12話 勇者の弟子と予兆
私が追いつく前に、『木馬』は城門を飛び越えようとしていた。
(村人が殺されてしまう!)
「ルナ!お願い!」
「わかった!」
ルナは残っていた『ホーリーアロー』の魔法陣で『木馬』を攻撃してくれた。
しかし、木馬の巨体に小さな穴が空いただけで、動きは変わらない。
私の判断ミスだ!
『木馬』はしばらく動けないと思って油断してしまった。
そのせいで村人が死んでしまう。
悔しさと焦燥感で『木馬』を睨んで限界まで速度を上げる。
(間に合わない!どうしよう!?)
すると、見つめていた『木馬』が目の前で突然、バラバラに空中分解した!
「えっ!」
粉々になった『木馬』の破片は城門の向こう側に降りそそいだ。
「頑張ったな!ララ」
城門の上に、勇者様が降り立った。
「ジオ様!」
城門に向かって跳躍していた私はそのままジオ様の胸に跳びこんだ。
ジオ様は両手を広げて私を受け止めてくれた。
私はジオ様に抱きついた。
ジオ様もやさしく抱きしめてくれた。
「ありがとうございます!ジオ様!」
「何とか間に合ったみたいだな」
「ジオ様、どうしてここに?」
「ミトから連絡をもらった。近くに転移魔法陣が無いから俺一人で先に来た」
「来てくれて助かりました。ありがとうございます!」
私は安堵感のあまりジオ様の胸に顔をうずめた。
「あのー、ララ? お取込み中のところ申し訳ないのだけれど・・・」
「えっ? ルナ?」
「魔物が迫って来てる!何とかしないと!」
「レン!」
(しまった~! 二人がいたんだった!!!)
私とジオ様はあわてて離れた。
私は顔が真っ赤になった。
「ララ、行くぞ!」
ジオ様も顔が赤い。
「はい!」
私とジオ様は、残りの魔物に向かっていった。
ジオ様との連携は安心感が半端ない。
お互いの動きが手に取るようにわかるので、効率よく魔物を討伐できる。
中級の魔物程度だったらどんなに多くても大丈夫だ。
二人で交互に次々と魔物を倒していく。
私たちはあっという間に数十体の中級の魔物を倒しきって、城門に戻ってきた。
城門ではルナとレンが待っていた。
「えーと、勇者様ですよね?」
「ああ、そうだ」
ジオ様がうなづく。
「ララ、聞きたい事がいっぱいあるんだけど・・・聞いてもいいよね?」
「・・・・・はい・・・・・」
(だめだ、もうごまかせない)
「えーと、つまり、一連の噂は全部本当の事だったって事で良いんだよね?」
「ぜっ!全部じゃないよ! 勇者様とは恋人同士じゃないから!」
私は慌てて否定する。
「・・・まぁいいわ。それについてはそういう事にしておいてあげる」
ルナはあきれつつ、ちょっと疑いのまなざしで私の事を見ている。
「でも勇者様のパーティーメンバーってのは間違いないよね?」
「勇者様と息がぴったりだったし、ララ自身も勇者様と同じくらい強かったもんな!」
「うっ、それは・・・そうです。騙しててごめんなさい!!」
「一つわかんないんだけど、なんで例の女性剣士は巨乳って噂になってんの?」
(レン! なんで男の人はみんなそこばっかり気にするの!)
「・・・そっ、それは、時々、別の人に代わってもらっているからです・・・って!それはどうでもいいんだけど、お願い! この事はみんなには秘密にしておいて!」
「うん、さすがにみんなに知られたら大変な事になるって事ぐらいはわかるよ」
「僕も、クラスのみんなには秘密にしておくよ」
「ルナ、レン、ありがとう!」
「君たち、いつもララが世話になっている。礼を言おう」
ジオ様がルナたちに話しかけた。
(ジオ様、それじゃ、まるでお父さんですよ)
「いえ、勇者様、ララさんにお世話になってるのはこちらの方です」
「申し訳ないが俺からも頼む。この事は内密にして欲しい」
「はい、もちろんです。勇者様」
「はい、僕も必ず守ります」
ルナもレンもジオ様に約束してくれた。
二人ともあこがれの勇者様とお話ができて眼を輝かせている。
(やっぱりジオ様はすごいなぁ!)
私はみんなに尊敬されるジオ様が誇らしくて、なんだか自分の事のように嬉しくなった。
「おーい!あんたたち!」
そこに村の自警団の人がやってきた。
「ありがとう!助かったよ!しかしまさかこんなに早く駆け付けてくれるなんて思わなかったよ!」
「はい、村の女性の方が早馬で知らせに来てくれましたので!」
私は自警団の人に答えた。
「いや、まだ誰も助けを呼びになんて行ってないよ? そもそも唯一の街道を魔物が塞いでいたから、馬なんか出せねえよ」
「えっ?どういうことですか?」
「ララ、その事なんだけど・・・」
レンが話しかけてきた。
「あの女の人、ララが走り去った後、気が付いたらいなくなってたんだよ」
「どういうこと?」
「走り去ったララを見失って、振り返ったら、もうそこにはあの女性がいなかったんだ」
「教官と3人で近くを探したけど見つからなくて、何かおかしいと思ってわたしとレンでララを追いかけたのよ」
「すみません、魔物があらわれたのはいつ頃ですか?」
私は自警団の人に問いかけた。
「お嬢ちゃんが来てくれた30分ぐらい前だよ。どうやって救助要請を出そうか途方に暮れていたところにお嬢ちゃんが来たんだ」
「それってあの女の人が現れた時と同じ頃じゃない!」
私はあれから約30分でここに到着したのだ。
「ララ、いいか?」
ジオ様はみんなから少し離れたところに私を呼んだ。
「どうしたんですか?ジオ様?」
「最近、魔物の集団発生の頻度が高くなってきている」
「はい、それはわたしも感じています」
「その中のいくつかは、早期に目撃報告が入ったおかげで被害が最小限に抑えられている」
「そうなんですか?」
「そして、いつも情報提供者は身元が確認できていない。情報提供後にはいなくなっているそうだ」
「えっ?それって?」
「情報提供者はいつも女性だそうだ」
第5章完結です。明日から第6章【勇者と王子】開始します。




