9話 勇者様と合格祝い
色々悪目立ちしてしまった数日後、試験の結果が発表された。
掲示板には合格者の名前と共に科目ごとの順位と点数も表示されていた。
「私の名前は・・・あれ?どこだろ」
比較的人が少ない場所から掲示板を覗き込んだが自分の名前が見つからなかった。
人ごみをかき分けて混雑している方に割り込んでいく。
「あったあった!でも何で1番最初に私の名前が?」
「あっ!この間の美少女剣士だ!」
「主席合格おめでとうございます」
「剣術だけじゃなくて学科もできるなんて!」
「今度魔法陣の描き方のコツを教えて下さい」
「あなたのような美しい人と同じ学院で学べるなんて光栄です!」
「今度剣の手ほどきを・・・いえ剣だけでなく僕と・・・」
まわりの人たちが一斉に話しかけてきた。
どうやら合格者の名前は試験の成績順になっていたらしい。
よく見たら学科と剣術は1番で、魔法も0点と思いきやそこそこ良い点数だったらしい。高度な魔法陣が描けるという事で加点されたのだろうか?
「皆さん!これからよろしくお願いします!」
深々とお辞儀をした後、脱兎のごとくその場を走り去った。
入学の手続きを済ませて屋敷に戻るとしばらくして勇者様も帰宅した。
「おかえりなさいませ、ジオ様」
「ああ。今日は合格発表の日だったな?」
「無事合格しました!主席合格だそうです」
「そうか?それは大したものだ」
「・・・それはそうと、何でメイドの格好をしているんだ?」
「今日は私が夕食を作ろうと思いまして、せっかくだから衣装もお借りしてみました」
ジオの前でくるっと回って見せた。
他のメイドさんたちの衣装はわりと落ち着いたデザインだが、私の衣装はスカートが短めのかわいらしいデザインだった。
私のサイズではこのデザインの物しか置いていなかったらしい。
髪は調理の邪魔にならない様にポニーテールにして、メイド服とおそろいのかわいいリボンをつけてみた。
かわいらしいポーズで決めてみたつもりだったがジオ様は無反応だった。
「合格祝いに豪華な食事でもと思ったんだがいいのか?」
「このお屋敷のお食事は毎日豪華ですから!」
「それに私にとっては料理をさせてもらえる事の方がご褒美です」
「わかった、好きにするといい」
先日の夕食以降、私のわがままでジオ様は食事をきちんと食べてくれるようになった。料理自体というよりは私のおしゃべりを聞いているのがそれなりに楽しいらしい。
夕食は全てのメニューを一人で作るのはさすがに無理なので、メインディッシュとデザートを担当した。
メインディッシュは近くの森で狩ってきた大角赤鹿の肉に王都の市場で見つけた香辛料と故郷の山から持ってきた薬草をブレンドして味付けしたステーキだ。
大角赤鹿の硬い肉は薬草を擦り込んで柔らかくし、ミディアムレアに焼いて香辛料で味付けする。
さすが王都だけあって、今まで知らなかった香辛料がたくさんあり、色々味見して自分なりにベストのブレンドを考え出した。
デザートはこれまた王都の市場で見つけた珍しいフルーツの果汁を絞って薬草を使って固めたゼリーだ。
爽やかな果汁を絶妙な食感に調整する事が出来て、食後の口直しに最適なデザートに仕上がった。
お屋敷の料理長に味見と毒見をしてもらったが、料理長も絶賛する仕上がりで、是非レシピを教えてくれと懇願されたので教えてあげた。
「どうぞ、お召し上がりください!」
私の作ったステーキをジオ様が口にする。
「これは何の肉だ。今まで食べた事がない」
「大角赤鹿です」
「・・・以前に遠征で野宿した時に食べた事があるが、硬くてあまり味がしなかったぞ」
「調理方法を工夫しました」
「こんなに柔らかく味わい深いものになるのか・・・」
ジオ様は2口目、3口目と食べていく。
「食後のデザートもどうぞ」
「これもまた、初めて食べる味と食感だな?」
「私もよく知らないのですが市場で見つけた珍しい果物で作りました」
ジオ様はステーキとデザートをきれいにたいらげていた。
「食事を旨いと感じたのは久しぶりだ」
「それは良かったです。頑張ったかいがありました」
「それにいつもより穏やかな気分になった」
「精神を落ち着かせる効果のある薬草を使っていますのできっとそのせいですね」
「俺の体はあらゆる毒物や薬物に耐性があるから薬草は効かないはずなんだが」
「じゃあ私の愛情が入っているからですね!」
腰に手を当て胸を張ってドヤっとしてみる。
「ははは・・・まぁそういう事にしておこう」
ジオは苦笑いした。
(これでジオ様にまた一歩近づけたかな?)