表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/6

第2話

「なあ百瀬、悪役と悪人の違いってわかるか?」


 私が部活の扉を開けると、目の前の机に座っている先輩が早々に問題を出してくる。今日もまた、一風変わった質問なことで。


「悪役と悪人の違い、ですか。悪いことをしてるっていうことに変わりは無いんですからおんなじようなものじゃないんですか」


「全くよー、昨日俺が言ったことをもう忘れたのか? そんな普通すぎる答えじゃなくてもっと捻って考えろって」


「そんなこと言ってましたっけ。ちょっとよくわかりませんね」


 昨日のことを思い出すのも面倒なので、適当に答える。窓の外には、運動部が走っている姿が見える。


「百瀬ってそんなに頭悪かったけなー。記憶力が鶏レベルじゃねえか」


「残念、成績は学年トップなんですよね。先輩とは比べものにならないくらい頭が冴えてるんです」


「はあー? 俺だって頭悪いわけじゃねえよ。真ん中だわ、真ん中」


「そんなに誇らしげに言わないでください。なんだかみっともないですよ」


 どうしてそのくらいで威張れるんだろうか。むしろそれがすごい。……尊敬はしないけど。自分の定位置まで歩いていく。


「そんなこと言うなよ。これでも頑張ってるんだから。っていけないいけない、脱線しすぎた。それで悪役と悪人の違いだがね」


「はい」


「RPGでいう魔王と勇者だと思うんだよ」


「はい?」


 魔王と勇者ってあの魔王と勇者だよね。世界を征服しようとする奴と世界を守る奴。魔王は悪人っていうのはわかるけど勇者も?


「あの、勇者は悪役じゃないと思うんですけど」


「おっ、その通りだ。勇者は悪人だ」


「そうじゃなくて、勇者は正義側の人間だと思うんですけど」


 先輩がややこしくなることを言っていたが一旦置いておこう。


「何言ってるんだ。勇者は悪人そのものだろう」


 手を広げながら語り始める。やけに熱が入ってんな。……いや、いつもだった。


「まず魔王っていうのは、世界を征服するために攻め込んでくる。勇者とか国の住人から見て悪、という役になりきっている。これは倒されるまでずっと変わらないことだ。ここまではオッケーか?」


「まあ、なんとなくは」


 ここまでの先輩の言ってることはなんとなくわかる。逆に言えばここから先輩の劇場が始まるんだろう。


「じゃあ勇者はどうだっていう話だ。確かに悪役である魔王を倒してくれる。だけど、その道中で他人の家に侵入して漁ったりするんだぞ。攻め込む悪役を倒すために動く正義を名乗るような奴が、人んちのものを盗っていくなんて犯罪行為をしていいのか? いいやだめだ。つまりこいつは、正義という大義名分を得てやってはいけないことをしてる。悪人というしかないだろう」


「なんとなく先輩の言うこともわかります。でも、ゲームなんでいいじゃないですか」


「それは言ったらだめだろうが。で、この話をまとめると」


「まとめるとかあるんですね」


「文句が多いぞー、どこぞの後輩さんー。まあつまりは、芯は貫くべきってことだよ」


 ふふんっ、という擬音が聞こえてきそうな感じで言う。


「えっと、どこからその結論が?」


「いや、だから。しっかりと相手から見て悪という役を貫いてる魔王と正義っていう芯をぶらして犯罪行為をする勇者の話から」


「それってそんな話だったんですね」


「しっかりと考えて聞けよー」


 はーい、と適当な返事をする。このちょっと呆れた感じになるのがいつ見ても面白い。


「……あの日、芯をぶらしちまった俺は悪人なんかな」


 先輩がポツリとこぼす。お決まりの独り言。いつもは聞き取れないが、今日は聞き取れた。いや、聞き取った。


「あの日って出会った日のことですかね?」


「今日は聞こえてんのかよ。ああもう、そうだよ。その日のことだよ」


 先輩と初めて会った日。部活見学とかで、みたいな普通の出会いではない。あの日、私は先輩に助けられた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ