7話 勇者様と手合わせ
翌日、お屋敷の中庭に案内された。中庭は訓練場になっていた。
「お前の実力が知りたい。俺に攻撃してみろ」
ジオ様は訓練用のロングソードを構えた。
ジオ様の構えはゆったりと自然体で、幅広のロングソードはかなりの重量があるはずだか片手でふわりと握っていた。
一見無防備に見える構えは隙だらけの様に思えるが、勇者の反応速度を考えるとあらゆる攻撃に対応されてしまうと予測した方が良いだろう。
私は訓練用の剣の中から比較的細めのロングソードを手に取った。
「いきます」
まずは真正面から切りかかる。
真上から顔面に切りかかった刃がそのまま頭から一刀両断してしまうと思われる瞬間までジオ様は微動だにしない。
私は躊躇せずそのまま真下に刃を振り下ろす。
・・・つもりだったが、次の瞬間にジオの姿は体一つ分右に移動していた。
私は攻撃を途中で中断して逆方向に跳躍し距離をとった。
私がいた場所にはジオのロングソードが待ち構えていた。体が右に移動したと同時に右手に持っていたロングソードは左手あり、私がいたはずの場所を薙ぎ払っていた。
「ほう、今のを予測していたな?」
「あなたの戦い方はこの前の魔物との戦いで見せてもらいました」
「回避行動と次の攻撃が一体となっていて、相手が攻撃を仕掛けた時にはすで相手を切り伏せて次の魔物の対応に入っていました」
「あれが見えていたのか?」
「はい!目は良い方なんです」
「そうか・・・では続けるぞ」
「はい!いきますっ!」
その後繰り返し攻撃を仕掛けたが、一回目と同様に回避と同時に反撃されそれを回避しなければならないため、一度もまともに攻撃を入れる事が出来なかった。
「こんなところだな」
二百回以上打ち合ったところで、終了となった。
「はぁ、はぁ、・・・一度も・・まともに攻撃が入りませんでした・・」
さすがに息が切れてしゃべるのもつらい。
「お前の方こそ、一度も反撃を食らわなかったな」
ジオの方は全く呼吸が乱れていない。
「ジオ様は本気を出していませんでしたよね?」
「それはそうだが、並みの剣士なら最初の打ち合いで倒れていたはずだ」
「そうなるとわかっていたから攻撃の途中で回避行動に切り替えたんです」
「けっきょく最後までその繰り返しになっちゃいました」
「普通はあのタイミングで回避する事は困難なはずなんだが・・・」
ジオ様は少し考えこんでいた。
「その歳でそれだけの技量をどうやって身に着けた」
「・・・幼いころからお父さんと稽古してたんです」
「父親は剣士だったのか?」
「わかりません。何でもできる人でしたので剣だけでなくいろんな事を教えてくれました」
「ただ病で体が弱っていたので、お父さんの剣は無駄のない最小限の動きで、でも強くって私は病の末期の立っているのがやっとのお父さんにも勝てませんでした・・・」
「さっきのジオ様の剣は少しお父さんの剣に似ていました」
「・・・あの技は伝え聞いた『剣聖』の技の一つを真似たものだ」
「『剣聖』?」
「俺のは勇者の能力を使って模倣しているに過ぎないが、本物の『剣聖』は剣の技を極め、厳しい鍛錬の末に行きつくものだと聞いている」
「・・・お父さんは、その『剣聖』だったんでしょうか?」
「この国に最後の剣聖がいたのは100年以上前だ。それ以降『剣聖』の域に達した者はいないはずだ」
「まあ、そうですよね?戦いよりも穏やかな生活の方が似合う人でしたから。剣や弓矢は狩りや護身のためと言って教えてくれたんです」
「だがお前自身は先日の魔物との戦いや、今の打ち合いのさ中にも確実に成長しているな」
「そうなんですか?」
「ああ、新たな敵や技に遭遇するたび、即座に対応策を考え出し実行しているだろう?」
「あの時は町のみんなを守るために夢中だったんです。今だって後半は結構危なかったんですよ?」
「最後の方は段階的に高度な技を繰り出していたからな」
「えっ!そうだったんですか?」
「お前の成長に合わせてな。この短時間で確実に上達している」
「だんだん対応がきつくなっていたから疲れがたまってきたのかと思ってました」
「お前にとっては上達する事が自然な事なんだな」
ジオ様が私の頭にポンと手を乗せた。
表情は変わらないけど手のひらからジオ様のあたたかさを感じた。
「まあいい、この調子で俺がいる時は訓練を続ける」
「俺が不在の時はバトラーに相手をしてもらえ」
「わかりました!」
(ジオ様の期待に応えるために頑張らなきゃ!)




