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窓辺の備忘録  作者: 瑞穂
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青春






体育館横の流し場。そこで黒板クリーナーのフィルターを洗っていた。掃除当番の中でのジャンケンに負けて。


グーで一人負けして「これだからジャンケン制は嫌なんだ」と教室にいる友達に愚痴りつつ行ったそこ。チョークの粉まみれのフィルターになるべく触りたくなかったので、小さな青いバケツに入れたフィルターを水圧のみで洗う。


静かな体育館横に響く水の音。青いバケツの中で水圧に踊らされるフィルター。ふと顔を上げて横を見る。とても青いとは言えない空と体育館、校舎の壁。エアコン関連らしい大きな機械が見えた。


部活が始まる前の時間なので体育館からは、学校からは本当に何も聞こえない。蛇口から飛び出る水の音しかしない。まるで世界に私一人しかいないような感覚。そんな私は制服を着ている。


ふと思った。なにこれ、めっちゃ青春っぽい。


来週から掃除担当区域が変わるのでもうここにフィルターを洗いに来ることはない。ジャンケンに負けなければ、ここに他のクラスの掃除当番がいたら。ここに一人で立っていなかったら。この景色は見れなかっただろう。とても私には描写しきれないほど素敵な景色だった。


でも多分明日には忘れてる。将来この場所はぼんやりとしか思い出せない場所となっているだろう。壁に貼ってある張り紙も、薄汚れたクリーム色の流し場も。すごい勢いで水を出す蛇口も。


泡沫の夢みたいだ。デジカメ、持って来ればよかった。ここの景色を写しとっておきたい。あぁ、でもこの良さは写真に閉じ込められるものではないのだろうな。


今生きているこの現実は、今の私にとっては日常に過ぎない。でも未来の私にとってはかけがえのないものに、もう二度と経験できないものになっているのだろう。


制服に袖を通せるのもあと数ヶ月しかない。昨日入学したばかりな気がするのに、卒業が近づいてきている。


卒業の前の大学受験に気を取られ過ぎて、この日常を疎かにしすぎないようにしたい。実感があるわけではないけれど、このかけがえのない日常を、青春を作れるのは今だけなのだから。

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