8話 勇者の弟子の無双
遠くの方から悲鳴のような声が聞こえた。
「今、悲鳴が聞こえましたよね?」
みんなに聞いてみた。
「えっ?あたしは何も聞こえなかったけど?」
「わたしも」
「どんな声だった?」
「多分講座にいた子の声です。気になるので様子を見てきます。教官、二人をお願いします。後から来てください」
私は声の聞こえた方に走りだした。
「おい!ちょっとまて! ってもう見えないか」
教官が後ろで叫んでいた。
(かすかに聞こえただけだったからだいぶ離れているよね?)
走りながら遭遇した『小鬼』を切り捨てていく。
悲鳴が聞こえた場所に近づくにつれてだんだん魔物と遭遇する頻度が増えてきた。
(人がいる!)
人の気配を感じた方に走って行くと、教官の一人が3体の魔物と対峙していた。
「手伝います!」
私は魔物の後方に出たので、そのまま後ろから1体を両断する。
残り2体が驚いてこちらを振り向いたが、その時には返す刀でその内の1体を切り裂いていた。
残り一体はその隙に教官が倒していた。
「ありがとう、助かった」
「いえ、それより何があったんですか?」
「『小鬼』の大量発生だ!100体以上の『小鬼』に囲まれてしまった!」
「100体ですか?」
『小鬼』は通常群れで行動するがふつうは多くても10体ぐらいのはずだ。
「気が付いたら複数の群れに包囲されていたんだ。いくつかのパーティーが追い詰められて襲われている。俺は少し離れた場所にいたので孤立してしまった」
「まだみんなが襲われてるんですね?どっちですか?」
「向こうの方だ!って君、一人で行ったらだめだ!」
「後から私のパーティーが来ますので合流して下さい!」
走り出しながら声をかけた。
教えてもらった方向に行くと、たくさんの悲鳴が聞こえてきた。
森が少し開けた場所に緑色の壁が出来ていた。
おびただしい数の『小鬼』の群れだった。
『小鬼』の壁の向こうには、教官たちが生徒たちをかばって対峙していた。
だが、数が多すぎて全てを防ぎきれず、何体かの『小鬼』が生徒に手をかけていた。
服をやぶかれたり、血を流している子もいる。
「私の友だちから離れて下さい!」
私は包囲網の数体を切り倒し、隙間を開けて中に駆け込んだ。
「いま助けるよ!」
「「「「「ララ!」」」」」
私は生徒たちに手をかけている『小鬼』を次々と切り裂いた。
「ララ君、助かったよ」
教官の一人が話しかけてきた。
「相手の数は多いですけど教官がこれだけいて、どうしてこんなに苦戦しているんですか?」
私は疑問に思った。
「この場所に来てから『身体強化』が使えなくなった。魔法も発動しない」
「どうゆう事ですか?」
「わからない、魔力の流れを阻害する結界のようなものが張られているのかもしれない。とにかく我々も生徒たちも弱体化してしまって、『小鬼』程度にも歯が立たない」
魔力を阻害する結界ってどうゆう事だろう?
「とりあえずみんなを頼みます!」
教官たちに声をかけて、包囲網の方に取って返す。
「君は大丈夫なのか?」
「私は元々『身体強化』使えませんから!」
魔力が阻害されていても元々魔力が使えない私には何の影響もない。
包囲網の一角に切り込むと『小鬼』は目標を私に絞ったようで、一斉に私の方に迫ってきた。
(好都合ね!)
注意が私に集めればみんなが襲われる危険がなくなる。
・・・そしてお父さんとジオ様仕込みの私の剣技は相手が仕掛けてきた時に最大の威力を発揮する。
襲い掛かってきた小鬼を相手の勢いを利用して切り裂く。
次々と襲い掛かってくるが、最小限の動きでさばいていく。
ターゲットである私が小さいので、一度に襲い掛かってくる数には限りがある。
先に襲い掛かってきた『小鬼』を切り伏せると同時にそこに移動し、次相手の攻撃に時間差を作り、順番に処理していく。
同時にかかってきた時は体を回転させながら、一回転する間に数体の『小鬼』を両断する。
『小鬼』を倒しながら、少しずつ生徒たちから離れるように群れを誘導していく。
気が付くと私を中心に『小鬼』が渦巻き状に集まっていた。
流れがつかめたので、後はそれを繰り返すだけだった。
やがて私の周りには100体以上の『小鬼』の残骸が蒸気を吹き出して転がっていた。