決戦
「卒業パーティーは始まってるぞ」
「知ってるわ。でも、今行ってもろくな事にはならないでしょう?」
「確かにな……巻き込まれるくらいなら放っておくほうがいいか」
彼に呆れられていないだろうか。
そう思っていた私は、嘆息しながらもこっちを見て彼が笑ってくれる事に安堵する。
「あれがこの国の未来だと思うとゾッとする」
「流石にまだ不敬よ」
「まだか」
「えぇ、まだ」
多くをやらかした彼らは、既に後戻りは出来ない。最後にこの晴れ舞台で散ることは慈悲か、それとも……。
「それで?こんな日にわざわざ呼び出したのはどういう用件だ?」
「そう、ね……あなたはこれからどうするの?」
「これから?」
「色々、誘われていたみたいじゃない?」
混乱が起きていたとはいえ、最高峰の学園で優秀な成績を残していた彼は引く手数多だ。
近衛になるもよし、王国騎士団に所属するもよし。むしろ、次期騎士団長の有力候補だった方が現在進行系で醜聞を重ねてることを考えると、伯爵家次男だとしても彼が目指すことも可能だろう。
「わざわざうちの領地に戻らなくてもいいのよ」
「……笑えない冗談はよせ。殿下達じゃなくて、君が婚約破棄するのか」
「考えては、いたのよ。元々」
才能のある彼を、幼い頃からの付き合いというだけで婚約した私に縛り付けて良いのか。
王族、貴族に産まれた義務を忘れて、自分勝手に振る舞う殿下達は愚かで救いようがないと思う。
けれど、
『婚約者というだけで、この関係を続ける事に意味を見出せない。私は心の望むままに生きていたい』
その言葉は、確かに私の胸に突き刺さったのだ。
「国が浮き足立っている今なら、お咎めも少ないでしょう。あなたなら、もっとその才能を活かせる地位にいけるわ」
「落ち着けよ……今の君は、学園の異様な雰囲気に呑まれているだけだ。疲れているんだよ。今日はもう一緒に帰ろう?」
「臆病な私は、こんな時じゃないと言えないもの。私は生まれ育った領地が大好きだし、守っていくことに誇りを持っているけれど、本来あなたが得られるものを考えると……とてもじゃないけれど、比べられないわ」
彼は、何を得られただろう?
相応しい地位に、名誉、きっと想像もつかない程のものを得られたに違いない。
……私では、同じものを用意することは出来ない。
「もういい、分かった。……続きはお茶を飲みながら聞くよ、今は帰ろう」
「それでも!」
彼が目を見開いた。
当然だ、私自身ですら声の大きさに驚くくらいなのだから。
「それでも、私は、あなたが好きよ」
自分の声が震えているのが分かる。
彼が私を大切にしてくれているのは感じているけれど、私は私に、自信を持てない。
「幼い頃に結ばれた婚約だけど、私はこの先を、大好きなあなたと一緒に過ごしたい」
私は臆病で卑怯だ。
こんな風に言われたら、彼が断りにくいのも分かってる。
けれど、今なら学園の雰囲気に呑まれたと言い訳が出来る。……私も彼も。
「だから、これからもっ!?」
「待った。待って、ちょっと今は止まってくれ」
まだまだ言いたいことはたくさんあるのに、大好きな人に抱き締められて、何も言えなくなる。
「……あの前置きからこんなに熱烈な告白してくるとは考えてなかった」
「ご、ごめんなさい……その、考えが中々まとまらなくて」
「本当に婚約破棄されるかと思った」
「一応、そうなってもいいように覚悟はしてきたから」
「絶対にしない。……俺だって君のことが好きなんだ」
そう彼から告げられて、嬉しく思うと同時に勝手に不安になっていたことへの罪悪感を感じてしまう。
「不安になるのは当然だろ」
「え…」
「大好きでも、大切にしてても、むしろ思いが強ければ強いほど不安になるんだ……俺だって君と同じだよ」