5話 勇者様のお屋敷
「こちらが勇者ジオ様のお屋敷になります」
勇者の執事?らしき初老の紳士に案内されて到着したのはとんでもなく大きなお屋敷だった。
あの魔物の襲撃の後、市場を中心にあちこち破壊された町の復興作業の傍らで、被害の無かった学校は授業を再開し、無事に卒業する事が出来た。
卒業式の翌日に勇者様の使いで迎えに来たのがこの人だ。
『バトラー』と名乗っていたが名前なのかな?
町の人たちや友達には別れを惜しまれたが、王都の学院に通う事になったと言ったら快く送り出してくれた。
勇者様のお屋敷は豪華絢爛というよりは質実剛健といった感じの重厚で落ち着いた佇まいのお屋敷だ。
質素な中にも質の高い彫刻や装飾がさりげなく施されており建物全体が1つの芸術作品といっても良いのではないだろうか?
「ジオ様って貴族だったんですか?」
王都の中心部、しかも王城の近くにこれほど大きなお屋敷を持てるのは貴族の中でもかなり上位の貴族だ。
「元は下級貴族のお生まれですが勇者となった際に上級貴族の地位を与えられています。階位は第三位となります」
この国の身分制度は9段階に分かれている
一位は王様
二位は王様の親族
三位から七位は貴族
八位は平民
九位は罪人や奴隷
第三階位という事は王様とその親族を除けば貴族の最高位だ。
(まあ、勇者がその気になれば王座なんか簡単に奪えるだろうし、当然と言えば当然の待遇かもしれない)
そんな事を考えながら玄関を入ると
「「「「「おかえりなさいませ」」」」」
メイドさんたちが出迎えてくれた。
「ようこそお越しくださいました。ララ様」
ひとりのメイドさんが前に出てきて挨拶をした。
「今日からララ様の身の回りのお世話をさせていただきます。シーラと申します。何なりとお申し付け下さいませ」
年齢は10代後半ぐらいだろうか? ダークブラウンのストレートヘアを肩で切りそろえた優しそうなお姉さんだ。
「ララです! 宜しくお願いします!」
身の回りの事ならほとんど自分でできるけど、この人たちにも仕事があるだろうし、お世話になる事にしよう。
「表向きジオ様が『勇者』という事は伏せてあります。ララ様についてはジオ様の知人のご令嬢で学院に通学させるため下宿させているという事になります。ここにいるメイドたちや他の使用人には事情を説明してありますのでご安心ください」
バトラーさんが説明してくれた。
「シーラ。ララ様をお部屋に案内して差し上げなさい」
「かしこまりました。ララ様、どうぞこちらへ」
シーラさんに案内されて到着した部屋は、まるでお姫様の部屋のような豪華な部屋だった。
(ちょっとこれは広すぎて落ち着かないかな?)
「ずいぶん豪華なお部屋ですね?」
「ジオ様から後継者となられるララ様が快適に過ごせるお部屋を用意するようにと仰せつかっておりましたので」
「シーラさん、お気持ちはうれしいのですが、ちょっと豪華すぎて落ち着かないかもしれないです」
「ご用命とあればすぐに模様替えいたします」
「あっ!そこまでしなくても、とりあえずこのままでいいです」
「恐れ入ります」
せっかく用意してくれたのに余計な仕事を増やすわけにもいかない。
「お荷物を置かれましたら浴場へご案内いたします。」
浴場はこれまた豪華なお風呂で、泳げそうなくらい広かった。
シーラさん他数名のメイドさんに体を洗われそうになったがさすがに恥ずかしくてお断りした。
シーラさんはちょっと残念そうな顔をしていた。
お風呂に入って旅の疲れを洗い流した後、お屋敷の執務室に案内された。
「失礼します」
部屋に入ると正面の机にはレンズの小さい丸メガネをかけた男の人がいた。
ぽやっとした表情で、姿勢もやや猫背、髪も少々ボサッとした感じのさえない青年だった。
「勇者様? ですか?」
「ああ、そうだ。よく来たな」
「今日から宜しくお願いします!」
私は元気よくお辞儀した。
「先日お会いした時と雰囲気がだいぶ違うので一瞬わかりませんでした」
「ほう、一瞬で俺だとわかったか?」
「はい、目線の配り方とか、においとかですね」
「なるほど」
「あらためまして、先日は助けて頂きありがとうございました。この度は素敵なお部屋まで用意して頂いて」
「自分の家だと思って好きにしてもらって構わない。今日はゆっくりするといい」
「はい!」
勇者様にあいさつした後、シーラさんに連れられて自分の部屋に戻った。
「お食事の用意が出来ましたらお呼びします。何かありましたら呼び鈴をならしてください。失礼いたします」
「ありがとうございます!シーラさん」
部屋の説明を一通りした後、シーラは部屋から出て行った。
勇者の弟子入りって思ってたのとだいぶ違ったけど、みんな優しそうな人たちで良かった。