4話 勇者様と本音
ジオ様の唇が私の唇に触れた。
予想してなかった。
ジオ様の方からキスしてくれる事なんて無いと思ってたから。
時間にして、ほんの数秒だったが私にはとても長い時間に感じた。
「・・・ジオ様・・・どうして?」
私の眼から、いつの間にか涙がこぼれ落ちていた。
「すまない・・・いきなりこんな事を・・・」
「・・・ジオ様・・・ずるいです。今日は・・・私の方からキスするつもりだったのに・・・」
「そうか・・・それは悪かった」
「違うんです・・・嬉しいんです・・・」
驚きと、戸惑いと、嬉しさで私は涙が止まらなくなっていた。
「ジオ様がキスしてくれるなんて思ってなかった・・・」
「俺も・・・驚いている」
ジオ様は指でそっと涙をぬぐってくれる。
「ララ、聞いてくれるか?」
「・・・はい・・・」
ジオ様は静かに語り出した。
「俺は、勇者になった時、生涯伴侶は持たないと決めた。先代も、先々代もそう宣言していたと聞いていたからだ」
「知っていると思うが、勇者の生涯は『終焉の魔物』の出現で終わる」
「はい、毎回相打ちになってしまうと聞いています」
「正確には相打ちではないが、短命である事は間違いない」
「勇者になってからの俺は、恋愛感情やその他の強い感情を抱いた事は無かった。勇者の特性でそういった感情に左右される事自体が無くなった。このまま誰とも深くかかわらずにその時を迎えられるなら、その方がいいと、ずっとそう思っていた」
(ジオ様、勇者になった時から死ぬ時の覚悟をしてたんだ・・・)
「だが、ララと出会ってから、俺の中に変化が生まれた。誰にも特別な感情を持つ事が無いはずが、ララは俺にとって明らかに特別な存在だった」
「最初は後継者となるべき人材だという事と、まだ幼い少女であり俺が守らねばならない相手だから、そう感じているのだと考えるようにしていた。しかし、日を追うごとにララに対する思いは大きくなっていた。俺はただの勘違いだと考えるようにしていた。勇者の能力が上手く働いていないだけなのだと」
「だが、先代の勇者には愛する人がいたと知らされた。勇者にも人を愛する感情はあるのだと。ならば俺のこの感情はやはり本物なのではないだろうかと考えた」
「そして同時に怖くなった。俺はララには誰よりも幸せになって欲しいと思っている。いずれいなくなる俺はララを悲しませる。それならルイ殿下の方がララを幸せにできるはずだと思って婚約を提案した」
「だが、それでララを傷つけてしまった。そして、それを言った事によって同じくらい傷ついている自分に気が付いた」
「ジオ様も?傷ついていたんですか?」
「ああ、勇者の精神防御で本来精神にダメージを受けないはずの俺が、これまでもララに関する事だけその機能が働いていなかった。思いを殺して感情が無いふりをしていた」
「ジオ様、それって」
「ララ、俺はお前を愛している。出会ったその時から」
驚きで言葉が出なかった。
(ジオ様が?・・・最初から、私を好きだった?)
「弟子にするなんてもっともらしい理由をつけて・・・本当はララを自分の元におきたかっただけだった」
「こんな俺に・・・幻滅しただろう?」
「そんな事ないです! むしろ・・・嬉しすぎて・・・どうしたらいいかわかりません」
(ずっと片思いだと思ってたのに・・・最初から両思いだったなんて!)
私はジオ様に抱きついた。
ジオ様もやさしく抱きしめてくれた。