表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/13

7.兄の片恋

「それで、上手く誘えましたか?」


 立食形式で並ぶ、多種多様な料理を選びながら、"モヤ"さんが兄に問いかけました。


「何のことだ」

「ロザンナ嬢の話です」


 ブフーッ。

 "モヤさん"から出た令嬢の名に、兄はグラスを口から外し、思い切りむせ込んだようです。


「今日の彼女は、萌黄(もえぎ)色のドレスが瑞々しいですね」

「おっ、おま、お前っ……」


《なんっ。お兄様サイテー! "モヤさん"を残して、別の女性に声を掛けに行かれてましたの?!》


「次の約束を取り付けたのでしょう? せっかくバルコニーで二人っきりだったのですから」


《まあああ! "モヤさん"が囲まれている時に姿をお見せにならないと思っていたら、そんなことを?!》


 サイテー。サイテーです、お兄様!! 大切な"妹"を放置して、なんたること!!


 だからこちらの様子に気づかず、駆けつけても来なかったのだわ!!

 私、激怒しますわよ!


「えっ、まさか進展なし? 一体何してたんですか!!」


 ほら、"モヤさん"も怒っています!


 怒って……。

 あら? 非難はしてますけど、方向が違いますわね?


「そうは言うがな。男にはそれなりの段取りというものが──」

「ありません。必要なのは勇気だけです」


 プイッと"(モヤさん)"が、そっぽを向きます。


「お前のことも気がかりだったんだ。いくら"しばらくひとりに"と言われてもな」


(えっ? お兄様、"モヤさん"に(うなが)されて(そば)を離れましたの?)

 

 そういえば、何かやりとりしていたような。


 ああっ。言ってましたわ、確かに。

 お兄様を追いやったので、お手洗いかとばかり……。


 いろんな意味で、私の頬が染まります。


《ごめんなさい、お兄様。サイテーなんて言ってしまって。──"モヤさん"、もしかしてわざと?》


 兄に想い人との逢瀬のチャンスを提供し、自分は自分のペースで令嬢方に応対するため?


 少し拗ねたような横顔は、"私"のもので。"モヤさん"の心が読めません。


「案の定、俺のいない間に何かあったようだし」

「案じてくださったことには、ありがとうございます」


 "モヤさん"が言いました。


「でも、さっさとくっつけば良いのに。チェーヴァ侯爵家の長女。母君は現王の妹。血筋、身分、人柄揃って、ヴァレンティ次期当主の伴侶として、申し分ない相手のはず。手をこまねいていては、いつ何時(なんどき)、触れたくとも触れられない関係になるかわかりませんよ」


「だが、彼女は潔癖なことで有名なんだ。結婚を申し込んだ相手は、ことごとく玉砕している」


「……どうしてロザンナ嬢が婚約相手の席を空けているか、気づかれてますか?」


「気に入る相手がいないからだろう?」


「ある相手からの言葉を待っている、と私は思っています。きっと相当に焦れながら」


 "モヤさん"は、肩を落として溜息をついた後、真摯に兄を見上げました。


「私はお兄様に恩義を感じています。様々な冤罪の裏を調べたい私に、たくさんの軍資金を融通してくださった」

「あれは、お前が巻き上げたんだろう。父上からいただいているお小遣いがあるはずなのに」

「巻き上げたなど、人聞きの悪い。わけあって、そちらは手をつけたくないだけです」

「俺から取るのは良いのか」

「だって、正当なゲームの勝敗結果ですから」


 そうなのです。"モヤさん"は、私の資産には手を触れずにいてくれているようでした。


(身体を譲った今、すべて"モヤさん"のものなのに。好きに使ってくれて良いのに)


 私にはもう、使う手立てもないのですから。

 


 自由に動かせるお金を要したらしい"モヤさん"は、公爵邸に来て間もない頃、兄にカードゲームを持ちかけました。


 はじめは「カードは紳士の遊びだぞ」と難色を示した兄でしたが、家に閉じこもってばかりの"私"の、気分転換になればと思ったようです。


 "モヤさん"の誘いに応じて、賭けありのカードが始まりました。


 手持ちのない"モヤさん"からの最初の掛け金は、"負ければ兄に、(みずか)らお茶を()れる"というもの。


 使用人ではなく、妹からのお茶。

 兄は笑いながら応じたのですが──。



(あの時は、"鬼を見た"と思いましたわ……)


 

 ガンガンに(むし)り取られていく兄。


 兄は決して弱い方ではありません。"モヤさん"の連勝ということもなかった。

 けれど"モヤさん"は、ここぞという勝負時での賭け方が上手く、初め少額だった金額は、あっという間に膨れ上がって、結果、兄は大敗を喫したのです。


 申し訳なさそうに、サービスでお茶を淹れていた"モヤさん"が忘れられません。

 そんな"モヤさん"が用意したお茶は。


 "──爽やかな口当たりに、上品で甘い香り。(うま)いな?"

 "はい。これはロザンナ・チェーヴァ侯爵令嬢、お気に入りの茶葉ですから"

 "ゲホ、ゲホッ。なっ──!!"



 あの時初めて、私は兄の"意中の相手"を知ったのでした。


("モヤさん"はお城で霊として過ごしていたから、知っていたのでしょうか)


 先の伯爵令嬢のお名前、侯爵令嬢のお名前。

 "モヤさん"は各貴族家の系譜にも詳しく、さらに私の知らないことまで把握しているようです。


 それが"霊"の情報力なら、私はまだ何も出来ていないということに。


(この体質(?)を生かして、私にも何か出来ることはないかしら)


 ぼんやりと考えていると、ふいに"モヤさん"の声の調子が変わりました。




「私は、"お兄様"に幸せになって貰いたいのです」

「リーナ……?」


「"好きな人"と結ばれない辛さは、身に染みていますから」

「……あ……」


 切なそうな"(モヤさん)"の表情の中に、兄はダヴィド殿下を思い描いたのでしょう。

 かける言葉を失ったかのように、眉尻を下げて"私"を見ました。


 私も。去来する想いに、胸が苦しい。


(もちろん(フィオリーナ)にとっては、ダヴィド殿下。でも"モヤさん"にもそういうお相手がいらしたのね)


 それなのに思いを成就させることなく、"霊"になった。

 どんなに悔しかったことか。



「というわけで、ご協力します。王妃様から茶会の招待状が届きました。ロザンナ嬢も来るはずなので、お兄様のアピールをしておきましょう」


 ぱっと顔をあげた"モヤさん"が宣言しました。


「次の社交は、王城へ行きます」




 予告通り、本筋に大きく関係ない回でした。

 次回の半分あたりから王城編に突入する予定です。まだ0文字だけど。

 やっとカルロも出るし、フィオリーナが彼女ならではの役割を担っていくはず…たぶん次の次くらいで…。ズレ込まなければ、きっと。(今回ズレ込んだ。本当はラウラも出す気だったのに)


 前話、読みにくい箇所や足らない箇所あったかと少し手を入れています。

 ライブ感覚で投稿してるので、後からの手直しが入っている今作品。

 完結してから読むと、きっと投稿直後より読みやすくなっているはず…(笑)。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
良かったらコチラもよろしくお願いします!

・▼・▼・▼・▼・▼・
【異世界恋愛シリーズ】(20作以上リンク)
・▲・▲・▲・▲・▲・

本作の短編版はコチラ↓(8112文字)

『冤罪で投獄ですって?! 地下牢の地縛霊に身体を譲って、逆転を狙った公爵令嬢のお話。』
― 新着の感想 ―
[良い点] ロザンナ・チェーヴァ侯爵令嬢♡ >チェーヴァ侯爵家の長女。母君は現王の妹。 モヤさんには従姉妹だし、そりゃ、焦れったいと同情するよねえ。 [気になる点] >「ありません。必要なのは…
[良い点] これはお兄様と侯爵令嬢は、両片想いということでしょうか、胸がきゅんきゅんしますね! 早くお兄様の方から婚約の打診をしないと!(ふんす) [一言] お兄様、優秀そうなお方なのに恋愛には奥手で…
[一言] お兄様のニブチンめ( ˘ω˘ )
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ