背景の製造者
次の電車が来るまであと十分。丁度駅に着いた瞬間、電車が発車してしまった為に最大時間待たなくてはならなくなった。暇である。流石に学校の最寄駅でスマホを出す勇気はないし(私の通う学校はスマートフォン使用禁止の校則がある)カバンの奥底、体操着の下敷きになっている文庫本を出すのも面倒だ。どうしようかなぁ。そう思ってぼんやりと上を見上げ、目に入ってきた部品。
それはダンベルのような、カタカナのエを縦に伸ばしたような部品だった。電車に電気を供給する電線と鉄骨を繋いでいる。それを見て思い出した。昔それを製造している動画を見たことを。いつどこで見たのか、どんな内容だったか。全て忘れてしまったけれど、確かに見た気がする。
あんな小さな背景の一部になっているものでも製造者がいるんだな。あまり考えたことがなかった事実は、当たり前のことのはずなのに新鮮さを帯びて私の胸に落ちてきた。
今、私の視界に入っているものには全て製造者がいる。機械による大量生産品だとしても、その機械を作った人がいる。何十人、何百人の人達が関わって、試行錯誤されて作られたものだ。
ただの背景にとんでもない重さが加わった気がした。多分明日にはこれを考えた事を忘れてただの背景に戻っているんだろうけど。
……世の中って案外繋がっているのかもしれない