8話 勇者の弟子と名前
オレンジ色の髪の少女が店員と言い争っていた。
年齢は私と同じか少し下ぐらいだろうか。
「ちょっと様子を見てきます」
私は騒ぎのあった方へ行ってみた。
「どうしたんですか?」
「ああ、お客さん、このガキが金を持ってねえのに飯を食わせろって言ってきかねえんですよ」
「しょうがねえだろ!長旅で金を使い切っちまったんだ。あたい腹ペコで死んじゃうよ!」
「俺の知った事か!」
「後で働いて返すって言ってんだろ」
「信用できるか!」
少女も店員もすごい剣幕で怒鳴りあっている。
「ええと、とりあえず私が払いますので、この子に何か食べさせてあげて下さい」
私が店員さんに話しかけると、少女が目をキラキラと輝かせて私を見つめてきた。
「いいのか?ねえちゃん!」
「ええ、いっしょに食べましょう」
「ありがとうよ、ねえちゃん!」
「いいんですかい? お客さん?」
「はい、困っている時はお互い様ですから」
「お客さんがそういうなら仕方ねえ」
私もこの国の通貨は持っていないが魔結晶は大量に持っている。
魔結晶はほとんどの国で共通の通貨として使うことができる。
少女は一緒の席に着いてがむしゃらに食事を始めた。
「そんなに慌てて食べなくても大丈夫ですよ?」
「二日間何も食べてなくてさぁ、生き返ったよ!」
「それは大変でしたね、好きなだけ食べて良いですよ」
「ほんとか?じゃあおかわり!」
少女は結局見事な食べっぷりで10人前をぺろりとたいらげた。
始終ご機嫌で本当においしそうに食べていた。
見ているこっちまで嬉しくなる食べっぷりだった。
「ふぅ、食ったっ食った! ねえちゃん!ありがとうな!このお礼は必ず返すよ!」
満面の笑みでお礼を言ってくれた。
「お礼なんて結構ですよ、あなたの幸せそうな顔が見れたのでそれで充分です」
「ねえちゃん! あんた、いいやつだな!」
少女は大粒の涙をぼろぼろ流し始めた。
「あわわ、泣くほどの事ではないですよ!」
私はハンカチで少女の涙を拭いてあげた。
「ふふふ、ララさんの方がわたくしよりも聖女みたいですね?」
「何言ってるんですかミアさん!私は普通の事をしているだけですよ?」
「普通にそういう事が出来てしまうところですよ」
「ねえちゃん!ねえちゃん! あんた、『ララ』っていうのか?」
少女はとても驚いた顔で私の方に詰め寄ってきた。
さっきまで泣いていたのに、もうけろっとしている。
見開いた目が大きい、そして顔が近い。
よく見ると結構きれいな顔をしている。
砂ぼこりで汚れているのが残念だが。
「そういえば自己紹介がまだでしたね。私はララって言います」
「そうかそうか! あんた『ララ』か! あたいは『ココ』って言うんだ! 会えてうれしいよ!」
ココと名乗った少女は私に思いっきり抱きついてきた。
ココは嬉しそうに私にすり寄ってくる。
そして顔が近い。
・・・というか近すぎないか?
とろけそうなくらい嬉しそうな顔で迫ってくる。
このまま行ったら唇と唇が触れてしまいそうなくらい近い。
「ココさん!ちょっと落ち着いてください!」
私はココさんの肩を掴んで慌てて引きはがした。
引きはがされたココさんは、思いっきり悲しそうな顔になっていた。
「ああ!ごめんなさい。急だったのでびっくりして!」
「いや、こっちこそ悪かったよ、あまりにも嬉しすぎてついキスしようとしちまった」
(ほんとにキスしようとしてたんだ!)
「何がそんなに嬉しかったんですか?」
「名前が似てたのが嬉しくってさ!」
「えっ!それだけですか?」
「うん!それだけ!」
・・・確かに同じ音が2つ続く名前の人って初めて会ったかもしれないけど?