8話 勇者の弟子と地中の魔物
みんながいた場所の地面から巨大な2本の牙が突き出していた。
(地中から出てきた!)
4人は皆、元いた場所からは跳び退いており、それぞれ別の場所に着地している。
牙はすぐに地中に引っ込んだ。
地面からわずかな振動を感じる。
魔物が地中を移動しているのだ。
私は耳を地面にあて音を探る。
神経を集中すると、振動原の方向と距離が大体分かった。
「ルイさん!よけて下さい!」
私が叫ぶとルイさんは一瞬私を見てからその場所を飛び退いた。
その直後にルイさんのいた場所から2本の牙が突き出した。
牙は内側に向かって湾曲しており先端は鋭く尖っている。
質感は金属のように光沢を放っている。
カシャァァァン!
2本の牙は獲物を挟むように交差して、再び地中へと消えた。
「みなさん!地面から振動を感じたら注意して下さい!」
「ララ!さっきはありがとう!今ので分かったよ」
ルイさんは魔物が近づく感じを掴んだ様だ。
「ララちゃん!助かるよ。地中は索敵魔法が届かないからね。さっきはジオ君が気が付いたから助かったけど」
「おっ!今度はこっちだな?」
ゼト様が飛び退く。
その場所に牙が出現した。
「こりゃどうやって倒せばいいんだ?」
「本体を引きずり出すしかないですね。まずはこいつの全容を確認します」
ルイさんは少し離れた場所に移動して魔法陣を描き始めた。
「みなさん一カ所に集まってください!」
私たちはルイさんの魔法陣の射線上に集まった。
地面の真下から振動が来る。
「今です!」
ルイさんの掛け声でみんな同時に飛び退く。
「大いなる大気よ我が元に集いて敵を蹴散らせ!」
周囲からすごい勢いでルイさんの魔法陣向かって風が吹く。
「『ストームバースト!』」
そして2本の牙が地面から突き出すのと同時に、圧縮された空気の塊がそこに向かって打ち出された。
空気の塊は牙の突き出た場所で炸裂し、あたりの土を吹き飛ばした。
私たちはそれぞれ距離をとって土煙が収まるのを待つ。
やがて土煙が収まると後には大きなクレーターが出来ており、その中に魔物が無傷で残っていた。
「・・・むかで?」
クレーターの中で巨大な百足が鎌首をもたげて立ち上がっていた。
全身が鋼のような光沢の殻で覆われ、体の節ごとに一対の足が付いている。
足はそれぞれが鎌のような刃物になっていた。
全長は地面から露出している部分だけでも30mはあり、後半はまだ地中から出ていない。
来る!
『鋼百足』は私の方に迫ってきた。
高く掲げた頭部が上から私の方に迫ってきた。
私が後方に跳躍すると『鋼百足』は地面すれすれを水平に接近してくる。
私は牙に捕まる直前にそれを躱し、頭の上に飛び乗って首の後ろに切りつけた。
カキィィィィィィィン!
金属同士が激しくぶつかる音がする。
レイピアの切断特性でかろうじて切り傷は付けたが、相手が大きすぎて大したダメージになっていない。
『鋼百足』の背中を走りながら、切りつけていったが、背中の殻は厚く、レイピアの切り傷ではほとんど効果が無い。
「ララ!後ろ!」
ルイさんの声で振り返ると『鋼百足』の頭部がくるりと向きをかえて私の方に向いていた。
(しまった!頭から離れすぎた)
キィィィィィィィン!
私は目の前に迫った牙をレイピアでさばきつつ、『鋼百足』の背中から飛び退いた。
『鋼百足』の牙は私が切りつけた場所から折れていた。
(牙を折る事が出来るのは確認できたわね)
「ララ!大丈夫か?」
ジオ様が駆け付けてくれた。
「はい!私は大丈夫です!」
「でも剣ではほとんどダメージになりませんね」
私が最初に付けた傷や、折れた牙も次第に治り始めていた。
再生速度が他の魔物より速い。
攻撃をかわす事は可能だけど、どうやって倒せばいい?