6話 勇者様と聖女
学院も長期休暇に入り、魔王探索に出発する日になった。
「まずは、転移魔法で隣国の王宮に移動する」
「いきなり王宮の中に移動して大丈夫なんですか?」
他国の人間がいきなり王宮に転移出来たら色々危険なのではないか?
「どこの国でも王宮や王城には転移魔法陣の間があるんだよ。でも一般には秘密になっているし厳重に管理されている。それに普段は使用できない様に封印してあるからいきなり外部から転移する事は出来ないんだ」
セナ様が説明してくれた。
「魔法陣を特定する魔法陣の紋様も毎回変るからね。今回の紋様はこれだよ」
セナ様が密書の紋様を見せてくれた。
「今日のこの時間限定で、この紋様でのみ転移が可能となるんだ」
「なるほど、それなら悪用は出来ませんね」
私はその紋様を魔法陣に描きこんだ。
セナ様が転移魔法陣を起動し転移が完了すると、私たちは見知らぬ神殿のような場所にいた。
そして周りを数人の衛兵に囲まれていた。
「ようこそいらっしゃいました。勇者様」
神官の様な衣装の女性がジオ様に話しかけてきた。
月の光の様な輝く銀髪に、アメジストの瞳の美しい女性だ。
年齢は20歳くらいだろうか?
「大層な出迎えだな」
「万が一のためです。本物の勇者様でしたらこの程度の兵士で取り押さえられるとは思っておりません」
「今回は貴国からの依頼で来たのだが?」
「はい、依頼をお受け頂き、有難く思っております」
女性は深々と頭を下げた。
「申し遅れました。わたくしは、この国の『聖女』でミアと申します。目的地まではわたくしと、これらの衛兵が案内いたします」
(『聖女』なんだ。初めて会った)
『聖女』とは治癒魔法や回復系魔法に特化した『上級魔法士』だ。
私たちの国では特にその呼び方はしないが、いくつかの国ではそう呼んでいる。
たしか『聖女』に任命された『上級魔法士』は攻撃系の魔法の習得と使用が禁止されるはずだ。
「必要ない。場所はわかるので我々だけで行く」
「そうは申しましても今回の件はこの国の問題です。異国の方々だけにお任せするわけにはまいりません。せめてわたくしだけでもご同行させて頂きます」
「わかった。好きにしろ」
「ありがとうございます」
『聖女』ミアさんはジオ様を見つめて上品に微笑んでいる。
(あれっ?なんかちょっと胸がもやっとする)
そんな事を考えていたらミアさんが私の方をちらっと見てにっこりと微笑んだ。