6話 勇者様と勇者の真実
これ以上の話は勇者の後継者にしか伝える事が出来ないという事で、屋敷に帰ってから私だけがジオ様の執務室で話をしてもらう事になった。
「『終焉の魔物』は今のままの俺では倒す事は不可能だ」
「ジオ様でもですか?」
「『終焉の魔物』は『上級の魔物』と格が根本的に異なる。この世界全てを滅ぼす事ができる存在だ」
「では、どうやって?」
「『終焉の魔物』を倒すためには・・・勇者の『真の力』を開放する必要がある」
「『真の力』ですか?」
「勇者の『真の力』とはこの世界の理そのものだ。『真の力』を開放した勇者はこの世界の全ての現象を自分の意志で行使できる存在となる」
「それって・・・まるで『神』じゃないですか?」
「そうだ、その時『勇者』はまさに『神』となる。ただ、あまりにも強大なその力は人の肉体におさまるものではない。力の開放によって勇者の肉体は消滅し、世界と融合した意識だけの存在となる」
(肉体が・・・消滅?)
「『終焉の魔物』とはこの世界の『歪』だ。だが世界の一部でもある。世界の全てを操る事が可能になれば『歪』も修復する事が可能となる」
「しかし、それはほんの短い時間に過ぎない。次の瞬間には肉体を失った意識はこの世から消滅する」
「そして、勇者の意識が消滅した後、その力は次の勇者に委ねられる」
「・・・これが、『勇者』と呼ばれているものの正体だ」
「そんな!死ぬ直前に一瞬だけ『神』になれるなんて・・・」
神の力でしか倒せない『終焉の魔物』を他の方法で倒せるのだろうか?
「そして、勇者の力の継承の方法だが・・・」
「それほど難しい事ではなかった」
「勇者の肉体の組織の一部を後継者が体内に取り込み、それと一緒に勇者の力をその対象に受け渡すように念じればいい」
「肉体の組織って・・・何ですか?」
「血でも皮膚でも髪の毛でも、勇者の肉体に由来する物なら何でもいいそうだ。俺の場合は血を飲まされた」
(うーん?ジオ様の血を飲むって、ちょっと危ない感じでぞくぞくするけど、ジオ様と一つになれるようでもあり・・・)
私の頭の中では絵本で見た物語の吸血鬼のイメージで、シャツをはだけているジオ様の首筋に噛みついている自分を想像してしまった。
ちょっといけない妄想をしてしまって顔がカーっと熱くなった。
「どうしたララ、顔が赤いぞ?」
「えーと、ジオ様? その場合やはり首筋に噛みつくんでしょうか?」
「いや、俺の場合は普通にコップに入った血を渡されたが・・・ララが噛みつきたいのなら噛みついても構わんが?」
「いっ!いえっ!結構です!コップで大丈夫です」
「まあ、方法はララが決めるといい。他人の体の一部を取り込むなど気持ち悪いだろうからな」
「いえ!大丈夫です。ジオ様の体で気持ち悪いなんて事ありません!むしろごちそうさまです!」
何言ってんだ私は?
(・・・でも別に血じゃなくてもいいのか・・・・)
(あれ?・・・それなら・・・・)
「あっ!そっか!」
・・・とんでもなくいけない事を思いついてしまった!
「どうした!ララ」
ジオ様が心配そうに聞いてきた。
私は顔が耳まで真っ赤になっていた。
「なななななっ!なんでもないですっ!」
「何でも無くないだろう?顔が真っ赤だぞ。熱でもあるんじゃないのか?」
ジオ様が額をくっつけてきた!
(かっ!顔がっ!顔が近いっ!)
あんな事を想像した直後にこの近距離は無理っ!無理っ!
「だっ!大丈夫です!」
両手でジオ様の肩を押して引き離した。
「大丈夫じゃないだろう?かなり熱かったぞ?」
「ちっ!知恵熱です!すぐに治まります」
(はぁはぁ!危なかった!)
継承の方法は・・・ちょっと慎重に考えよう。
誤字報告たくさんいただきました。ありがとうございます。




