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2.夏の夜空と淡い恋

「わりぃ。オレ、急用ができちゃって、やっぱ今日の花火大会行けねぇわ」


 あきらが転校して初めての夏休み。親戚の家がこっちにあるから、数日間帰って来ると連絡があった。久しぶりにみんなで会えると俺はとても楽しみにしていた。

 ちょうど大きな花火大会がある。幼馴染みの俺たちは毎年そうしていたように、あきら未来みらい、俺の3人揃って出かけることにした。


 そして今日、待ち合わせ場所に時間通りに3人は揃い、久しぶりだなと再会を喜び合った。

 さあ、それじゃあ行こうかというときに、あきらが右手を顔の前で立てて、すまなそうに言葉を発した。


「は? なに言ってんだ。急用って」


「ホント悪い」


「俺たちとの約束より大事な用事だって?」


「オレもさっき解ったんで」


未来みらいとも久々なんだろ?」


「あ、私のことは気にしないで用事を優先して」


「ほんと悪いな、じゃ」


 あきらは左手を軽くあげ、じゃあなと去って行った。


「おい! あきら!」


 あきらとの花火大会を楽しみにしていたであろう未来みらい

 俺はふうとため息をついて、未来みらいの方を見る。


「せっかく3人揃ったってのにな。未来みらい、どうする?」


「どうするって?」


「花火大会」


「行くに決まってるでしょ。それとも私とふたりじゃ嫌ですかぁ?」


 いたずらっぽい笑みを漂わせ未来みらいは言う。

 嫌なわけないじゃないか。俺は心の中でそう呟いた。


「まあ、悪い虫がついてもいけないから、保護者として付き添うかな」


「なにそれー。保護者ってうけるー。行きたいって素直に言えばいいのに」


 未来みらいはけらけらと笑いながら言った。

 その場しのぎの言葉も未来みらいにはお見通しってわけか。



 駅前から花火大会の会場までは多くの出店でみせがあり、どこもかしこも人だらけ。

 俺たちもどこかで何か買おうかと見て回ったが、人の波に押されて、結局何も買うことなく会場まで来てしまった。


 この花火大会は、俺たちが子供の頃から秘密基地としてよく通っていた『異次元への扉』のある海岸の中央付近が会場となっている。少し離れた浜辺から打ち上げられる花火は、あの洞窟からでも見られるが、せっかくだからお祭りも堪能したいと、いつもこの海岸で楽しんでいる。


「もうそろそろ始まるね」


「ああ」


 花火打ち上げのアナウンスが聞こえ、打ち上げまでのカウントダウンが始まった。

 海のように碧い生地きじに、小さな貝殻の模様が入った浴衣姿の未来みらいは、瞳をきらきらと輝かせて、打ち上げ花火が上がる瞬間までの数字の減少を楽しんでいる様子だ。


「5,4,3,2,1」


 藍色の空に最初の花火が打ち上がった。

 おお、と歓声があがる。


 だんだんと連発が増えていき、その美しさには毎年言葉を失うほどだ。

 ふと横を見ると、未来みらいは花火の色や形の変化に、大きな目を見開いて、くるくると表情を変えながら夜空に舞う大輪のはなに見入っていた。


 そんな未来みらいを俺は見つめている。

 未来みらいの顔が花火の赤や黄色に照らされて、よけいに輝いて見える。

 今なら自分の気持ちに正直になれるだろうか。

 言ってしまいたい言葉を、この花火にのせて口にすることができるだろうか。


「ん? どうしたの?」


 未来みらいが俺の方を向いて問うた。

 

未来みらい。俺……」


 ひときわ大きな音とともに連続で花火が打ち上がる。

 クライマックスの始まりだ。


 俺の言葉は周りの歓声とけたたましい火薬の音にかき消されてしまった。


「なに?」


「いや」


 だめだ。この幼馴染みという関係を、今はまだ壊したくない。

 俺の発する言葉で、未来みらいを困らせたくはない。


 あの花火の光に、キミは誰を映しているのだろう。

 言いかけた言葉を、花火大会の終演とともに心の奥に仕舞い込んで、俺は自分の言葉を打ち消した。するとその言葉は、夏の夜空へと消えていった。



お読み下さりありがとうございました。


次話「3.キミと貝殻と遠い約束」もよろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
未来ちゃん可愛いですね。好きになっちゃうのも分かるなあ。 花火にかき消された「俺」の言葉……。 秘めた思いと幼馴染でいられる関係の間で揺れる。とても「俺」の気持ちが伝わってきます!
2.夏の夜空と淡い恋 読みました。 「なにそれー。保護者ってうけるー。行きたいって素直に言えばいいのに」  ↑くすっと笑えて良かったです。 踏み出したくても踏み出せない、そんなある種のもやもや感が…
 ん~、勘違い系すれ違い?
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