12話 勇者の弟子と婚約
アン殿下とはすっかり意気投合して、あれから何度かお茶会に誘われた。
殿下は私を姉のように慕ってくれて、二人の時は「お姉さま」と呼ぶようになっていた。
私も本当の妹が出来たみたいで、会うのが楽しみになっていた。
そして、学院に入って2年目が終わろうとしていたある日。
お屋敷に帰るとバトラーさんから伝言があった。
「おかえりなさいませ、ララ様。ジオ様からお話しが有るとの事です。執務室でお待ちになっております」
何だろう?いつもは夕食の時に話をするので改まって執務室に呼ばれる事は無いのだが。
「ジオ様、お話とは何でしょうか?」
「国王から俺の元に通達があった」
「どのような内容だったのでしょうか?」
「ルイ殿下とララの婚約の申し込みだ」
「・・・・・」
「聞いているか?」
「ええっ!? どういう事でしょうか?」
(一瞬頭がフリーズしてしまった。私とルイ殿下が婚約って、どうしてそんな話になったの!?)
「ルイ殿下にはまだ王太子妃も決まった婚約者もいない。政治的な理由で王室が決めかねているからだ」
(やっぱり王族って色々大変そうだな)
「現在上位貴族の力関係は拮抗していて、突出した権力を持った貴族がいない安定した情勢が続いている。だが、各上位貴族にはそれぞれ年頃の令嬢がおり、どの家が次期王妃を輩出するか、緊張状態が続いていた」
「確かに、その状況で特定の貴族が王家と関係を結べばパワーバランスが崩れますね」
「そこでお前に白羽の矢が立った」
「どうして私なんですか?」
「ほとんどの上位貴族が以前から『剣精』としてのお前に対して好印象を持っていた。それは先日の舞踏会でより確実なものとなった」
(貴族たちは私になんの幻想を抱いているんだ?)
「そしてこの国の成り立ちだが、この国の初代国王は勇者だった。それもあって現在勇者がこの国の管理下にある。次期勇者候補であるララが王妃になる事は国にとっても有益な事だ。お前が王太子妃になったとしも不満を言う貴族はまずいないだろう」
「殿下自身のご意志ではないんですね?」
「王族ともなると自分の意志で結婚相手を決める事は出来ないだろう」
(やっぱりそうだよね)
「だが、今回はルイ殿下自身も強く望んでいるそうだ」
「えぇー! この間のあれ、冗談じゃなかったんですか!?」
(殿下のアピールが自然すぎて、全部冗談でやってるのかと思ってたのに、本気だったてこと!?)
「でもでも! 成り上がりの第7階位の私では身分的に王太子妃にはなれませんよね?」
「それは大丈夫だ。一旦俺の養子となれば第3階位の令嬢となる」
(だから、私がなりたいのは弟子でも娘でもなくて嫁なんですけど!)
「そして、何より今回の件は国王自身が最も強く希望しているそうだ」
「・・・国王陛下が? どうしてでしょうか? 一度顔を合わせただけでほとんどお話もしていないじゃないですか?」
私は先日の謁見で、無表情に私を見つめていた陛下の顔を思い出していた。
「それなんだが、先ほど陛下から密書が届いた。ララと俺と陛下の3人だけで話がしたいそうだ」
数日後、私とジオ様は王城の国王陛下の執務室に招かれていた。