかもしれない。
「うわっ。やっぱ苦ぇな」
一口飲んで輝は言う。
「ほんと。ちょっと苦いね」
未来も口をへの字に曲げて言った。
俺はアイスコーヒーの入ったグラスを持ち上げ、ストローに口をつける。
ゴクリ。
うわっ。やっぱ苦い。
だけど、俺はムリして一気に飲み干した。
ふたりとも呆れた顔でこちらを見ている。
俺は氷だけになったグラスをゆっくりとテーブルに置いた。
「なあ輝。俺たちに何か言いたいことがあるんじゃないか?」
俺は気になっていたことを聞こうとしている。
「言いたいこと?」
聞き返す輝に俺は頷いた。
「なんか隠してないか?」
「どうしてそう思う?」
「花火大会のドタキャン。これまでそんなことはなかったし、理由を聞いてもはぐらかす。今日も今までとは違うことをしようとして……」
「……まったく。雄志には敵わないな」
苦笑いのあと、輝は話し出した。
お読み下さりありがとうございました。
次話「5.アイスコーヒーの透明度(2)」もよろしくお願いします!




