6話 勇者の弟子と初戦
剣術大会は、部門別に予選を行い上位16名が最終日にメイン会場で試合を行う。
私は思ったよりあっさりと中級剣士部門の予選を勝ち抜き本戦出場が決まっていた。
本戦は一般部門から順に行われる。
一般部門は『剣士』の資格を持たない人たちが『下級剣士』認定試験を受けるための登竜門でもある。
前回の大会で私は一般部門で申し訳ないくらい圧勝してしまった。
私に負けた人たちトラウマになってなければいいんだけど。
それもあったんで、今回中級に昇格させられたんだろうな。
一般部門と下級剣士部門の本戦が順調に終了し、次は中級剣士部門となった。
下級剣士部門の決勝戦を見たけど、確かに今の私にはちょっと物足りなかったかもしれない。
中級剣士部門の出場者はさすがに本職の騎士や冒険者ばかりで学生は私ともう一人、2年上の先輩だけだった。
確かその学年の首席だったと思う。
私の試合は2試合目で、1試合目はその先輩の試合だ。
「始め!」
先輩の試合が始まった。
中級剣士ともなると双方『身体強化』を高レベルで使いこなしているため、速度、パワー共にかなりの迫力だ。
先輩の相手はベテランの騎士だが、先輩の方も引けを取らず互角に戦っている。
剣術のお手本のような見事な試合で、なかなか決着がつかなかったが、やがて僅差で先輩が勝利を収めた。
次は私の試合なので闘技場へ向かって歩き出すと、向こうから歩いてきた先輩が話しかけてきた。
「初めまして、『剣精』ララ君だね?」
「お話しするのは初めてですね?先輩。ええと・・・」
「ロンだ」
「ロン先輩、宜しくお願いします」
「君の事は良く知ってるよ。いや君の事を知らない者は学院に一人もいないと思うが」
「いえ、そんな」
「君の事だから次の試合は大丈夫だと思うが、その後は僕と戦う事になる。どちらが学院一の剣士かはっきりさせようじゃないか」
「もしそうなった時はお手柔らかに頼みます」
(うーん?どういうつもりで話しかけてきたのかよくわからなかった)
私の初戦の相手は冒険者だった。
30歳くらいだろうか?小柄な男性で武器としてショートソードを選んでいる。
小柄とは言っても私よりは背が高いが。
私は細身のミドルソードを選んだ。
「始め!」
始まりの合図で私は相手の出方を見るために一旦待機した。すると相手も同じくこちらの出方をうかがっていた。
どうやら向こうから動く気は無いらしいのでこちらから仕掛ける。
私の定番の真正面から突っ込んで直前で進路変更して脇をかすめる戦法だ。
相手はショートソードを逆手に持って体の後ろに隠している。
右手に持っているはずだから私は相手の左側に進路を変えて切りつける。
しかし、私の動きを予想していたのかショートソードは左手に持ち換えられて私の攻撃を受け止めた。
私は右に跳んで距離をとる。相手も逆方向に跳んでいた。
(戦いのスタイルが私に似ている)
ショートソードを選んでいる時点で予想はしていたが、私と同じで速度重視の一撃離脱スタイルだ。
この場合実力が拮抗していると先に仕掛けた方が手の内をさらす事になるので不利になる。
相手はプロの冒険者だ。普段から命と勝ち負けなら命を優先する選択をしているはずだ。
おそらく向こうから仕掛けてくることはないだろう。
かといってこれは試合なので双方動かずに時間切れになると両者失格となる。
それならこちらから仕掛ける一択だ。
私は相手に向かって螺旋を描くように走り出した。
相手はこちらを警戒しつつ向きを変えて、カウンターの隙をねらっている。
相手の周りをまわりながら次第に距離が近づき、剣の長いこちらの間合いに入ったところで切り付ける。
当然相手はそれを迎撃に来るので、直前で体をひねって軌跡を変える。
私の剣を受け止めようとしたショートソードは空を切り、私は地面すれすれで仰向けの状態で相手の胴体にミドルソードを叩きこんだ。
そのまま体を旋回しつつ相手の脇すり抜けて体勢を戻し反対側に通り抜けた。
「そこまで! 勝者ララ!」
審判の合図で試合終了となった。
相手の人は脇腹を抱えてうずくまっている。
試合用の剣は刃が無いので致命傷にはならないがかなりのダメージが入ったはず。
「すみません!大丈夫ですか?」
「いててて、いや、大したもんだよお嬢ちゃん」
救護班の魔法士が駆け付けて治癒魔法をかけ始めた。
「お嬢ちゃんの動きはとらえてる自信があったんだが最後の最後で見失っちまった」
「はい、追跡できているのがわかったので、あえて正確な軌跡を描いて接近して最後にわざと挙動を崩しました」
「あの無茶な体勢から攻撃できるとは思わなかったよ」
「噂の『剣精様』がどれほどのものか半信半疑だったんだが予想以上だったよ! あと言い訳になっちまうが、真剣な顔でこっちを見つめて迫ってくるお嬢ちゃんがあまりにもきれいで、年甲斐もなく一瞬ときめいちまって対応が遅れたってのもある」
「恥ずかしいです!おじさん」
私はおじさんの背中をぺしんと叩いた
「いてててて!まだ傷がなおりきってねえよ」
「あぁ!ごめんなさい!」
「それに思ったほどお高くとまってねえんだな」
「まぁ、庶民の生まれですから」
「ははっ!気にいった!お嬢ちゃんみてえな子がうちのパーティーに入ってくれたら心強いんだがな」
「すみません、もう別のパーティーのメンバーなんです」
「そいつは残念だ。まぁいつか一緒に戦う事があったらよろしく頼まぁ!」
「こちらこそ、宜しくお願いします!」
一試合目は無事に勝利を収めた。