問Valentine.
「先輩は苦いチョコと甘いチョコだったら、どっちが好きですか」
校内のいたるところでチョコの甘い香りは漂ってくる日。いつも通り、部室で作業している先輩に問いかける。
「うーん、やっぱり甘いのかなー。疲れた頭によく効くし」
「理由がいかにも先輩らしくて、なんだか嬉しいです。やっぱ甘いチョコっていいですよね。ところで先輩、今日がバレンタインってこと覚えてますよね?」
「あー、うん。そう言えばそんな日だったような」
先輩は目を泳がしながら答える。確かに先輩はこういう行事にあまり興味なさそうではあるが、全くの無関心というのは流石にどうだろうか。男子は少しでもチョコが貰えるかも、とドギマギしているものではないのだろうか。
「興味がなくても、多少は覚えといてくださいよ。かっこいいし、先輩はチョコもらうタイプじゃないんですか?」
「まさか。女子からバレンタインにチョコもらったのなんて、記憶にないくらい前にあったくらいだな。それにチョコを貰いたい相手は一人だけだし」
「それって、前に言ってた先輩の好きな人ですか?」
「まあな」
そっけなくも、少し照れが混じったような返事。先輩をこんなふうにしてしまう人は一体誰なんだろうか。きっと相当魅力的な人に違いない。
「先輩はその人から貰いたいかもしれませんが、健気な後輩が作ってきたチョコが実はあるんですよ。貰ってください」
ピンクで包装されたものを先輩に押し付ける。
「強制かい。てか、本当に健気だったら自分で言わないんだよ。まあ、ありがたく貰うけど」
「友達に作ったついでです。結構上手く出来たと思うんですけど。今、ちょっと食べてくださいよ」
「部室は飲食禁止だぞ」
「少しくらい目を瞑ってくださいよ。ほら」
先輩は少し躊躇ったあと、包装を解く。中からチョコチップクッキーが顔を覗かせる。
「クッキーか」
「そうです。しかも甘いチョコチップクッキーですよ」
一枚恐る恐る取り出して、口に入れる。咀嚼して喉が大きく動くのが見えた。
「うまいな。これはいくらでも食べれるけど、無くなるのがもったいないな」
「そんな喜んでくれるなら、いくらでも焼きますよ」
「それは流石に申し訳ない。なんだか俺だけ食べてるのは悪いな。貰ってなんだが、ほら」
クッキーを一枚こちらに差し出してくる。そんなことわざわざしなくてもいいのに、先輩の優しさが滲み出ている。手で受け取ってもいいが、どうせなら先輩を驚かせよう。そのままクッキーを口で受け取る。サクサクとクッキーを食べながら、先輩の方を見ると固まっていた。しばらくしてようやく口を開いた。
「い、今、口で受け取ったよな」
「ええ、まあ。ちょっと手が汚れていたので」
「まあそれなら、うん。そういうことにしよう」
いつもはクールぶってる先輩がここまで動揺するのは面白い。でも、実は私もドキドキした。どうってこと無いだろう、なんて思っていたのにこんな感情になるのはなぜだろう。少し頬が火照っている気がするのは気のせいだということにしておこう。
こうして、少し甘くも気まずい雰囲気が流れて今年のバレンタインは幕を閉じた。




