8話 勇者の弟子と地中の調査
「地中に潜るって、どうするんですか」
テンちゃんが私に質問した。
「どうって、水中と同じように泳げばいいんだよ」
みんな私が何を言ってるのかわからないみたいだね?
「まあ見ててね!」
私は空中に飛び上がると、空中で人魚の姿に変身した。
今度は下半身裸にならなくても魔法で装備を異空間にしまい込むのと同時に姿を変えたから、恥ずかしい姿になる事は無い。
そして空中でくるりと体をひねるとそのまま頭から地面に飛び込んだのだ!
目前まで迫った地面に激突するかと思いきや、そのまま水に飛び込むかの様に地面に飛び込むと、視界が切り替わって、透き通った地中の風景に変わる。
そしてその中を泳いで向きを変え、再び地上に顔を出したのだ。
「ララ!何をやったんだ?地面の中に消えていったぞ」
ジオ様も少し驚いた顔をしている。
「ふふっ、魔法で自分と周りの境界を変化させて周囲の土を水と同じ特性に変わるようにしたんです。さらに視界を変化させて地中が透明に見えるようにしたんですよ」
「そんな事が出来るのか?それも『強欲の魔女』の魔法なのか?」
「はい、そうですよ。でも人魚の姿と組み合わせたのは私のオリジナルです。元々は地面の下をゆっくり移動する魔法だったんだけど、こうすると水中を泳ぐのと同じくらいの速度で地中を移動できちゃうんだよね。その代わり、同時に視界もちゃんと確保しないと危ないから、土を透視する魔法を改良して地中がクリアに見える様にしたんですよ」
さすがに土の中の探索は魔法を使わないと時間がかかりすぎるからね。
「じゃあ、ちょっと地中を探索してきます」
私は地中深く潜って行って地下水脈の異常を調べ始めた。
地中で視界が効くようになったと言っても、せいぜい数十m程度だ。
ある程度近づかないと目視する事が出来ない。
基本的に土や砂は透明になるけど、岩やそれ以外の物質は透明にならない様にしてある。
地中を縦横無尽に泳ぎ回って、地下水脈が途切れた原因を突き止めなければならないのだ。
問題があるとしたら、水を豊富に蓄えたオアシスと、水が枯れたオアシスの間にあるのは間違いない。
そのエリアを重点的に探し回っているのだが、なかなかそれらしい物が見つからない。
私は一旦ジオ様たちの元へ戻る事にした。
「ごめん、やっぱり一人では探し切れないかも。ジオ様とテンちゃんも手伝って貰っていいかな?」
「ああ、構わない」
「もちろんです」
「じゃあ、二人はこの魔法陣を覚えて魔法を発動してみて」
私は地面に潜る魔法と地中で視界を確保する魔法の魔法陣を描いた。
魔女の魔方陣は普通の魔法使いでは起動する事が出来ない。
魔女は元々共通の魔法を使っているわけではなく、一人一人が固有の魔法を使うものなのだ。
だから魔女には本来魔法陣という物は必要ない。
ただ、魔女から魔女に魔法を伝授する時に、参考とし魔法陣の形で魔法の発動原理を伝える事が出来るのだ。
魔女の魔方陣を見た別の魔女は、その魔法陣から魔法の構成を理解し、自分の固有魔法に置き換えて再構築する事により、同じ魔法が使える様になるのだ。
ただこれは、その魔女の固有魔法との相性により、必ず使えるという訳ではない。
「魔法を習得出来ました」
「俺の方も使えそうだ」
テンちゃんもジオ様もこの魔法を習得できたみたいだね。
テンちゃんは私の使い魔になった時点で、私の能力をコピーしているから、私の使う魔法は問題なく習得できるはずだ。
ジオ様も今は疑似的に魔女と同等の魔法が使える様になっているから、習得できたようだね。
「じゃあ、人魚になる魔法と同時にこの二つの魔法も発動して土の中に潜るよ!三人で手分けして地下水脈の途切れた原因を突き止めるからね!」
「はい!わかりました」
「ああ、まかせろ」
ジオ様とテンちゃんは、私と同じ様に空中に飛び上がると、空中で人魚の姿に変わり、空中でくるりと向きを変えると頭から地面に飛び込んでいった。
・・・大丈夫だってわかってるけど、傍から見てると一瞬ヒヤッとする光景だね?
「ララ様・・・さっきララ様がいきなり説明も無に地面に飛び込んだ時は、わたくしたちも肝を冷やしましたよ」
私がいま、ヒヤッとしたのをシィラには気が付かれていたみたいだった。
「まあ、ララ様がわたくしたちをひやひやさせるのはいつもの事ですけど」
「あはは、ごめんね、いつも・・・じゃあ行ってくるね!」
私はジオ様たちの後を追って地中へと潜っていった。
二人とも地中を泳ぐ事にはすぐに慣れた様で、既にあちこちの捜索を開始していた。
「何かそれらしい物は見つかった?」
「ああ、こいつじゃないのか?」
ジオ様はそう言って、まん丸い岩の塊を手に掴んでいた。
「それって・・・岩じゃないんですか?」
「ああ、岩みたいだが魔物だ。どうやらこいつが大量に発生して、地下水脈を塞いでいたみたいだな」
ジオ様が丸い岩の塊の隙間に指を入れて左右に開くと、丸かった岩が開いていったのだ。
それはまるでダンゴムシのような形をしていた。
開いた部分からわしゃわしゃと無数の足がうごめいていたのだ!
「ええっ!そうだったんですね!岩だと思って見過ごしてました!」
「こいつが地下水脈の中を進行し、途中で丸くなって水流をせき止めていた様だな」
「つまり、これを全部倒せば地下水脈が復活するって事ですね」
「ああ、そうだ」
「でもこれって・・・・・」
私がざっと見かけただけでも、夥しい数の丸岩が地中に埋まっていたのだった。




