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11/13

11.予定に備える

 ロザンナ嬢が訪れる日に備え、"モヤさん"が花や茶器、使う部屋、すべての手配を済ませつつも、積極的に茶会や夜会に出席していた日々。


 公爵邸では変化がありました。


 私、フィオリーナに宛てて、つまりは"モヤさん"に宛てて、たくさんの手紙が届くようになったのです。


 ラウラが部屋に運んだそれらに目を通し、"モヤさん"がしきりと首をひねっています。


「これは、本当に"フィオリーナ"宛てに届いたのか」


「そうですが……、いかがされました?」


 一通り読み終えた"モヤさん"が、控えるラウラに疑問を呈します。


「内容が……、まるで恋文なんだが」

「まあ! 大人気ではありませんか。さすがお嬢様です!!」


「いやっ、でも、差出人は全員、ご令嬢の名前になってて……」


 困惑するように言う"モヤさん"に、ラウラが真剣な表情で返します。


「お嬢様が、誰彼構わず(たら)し込まれるからでしょう」


「!? まさか、今の私はじょ……! とにかく、そんなことはしていない」


「同性がゆえに警戒なく、ハードルが下がったと考えられますが」


「えぇぇ……」


 そんなことがあるのか、と"モヤさん"が呟いています。


 そうなのです。

 私も積まれた手紙を見ましたが、いろんな席でお会いしたご令嬢たちから、様々な香りを添えて、綺麗な封筒が送られて来るのです。


 中には、アルフレーダ・サンチェス伯爵令嬢の名までありました。

 公爵邸の夜会で、"(モヤさん)"に最後まで絡んだ、度胸のあるご令嬢です。何やら心境の変化があったようです。


「お返事はどうされますか?」


 便箋や筆記用具を用意する必要があるため、ラウラが尋ねます。


「どうって……。"お姉様になってください"の返事なんてどうすれば……。うーん、フィオリーナの味方が増えるのは良い事、なの、か?」


 "モヤさん"が迷っている姿はあまり見ないのですが、決めあぐねるように悩んでいます。


 た、確かに私も、もし「お姉様になってください」と申し出られても、即答は出来ない気がします。


「よし!」


 "モヤさん"が顔を上げました。


「後にしよう」


「よろしいのですか?」

「身体を動かしてたら、名案が浮かぶかもしれない。ラウラ、用意を」

「……そういうところだと思います。ご令嬢方からのお手紙は」



 そう。"モヤさん"は最近、護身術を身につけるため、ほぼ毎日、鍛錬の時間を()いているのです。

 王城でベルタ嬢のことがあってから、発心(ほっしん)したようです。


 不埒な(やから)を迎撃出来る範囲で、"(フィオリーナ)"の身体に護身術を覚え込ませるのが目的らしく、訓練の相手役にはラウラが当たっています。


 驚きです、ラウラが体術に長けていたなんて。


 "モヤさん"にはどうして見抜けたのでしょう?

 生前、武芸に秀でていた方だったからでしょうか。そういう方たちは、互いにわかると言いますし……。


 モヤさんがかつて武芸に長けていたと感じたのは、初めての訓練の日、一連の手順には迷いがなかったからです。

 "私の身体"がぎこちなくて難儀していたようでしたが、滑らかに動くよう念入りにほぐし、真剣に何度も型を繰り返す姿には、敬意を覚えました。

 そんなモヤさんを、ラウラが的確にサポートします。



 ラウラは、私の専属侍女退職の際、後任探しを相談したダヴィド殿下から紹介されて、公爵邸に来た女の子でした。

 "高位貴族に仕えていた経験があり、よく気が回るから"というお墨付き通り、本当に鋭敏な子で、何でも察し、先回りして動いてくれるので、私も心強く頼りにしていました。

 

 ただ……。私に対していた時と、"モヤさん"が入った"私"に対する現在(いま)とでは接し方が違う気がするのですが……。

 それは"モヤさん"が無茶振りするからかも知れません。


 夜食を食べながらドレスがきつくなってきたと発言した時は、ラウラが激怒したものです。

 "胃が小さいんだ、一度に食べれないから仕方ないんだ"と、泣いていた"モヤさん"も憐れでしたが。


 ドレスがきついという言葉にショックを受けつつも、なんとなく、"モヤさん"が可哀そうになって心の中で謝ってしまったものです。私は少食が常だったので。


 そして今回の鍛錬。


 万一に備えて鍛えると"モヤさん"が言い出した時の、ラウラの眼光。

 怖かったです……。

 子ぎつねちゃんもパタリと耳を伏せたくらいでした。



 ラウラはまず、追及しました。

 まるで"モヤさん"が何か企んでいるかのように。


「お嬢様?? もしや危険に(さら)されるご予定がおありですか?」

「危険に曝される予定? 予定ってなんだ?」


「いえ……、何より()()()()()()()()()()()ですので、そういった可能性は極力避けられるものとばかり……」


「勿論。そうならないよう立ち回るつもりではある……。でも、状況次第ではわからないじゃないか。もしもの時に、今のままではあまりに攻撃力が無さすぎる」


「攻撃? 防御ではなく、攻撃? フィオリーナ様の白い手が潰れてしまいます」

「しないっ! それはしない! さすがに固い指輪を嵌めておこうかなんて考えてない」


「検討されたのですね? そうですね? 受け流して逃げる範囲にとどめてくださいませ! トドメは私が()しますから」

「物騒なことを言うな! 殺してしまったら、聞くことも聞けないだろう?!」


「はっ! お嬢様、フィオリーナ様の品格が!」

「はっ!! コホン。とにかくこういうのは反復だから、咄嗟(とっさ)に体が動くようにしておかないと。──あなたがいないことも多いでしょう? ラウラ」


 急にすまし顔を作った"モヤさん"に、ラウラの切り替えが追いつけなかったようです。

 返す言葉がつかえます。


「そ、そうですね。私では入れていただけないお席もありますので」


「単身で動く時もありますからね。ええ。──と、いうわけで」


 うんうんと頷いた"モヤさん"が、にっこりと微笑みました。


「初心者ですから、優しくね」


 ──ラウラは、押し切られたのです。



 9、10話と11話では急にトーンが違うのですがっ。

 うん、全話書き切ってから見直す(笑) そうする。


 ちなみにラウラについては感想欄でほぼ見抜かれていましたが、いずれ詳しく触れられたらなと思います。でもたぶん後半パート。

 前半パートは桃の回まで。

 ふわっとした予定では、次話で兄とモヤさん再び、次の次でロザンナ嬢、そんなイメージでいます。

 

 あとどこかで短編投稿執筆のため、こちらを3日くらいお休みしようかなと思っていますので、更新してない日は短編やってると思っててやってくださいませ~。

 お付き合い、いつもありがとうございます(*´▽`*)/

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― 新着の感想 ―
[良い点] >ラウラは、私の専属侍女退職の際、後任探しを相談したダヴィド殿下から紹介されて、公爵邸に来た女の子でした。 あ、は~ん。なるほど! そういうことだったのね~。 そりゃ、話が早いはずだわー…
[一言] スールキターーー!!!!(大歓喜)
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