6話 勇者様とお食事
夕食はジオ様と二人だった。
見た事もない豪華な料理が次々運ばれてきて、どれもこれも舌がとろけるほどの美味しさで、夢中になって食べていたら、ジオ様が話しかけてきた。
「うまそうに食べるな?」
「見た事のないめずらしい料理ばかりで、しかもみんなすごくおいしい!どんな調理方法なんだろう?とか、調味料は何を使ってるんだろうとか考えると楽しくって!料理は食べるのも作るのも大好きなんです」
ふと、ジオの皿の方を見ると、ほとんど手を付けていないようだった。
「ジオ様はあまり食べていらっしゃらないようですが?」
「俺は食事をする必要が無い」
「どうゆう事ですか?」
「勇者はあらゆるダメージや体調不良を全て自己修復できる。空腹による疲労や体調不良も修復されるから食事をしなくても死ぬことはない」
「そうなんですか?それは便利ですね! でも食事って栄養補給だけじゃないと思うんですよ」
「他に何があるんだ?」
「おいしい物を食べたら幸せな気持ちになれるじゃないですか?嫌な事があってもおいしい料理で気分が晴れたりします。それに、人がおいしそうに食べてるのを見てても幸せな気持ちになれますよ?」
「・・・勇者には精神へのダメージを回復する能力も備わっている。そもそも精神攻撃に対する強固な防御障壁を持っているから精神状態が乱れる事は無い」
「ああ!だからジオ様はいつも落ち着いていらっしゃるんですね?」
「だが確かにお前が食べている様子は見ていて飽きないな」
「・・・ありがとうございます! でもちょっと恥ずかしいかな?」
しばらく無言で食事をしていたらジオ様が話しかけてきた。
「・・・なあ、お前はどうして・・・」
「ララです!」
「・・・ララはどうして勇者の嫁になりたかったんだ?」
「・・・私、お父さんと二人暮らしだったんです。」
私は食事の手を止めて話し始めた。
「お父さんは病を抱えていて、ゆっくりと体が蝕まれていく病で、それでも私を大切に育ててくれて、いつか自分がいなくなっても私が一人で生きていけるようにと色々な事を教えてくれました。」
「そんなお父さんに少しでも元気になってほしくて、一生懸命料理を作ったんです。そうしたら私の作った料理を、おいしいおいしいって、本当にうれしそうに食べてくれたんです」
「そんなお父さんの笑顔がもっと見たくて、次はもっとおいしくしようとか、体に良い食材や病に効く薬草を使ってみようとか毎回工夫して新しい料理を考えたら、そのたびに嬉しそうに食べてくれて・・・」
「そんなお父さんの笑顔を見てたら、ああ、幸せってこうゆう事なんだなぁって思ったんです」
「そしてお父さんが息を引き取る間際にこう言ったんです」
『ララの料理には人を幸せにする力がある。おかげで人生の最後に十分すぎる幸福な時間を過ごすことができた。いつか大切な人が見つかったら今度はその人を料理で幸せにしてあげなさい』
「お父さんはとても安らかな笑顔で息を引き取りました・・・」
「だから私は素敵な相手を見つけてお嫁さんになったら、とびきりおいしい料理を作ってその人を幸せにしようと決めたんです」
「なるほど・・・しかし、なぜ勇者なんだ?」
「せっかくだったらこの世界で一番がんばってる人の力になって、その人を幸せにしてあげたいじゃないですか? この世界で一番がんばっている人っていえば勇者様だと思ったんです」
「・・・俺は・・・そんな大層なものでない・・・与えられた使命をただこなしているに過ぎない」
ジオ様の表情はいつも通り無表情だが、それでもどこか悲しそうに見えた。
「勇者の運命は過酷だ。お前が思っているような幸せは手に入らない。俺がお前を嫁にする事はないし、いずれお前自身にも過酷な運命を背負わせる事になる」
「もし・・・お前が夢見た幸せな未来をつかみたいのなら・・・勇者ではなく他にいい人を見つければいい。それを望むなら勇者の後継者にする事は取りやめにするが?」
強引な人だと思ってたけど、私の事をちゃんと考えてくれてるんだ!
表情が乏しくて感情もなさそうに見えるけど、しっかり私に対する優しさは持ってる。
「問題ありません!」
「これは私が決めた事です。勇者になって世界中の人々を幸せにする事はとてもやりがいがあります。それに私が弟子として修業を積むことでジオ様の負担が少しでも減るなら私もうれしいです!」
「・・・いいのか?・・・それで?」
「はい!」
私は満面の笑みで返事した。
「1つだけお願いしても良いですか?」
「なんだ?言ってみろ」
「食事はできるだけ一緒に食べたいです。それとジオ様にもしっかり食べて欲しいです!」
「・・・2つだが、まあいいだろう、これからはお前と一緒に俺も食べる事にしよう」
「ありがとうございます!今度私の作った料理も食べて下さいね!」
(色々訳ありみたいだけど、だったらなおさら私はこの人を幸せにしてあげたい!)