10話 勇者の弟子と魔王城
北の町に到着したところでココさんとはお別れになった。
「ララ~ また会おうね~ 今度ララの住んでる国にいくよ~」
ココさんはぼろぼろ泣いていた。
「はい!また会いましょう!ココさん!」
「ララ~ 愛してるよ~」
ココさんは最後まで、泣いたり笑ったり、感情の変化が激しい人だったな。
北の町から魔王がいるという古城までは、まともな道が無い。
その上魔物の発生頻度が高く、ほどんど人が踏み込まない地域となっていたためだ。
魔物を倒しながら森を抜け、山道を進むと、その先に魔王がいるという城があった。
「さすが勇者様のパーティーですね。皆さんすごいです」
次々と現れる中級の魔物を全て瞬殺する私たちを見て、ミアさんが感心していた。
「はい、上級の魔物が出てこなければ得に問題ないですね」
「勇者様は当然として、ララさんがここまで強いのは驚きです」
「私なんてジオ様に比べたらまだまだです」
「ララはもう十分に強いぞ」
「俺もそろそろ嬢ちゃんに追い越されそうだしな!」
「さて、城には着いたけどどうしようかね?」
魔王が居城としていると思われる古城は長い間放置されて荒れ果てており、人が住める状態には見えなかった。
本当にここに魔王がいるかどうかも怪しい。
「中を確認してみるか?」
ジオ様が扉に近づき扉に手をかけて引くとギギギと音を立てて扉が開いた。
「鍵はかかっていないな」
扉の向こうは明かりが無く窓もカーテンが締まっているため中は薄暗い。
「とりあえず入ってみましょう」
ミアさんがすたすたと建物の中に歩いて行ってしまった。
「待て、罠があるかもしれない」
ジオ様がミアさんを連れ戻そうと追いかけた。
「ジオ様、私も行きます」
私もジオ様の後を追う。
ミアさんとジオ様が建物に入ったのはほぼ同時だった。
そして、私の目の前で二人は忽然と消えた。
「ジオ様!ミアさん!」
私は急いで二人か消えた場所に走った。
建物の中に一歩踏み入れた瞬間、私は別の部屋にいた。
何の予兆も、魔法が発動した気配も無く、ただ足を地面に着いた瞬間に景色が変わった。
窓も何もない石壁の部屋だった。周囲を見ると継ぎ目も扉も窓もなく、円形の部屋の様だった。
壁全体が光っているのか真っ暗ではない。
部屋にはジオ様もミアさんもいなかった。
代わりに魔物がいた。
『山羊頭』が2体、『鱗猿』が2体、そして『鬼』がいた。
やはり罠だった。ジオ様たちは別の部屋に跳ばされたのだろうか?
まずは目の前の魔物を倒してジオ様たちを探さなければ!
しかし障害物の無い狭い部屋で5体同時に相手はきびしい。
私はお父さんの短剣を取り出し右手に構え、レイピアを左手に構えた。
右手の短剣に力をこめる。
ブォン!
短剣が光り輝き、光が刀身に集まって光の刃が作り出される。
先日の国王陛下との面会でこの短剣の機能がわかった。
これまでは魔力が枯渇していたため、ただの短剣としてしか使えなかったが、
魔力を充填してもらったところ『光の剣』としての本来の機能を取り戻した。
「いきます!」
私は一番近くにいた『山羊頭』を『光の剣』で首の左側から袈裟懸けに切り裂いた。
『光の剣』は私の意志で刃の長さを変えられる。
刃を長く伸ばして一太刀で胴体を2つに分断した。
そのまま左手のレイピアを後ろに振り抜き、背後から迫ってきた『鱗猿』の爪を切り飛ばす。
倒れかかっている『山羊頭』の胴体を蹴って、後方に宙返りしながら『光の剣』で『鱗猿』を体の中心から一刀両断する。
今度は体がずれて倒れかけている『鱗猿』の脇腹を足場にして2体目の『鱗猿』の方へ跳躍。
両手の爪を同時に突き出してきたので、これを両手の剣で同時に全ての爪を切り落とした。
爪の無くなった手の甲を足場に肩の上に跳躍し、肩の上から袈裟懸け胴体を分断した。
その『鱗猿』の頭を蹴って、次の『山羊頭』の頭の上を飛び越え、背後に回ってうなじの肉を2本の剣を使って魔結晶ごとごっそり切り取った。
そして、その『山羊頭』の背中を蹴って、『鬼』の頭に飛び移る。
『鬼』はおそらく『魔力阻害』を発動しているが、わたしには全く効果がない。
『附加装備』や『遺跡装備』にも影響はないので普通にいつも通りに戦えている。
一応頭の2本の角を両手の剣で同時に切り落とし、頭上を越えて背後に回り込む。
背後を落下しながら『光の剣』でみぞおちの上を水平に切り裂きとどめをさした。
倒れた5体の中級の魔物は蒸気を出しながら次第に消滅していく。
やがて、魔物の死体が消滅し、蒸気が晴れると、何もなったはずの部屋の中央にいつのまにか玉座があった。
そして玉座には全身黒い甲冑で覆われた人物が座っていた。




