8話 勇者の弟子と魔力
『終焉の魔物』出現まであと一週間と迫っていた。
私たちはセナ様に呼び出されて、魔法庁のセナ様の執務室に集まっていた。
呼ばれたのは、ジオ様と私、そしてアン殿下だ。
「悪いね、集まってもらって。今日はララちゃんの事で大事な話があるんだ」
「私の事ですか?」
「うん、ララちゃんの魔力の話だよ」
「私の魔力?・・・私、魔法は使えませんけど?」
「ララちゃんは『魔力』ってなんだかわかるかい?」
「えーと、魔法を使うのに必要なもの?ですかね」
「そうだね、人の体内から発生する魔法を使う源となるエネルギーだね。そのエネルギーはどうやって作られるか知ってるかい?」
「うーん?食べ物から?ですかね?」
「ははは!普通はそう考えるよね。でも本当のところは今だに解明されていないんだ」
「そうですよね、食べ物だったら私けっこうしっかり食べてますから」
「そこで僕は前から一つ仮説を立てているんだ」
「『魔力』っていうのは人の『運命』によって発生するエネルギーだと考えてるんだ」
「『運命』が『魔力』なんですか?」
「そう、『因果』と言ってもいいかな? 人って生まれや境遇、仕事や人間関係など様々な因果関係を持っているだろう?それらが複雑に絡み合って生きているわけだけど、そういった、事象から『魔力』というエネルギーが発生しているというのが僕の立てた仮説なんだ」
「・・・よくわからないですけど?・・・」
「裏付けとしてわかっているのが、重要な立場にいる人とか、複雑な人間関係を持っている人、重い使命を背負っている人の方が魔力が強い傾向にある。逆に平凡な人生を過ごしている人は魔力が少ないんだ」
「あっ!たしかにそうですね? 王族や貴族、重要な役職についてる人に魔力が強い人が多いし、ジオ様もそうですよね?」
「俺のは少し特殊だがな」
「平民でも変わった境遇に生まれ育った人は魔力が強くなる傾向が強いんだ」
「そう考えると納得いく気がしますね」
「おそらくセナ様のおっしゃる通りです」
アン殿下が話し始めた。
「わたくしの知る限りですが、運命の複雑な人ほど魔力が大きいのは間違いないです」
そうか!アンは人の運命が見えるから!
「そう、そこで不思議なのがララちゃんの存在なんだよ」
「私がですか?」
「そうですよね?殿下」
「はい、わたくしの見立てではお姉さまは誰よりも複雑な運命を背負っていらっしゃいます」
「そう、ララちゃんの周りには複雑な因果律が集まっている。つまり僕の考えが正しければ、君の中では常に大量の魔力が生成されていることになるんだよ」
「でも魔法は全く使えないんですよ?」
「それはまた別の問題で、君の体質によるものなんだ」
「魔力が流れにくい体質ですよね?」
「そう、人の体には個人差があって魔力を通しやすい体質と通しにくい体質があるんだ。これは『魔力伝導率』の違いによって決まるんだ」
「『魔力伝導率』ですか?」
「魔力伝導率が低い人は魔力が少しづつしか流せないので下級魔法しか使えず、魔力伝導率が高いと一度に大量の魔力を放出できるので上位の魔法が使えるんだ」
「調べた結果ララちゃんの体は魔力伝導率がほとんど、というか完全にゼロなんだよ」
「それって完全に魔法が使えないって事ですよね?」
わかっていた事だけど改めて言われるとちょっときついかな?
「うん、そうなるね。でも問題はそれだけじゃないんだよ」
「まだ何かあるんですか?」
「魔力ってその人の因果律によって体内で常に生成され続けているんで、いずれその人のキャパシティいっぱいになってしまうわけなんだけど、これを『魔力容量』と呼んでいる。普通は魔力が『魔力容量』を超えると体外に自然と放出されてしまうんだ」
「ほとんどの人は因果律による『魔力生成量』と『魔力容量』そして『魔力伝導率』の三つが大体比例している。『魔力生成量』が大きい人ほど『魔力容量』も『魔力伝導率』も高くて上位の魔法が使えるわけだけど、余った魔力も大量に放出されているんだよね」
「自然放出量も体の『魔力伝導率』で決まるから、魔力が多い人は放出量も多いし、少ない人は放出量も少ないんだけど、たまに君のように『魔力生成量』は大きいのに『魔力伝導率』が低くて放出量が少ない人もいるわけだ」
「他にもそういう人いるんですね」
「うん、これまでに何人かはいたね」
「今はいないんですか?」
「・・・ほとんどの人が幼くして亡くなっているんだよ」
「どうして?・・・ですか?」
「体内に魔力がたまって許容量を超えた状態が続くと中毒症状を起こしてしまうんだ。余剰魔力で自分の体の組織が破壊され、病気になったり、精神状態がおかしくなって幻覚を見たり発狂する事もある。そしていずれ死んでしまうんだ」
「そうならないために常に魔法や身体強化を使い続けたり、魔結晶や魔道具に魔力を注入したりして体内魔力をためないようにするわけだけど、魔力伝導率が低いとそれも追いつかなくなる。しかもその状況が因果律を高めてさらに魔力生成速度が増していくという悪循環に入る。いずれ魔力放出が追い付かなくなり、死んでしまうんだ」
「・・・私、もうすぐ死んじゃうんですか?」
「いや、今の話って、『魔力伝導率』が極めて低いけどゼロじゃない人の話なんだよね。ララちゃんは『魔力伝導率』がゼロだから、そもそもこれまで魔力を全く感じないって言ってたでしょ?」
「魔力伝導率がゼロの人はどうなるんですか?」
「これまでに魔力伝導率が完全にゼロの人がいたって記録はないんだよ。だからわからないんだ」
「・・・それって病気にならないんですか?」
「君の体は魔力を一切流さないから魔力の影響で体の組織が破壊される事もないんだよ。だから病気にもなってないんだと思う」
「えーと? 今の話をまとめると、とりあえず私は今まで通り魔法が使えないただの人として生きていればいいって事ですか?」
「うん、表向きはそういう事になるね、ただ、この状況から推測できるのはララちゃんはおそらく上級魔法士並みの『魔力生成量』を持っているにも関わらず、生まれてからこれまでその魔力を一切外部に放出せずに全て体内に蓄え続けていることになる」
「自分の中にそんな魔力があるって感じが全然しないんですけど」
「うん、そんな途方もない『魔力容量』なんて聞いた事ないし、ありえないはずなんだよ。だからこの仮説が根本的に間違っている可能性も十分にあるんだ」
「でも今後何が起こるかわからない。もし変わった事があったり、気になる事があったらすぐに相談してほしいんだ」
「わかりました。気を付けておきます」
「そしてこれは僕の勘だけど・・・もしかしたらこれは『終焉の魔物』に対抗する切り札になるかもしれない」
「それって・・・私の魔力量の事ですか?」
「そう、ありえないとは思うけど、もし本当にララちゃんの中にそんな途方もない魔力が蓄積されているとしたら、ジオ君が命をかけなくても『終焉の魔物』を討伐できるかもしれない」
「どうやればいいんでしょう?」
(あったんだ!可能性が!こんな身近に!)
「いや、もしかしたらの話だし、全く方法もわからないんだ。だからこそ何かきっかけが無いか意識しておいて欲しいって事」
「わかりました!がんばります!」
何をどう頑張ればいいんだかわからないけど、可能性があるならかけてみたい!




