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勇者の弟子はお嫁さんになりたい!  作者: るふと
第1章 勇者の弟子
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8話 勇者の弟子と入学試験

 王都の学院は騎士や、魔法士、その他さまざまな職業を目指す子供たちが入学し、卒業後は即戦力になるべく教育・訓練されるところだ。


 入学資格は学科試験、剣術の実技試験、魔法の適性、各職業の適性等により判断されるが上位の貴族の子女は無条件で入学できるらしい。


 私は貴族でもなく、魔法も使えないので、剣術試験の結果に合否がかかってくる。


 最初は学科試験で一応全員が受けさせられる。私は読書が好きで町の学校や図書館の本はほとんど読みつくしていたし、お父さんから色々な知識を教えてもらっていたので余裕で答えられる問題ばかりだった。

 魔法陣の記述問題は満点の自信がある。一番早く描き上げて答案用紙を提出して会場から退出したらどよめきが上がっていた。


 午後からは実技試験だ。


 「剣技の試験は試験官と3分間の模擬戦を行い腕前を判定する。攻撃魔法は使用を禁止するが、『身体強化』や『防御魔法』を使える者は使っても構わん。他に何か質問はあるか?」


「試験官に勝てないと不合格ですか?」


 私は質問をしてみた。


「はっはっはっ!この試験はお前らの技量を見るための物であって勝ち負けは合否に関係ない。もし万が一にでも試験官を負かしたらその時点で無条件で合格だ!」

「わかりました。ありがとうございます」


 魔法の試験で点数が取れない私は、剣術で点数を確保しなければならなかったが、ここで試験官を倒せば確実に合格できる。


 試験は会場である訓練場をいくつかのエリアに分けて同時に始まった。

 自分の番が来るまで他の受験生の試験の様子を見学したが、やはり試験官との実力に大きな隔たりがあるようで、みんな軽くあしらわれていた。

 試験官は相手の技量に合わせて加減しながら技を出させては受け流していた。


 やがて私の番が回ってきた。

 試験に使用する剣は練習用に刃が潰してあり、サイズは3つのサイズから好きなものを選んで良いらしい。

 私は一番短いショートソードを選んだ。


 体重が軽く身体強化が使えない私は、まともに打ち合ったら押し負けてしまうので軽くて短い剣でスピードを生かした戦い方の方が勝機がある。

 先日の魔物との戦いであらためてそれを実感していたし、連日のジオとの稽古でもその方針で練習していた。


「宜しくお願いします!」

「それでは、開始!」


 試験開始の号令と共に、全速力で駆け出した。

 試験官の直前で進路をわずかに左にずらし、相手のロングソードを躱して脇腹に切りつけようとしたが、ギリギリ届かなかった。


「なんて速さだ!今のは危なかったな」


 さすがに試験官相手に出だしの奇襲が通用するとは思わなかったけど、あのタイミングでかわせるなんて!

 それなりに腕は確かで、そう簡単に倒せる相手ではなさそうだ。

 間髪あけずに再度打ち込みに行ったが今度は剣で受け止められ、そのまま力で押し返された。

 返された方向に自ら跳んで相手の攻撃の威力を受け流し、距離をとって構えなおす。


「こりゃすごいな!悪いが『加速』の身体強化を使わしてもらう」


 試験官の体がぼんやり光った。自身に速度アップの身体強化を掛けたのだ。

 次の打ち込みは私の動きに完全に合わせられて打ち返された。

 受け流しきれずに腕に少ししびれが残った。


「今までの試験ではここまでやってませんでしたよね?」

「君が強すぎるのでね。本気でやらないとこっちがやられそうだ」

「そのつもりで挑んでますのでっ!」


 言い終わる前に仕掛けていた。相手の速度が上がった以上、こちらももっと速く反応する必要がある。

 魔力による身体強化は使えないので、神経を研ぎ澄まして相手の挙動を観察し、思考を集中して判断を早め、即座に体を反応させる。

 先程より攻撃のテンポを速めたが、物理的なスピードは相手の方が速いため、こちらの行動を見てからでも追いつかれてしまう。

 その後数回の打ち込みは全て跳ね返されてしまった。


「驚いたな!身体強化無しで『加速』した相手と互角に打ち合えるなんて」

「まだまだ!これからですっ!」


 これまでの打ち合いで相手のスピードにも慣れてきた。

 私の打ち込みを見てからその軌道上に剣を先回りさせて打ち返すという一連の流れタイミングがつかめたのでそれを利用する。


 相手の構えた剣を躱して右から切りつける・・・というモーションを途中でキャンセルして進路を左にずらす。

 相手が私の挙動に合わせてロングソードを構えなおそうとした瞬間にショートソードの切っ先を逆向きに回して、体のひねりも加えてロングソードを引っかけるように引き戻す。


 試験官のロングソードは手を離れてカランカランと音を立てて前方に転がっていった。


「・・・私の勝ちですよね?」


「ああ。私の負けだ」


 試験官はあっけにとられた顔で自分の手のひらを眺めていた。

  

「最後のは良く思いついたな」

「ええ、単純なスピードでは勝てませんので、ちょっと工夫してみました」

「君のフェイントには気が付いたが対応が間に合わなかったよ」

「剣の長さの違いです。ロングソードはショートソードに比べて向きを変えるのに時間がかかります。スピードの差をそれで補いました」

「とんでもない戦闘センスだな」


「とにかく、君は合格だ!」

「ありがとうございますっ!」


 ここ数日のジオ様との特訓で私の腕前はかなり上がっていたらしい。

 ジオ様には手も足も出ないから実感が湧かなかったが。


 わぁ!っと周りから歓声が上がった


「なんだ!今のは!入学試験の戦いじゃないぞ!」

「速すぎて何が何だかわからなかった!」

「今年はとんでもない新入生がいたもんだ!」

「しかもかなりの美少女だぞ」


 ・・・なんか注目を集めてしまった・・・



 合格は決まったが、能力の計測のためという事でその後魔法の試験を受けた。

 魔法の試験は使える魔法を発動して見せるという単純なものだった。

 試験会場はそれなりの広さの荒れ地で周りは高い壁に囲まれている。

 魔法の試し打ちなどに使われる場所らしい。


 私は魔法は一切使えないと申告していたが、一応確認したいという事で、一般的な下級魔法から順番に試していった。


 先程の剣術の試験から私に興味を持った受験生や試験官が私に注目していて、妙にギャラリーがたくさんいた。


 下級の最もポピュラーな火炎魔法の魔法陣を空中に描くと、その描画速度と正確さに周りからどよめきが起こった。


「さっきのすごい剣術の子だろ、なんて素早く正確に魔法陣を描けるんだろう?」

「きっと魔法の腕もすごいんじゃないかな?」


(変に期待ばっかり膨らんでいて、なんかすごくやりにくいな)


 ここ最近の剣の訓練の影響か手先が素早く動くようになって魔法陣の描画速度も以前より速くなった気がする。

 魔法陣は正しく描くと全体がうすぼんやりと光り始める。

 どこか間違っていたり、形が歪だと発光せず、呪文を唱えても機能しない。

 他の受験生を見ていたが、この時点で発光しなくて不合格になる者も多かった。

 

 そして魔法陣に魔力を込めようとする。

 本来ならここで魔法陣が光を増して回転したりするのだが、何も変化が無い。

 一応、発動の呪文を唱える


「スモールファイヤー」


 ・・・当然だが何も起きない。


「スモールファイヤー」

「スモールファイヤー」

「スモールファイヤー!」


 ・・・あたりが微妙な沈黙に包まれていた。


「他の魔法も試してもらって良いかな?」


 試験官に言われて、水魔法、風魔法、土魔法などいくつもの下級魔法の魔法陣を描いては沈黙を作っていった。

 魔法陣を描くときだけはどよめきが起きるのだが、その後残念な空気になるという、私としては非常にいたたまれない時間が過ぎていく。


(これは何の拷問なんだろう?・・・)


 うっかり中級魔法の魔法陣も描けると言ったら一応それも試してみるという事になった。


「あの子、中級魔法の魔法陣も描けるんだ!」

「中級魔法に特化したタイプの魔法使いなのかな?」

「え?何でこんな複雑な魔法陣があっという間に描きあがるの?」


 ・・・様々な期待とどよめきが上がっていたがやはり同じ結果だった。


「知ってる魔法陣はこれで全部?」

「あと1つありますが・・・」


「ではそれも試してみなさい」

「わかりました。多分ダメですけど」


 私は一回深呼吸して、これまでより一際大きい魔法陣を描き始めた。


「おい、まさかあれ?」

「ああ、そうだよな?」

「こんなとこで使って大丈夫なの?」

「あの子、上級魔法士なのか?」


 私が描き始めたのは上級魔法【ヘルフレイム】の魔法陣だ。

 発動すれば町一つが丸ごと火の海になると言われている。


 有名な魔法陣で教本にも載っているから割と誰でも見慣れているが、魔法陣が繊細で複雑なため正確に描写するにはきわめて高い技術と修練が必要となる。


 ・・・とされている。


 使えもしないのにわざわざ習得しても時間の無駄なのでふつうは上級魔法士以外に描ける人はいない。


「あ、どうせ発動しないから大丈夫ですよ」


 描きなれているだけあって割と短時間で描きあがった。

 もちろんアレンジしていない教本通りの方だ。

 個人的にはアレンジ版の方が好きなのだが、ここで描いたらダメだろう。

 実は上級魔法陣は他にもいくつか描けるけどめんどくさいから1つと言っておいた。


「描けましたけど、試しますか?」

「ええ、まぁ・・・大丈夫でしょう。試してみなさい」


(・・・大丈夫・・・というか、完全にダメだと確信して言ってるよね?)


「わかりました」


 ぼんやりと光る巨大な魔法陣に魔力を注入・・・しようとしてみる・・・が、やはりまったく変化が無い。


「我に仇なす全ての災いを地獄の業火で焼き尽くせ! ヘルフレイム!」



・・・・・ なにも起きなかった。・・・当然だが。


 

 微妙な空気の中、魔法陣が霧散するまで声を発する者はいなかった。


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