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第5話

「友情としての『好き』と恋情としての『好き』は何が違うと思う?」


 今日も始まる部活時間の先輩の問題。先輩は私に疑問をぶつけた。今日はあいにくの雨だ。窓に雨粒が吹き付けられている。


「それは異性の友達に対して、って考えていいんですか」


「そうだな。どこが違うのかよくわからないんだよな」


 友情としての好き。一緒にいて楽しい? 気が楽? 話しやすい? いや、それは恋でも同じだよね。友達に対しての好意と恋愛的な好きは同じなんだろうか?


「うーん……。強いて言うなら、キスとかそういう恋人らしい行為をしたいか、ですかね」


「本当にそれだけか?」


「だって、一緒にいて楽しいとか気が楽とかは友達だって同じじゃないですか。そうだったら違いなんてそのくらいしか思いつきません」


「まあそうだよなあ」


 あれ、珍しい。いつもみたいに茶々を入れてこない。今回はなんも考えてなかったのかな。


「先輩、いつもみたいに『違うな』って言わないんですか? もしかして先輩なようで先輩じゃない?」


「俺はちゃんと百瀬の先輩だぞー。今日の疑問は自分でも答えがわからないから、百瀬に聞くことにしたんだよ」


 先輩も恋のこととなるとわからないってことか。まあ先輩らしいといえば先輩らしい。相手の心の中を読むのが苦手なのがよくわかる。変わらず雨音が聞こえている。


「今百瀬が言ったやつだと、身体的な満足を得るために恋愛をするっていうことだよな。でも、プラトニックラブっていうのもあるみたいだし、一概にそうとは言えなくないか」


「それもそう、ですね。だけど、精神的な満足って友達じゃ満たされないんですかね」


 精神的に満たされる、っていうのはそもそも何だろう。友達だと満たされなくて、恋人だと満たされるもの。


「独占欲、とかですかね……? その人にとって自分が特別な存在になった、みたいな」


「それは親友とかとは違うのか?」


 親友も特別な存在なのは確かだ。そうなると恋人も変わらないのかもしれない。だとすると


「こうやって話してても、全然違いがわかりませんね。もしかして友達と恋人は一緒なんですかね」


「じゃあなんで付き合いたいって思うことがあるんだ?」


「それは……、安心したいから、とか」


 苦し紛れに脳裏に浮かんだ答えを口にする。


「安心、か。友達には安心感がないのか?」


「いや、友達と恋人だと心をどこまで許せるかが違う、と思うんですよ。心の距離って安心感と大きく関係があるんじゃないかなって」


 我ながら、それなりにいい理論だと思う。今までのよりそれっぽい。


「心の距離っていうのは、まあそれっぽいか。だけど、友達に深くまで心を開いているなんて人もいるんじゃないか?」


「でもやっぱり、恋人と友達だと心を開ける深さに差ができちゃうと思います。無意識に、ってこともあると思いますし」


「だいぶ核心には近づけている気がするな。じゃあ、そうだとすると友達に対しての『好き』と、恋人に対する『好き』は心にもっと近づきたいって思うことっていいのかな」


 心に近づきたいと思うのが恋愛的な好き。それも少し違う気もする。雨音がだいぶ止んできた。


「それもなんだか少し違う気がしますね。なんかしっくりこないというか」


「じゃあまた振り出しか? それとも友情と恋情の好きは一緒なのか」


「友達に対しての好きと恋人に対しての好きは違うと思います。それは絶対です。そこの境界は混ぜちゃいけません」


「お、おう。そうなのか。まあ百瀬がそういうならそういうものとしとくわ」


 うーん、やっぱり今日の先輩はやけに素直だ。何か心変わりするようなことがあったのだろうか。あ、好きな人が出来てそれの影響が出てきたとか。それがとりあえずありえそう。


「今日の先輩は素直ですね。それもいいと思いますけど、あの煽ってくる感じも好きですよ」


「好き、そうか好きか」


 先輩は反対を向いてしまった。なんかダメなことを言ってしまったのだろうか。


「そういえば先輩。好きな人の話してくれるって言ってくれましたよね」


「い、いやあ。それよりも百瀬、そろそろ帰る時間じゃないか。雨も上がったことだし帰ったほうがいいぞ」


 なにかテンパっているような感じで先輩は言う。


「ぜひとも聞きたかったんですけどね。でも時間には逆らえないので帰ります。それじゃあ先輩、また明日」


「また明日な百瀬」


 私は、今日もこの部室の扉を閉める。

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