4話 勇者の弟子と女性の行方
「どういう事?誰一人ルルを連れた女性がこの場から離れるところを見ていないなんて!」
ジオ様が足場の崩れた事故現場の瓦礫を片付ける際にルルを預かってくれた親切な女性が、その後忽然と姿を消してしまったのだ!
「すまない、ララ。彼女から悪意は一切感じられなかったのだ」
ジオ様は直感的に悪意を持った人間を見分ける事が出来る。
その女性には悪意を持ってルルを誘拐しようとか、そういった意図はなかったはずだ。
「それよりジオ様、その女性の顔は覚えていますか?」
「いや、それが・・・何故だか全く顔を思い出せないのだ。顔だけでなく服装や特徴も思い出す事が出来ない」
「・・・それってまるで・・・『静慮の魔女』みたいですね?」
ジオ様がここまで女性の顔や特徴を覚えていないなんて、普通ならあり得ない。
それに、事故現場で赤ちゃんを抱いた女性なんて目立つに決まってるから、誰も見ていないなんて事も考えられない。
私も遠目にその様子を見ていたのだけれど、その女性の服装など全く思い出せないのだ。
「あの女性が『静慮の魔女』だったというのか?」
「その可能性は十分に考えられるね。でも、そうだとしたらとりあえずルルの身の安全は確保されているとは思うんだけど・・・」
・・・でもそうすると、彼女がルルを連れ去った理由は何のだろう?
「ララの魔法で『静慮の魔女』の行方を探す事は出来ないのか?」
「魔女は相互にその存在を見つける事は出来ないんだよ。私みたいに表立って行動していれば、所在を知る事は簡単だけど、大抵の魔女はその存在を世間から隠そうとしているからね」
・・・よく考えたら、魔女の中で私だけが他の魔女に所在を知られてしまってるんだよね。
普段は魔女はお互いに干渉しないから問題は無いんだけど、『傲慢の魔女』の様に私の存在を疎ましく思っている魔女もいるからね。
「どうやってルルを取り返せばいい?」
「『静慮の魔女』がルルを連れ去ったのだとしたら、私に何かを伝えたいか、私をどこかに誘導するのが目的だと思うんだよね。だから向こうから何かしらのアクションがあるはずだよ。」
そうはいっても、ゆっくりはしていられないからね。
すぐに彼女からアクションがない時は探す方法を考えないといけない。
あるいは何かヒントを残してるかも?
「唯一の気がかりは・・・・・ルルの授乳だよ!ネネが母乳を出せるといいんだけど・・・」
「・・・ララ・・・さすがにそれは無いと思うぞ」
「それなら、ちゃんと離乳食を与えてくれないと!ルルが栄養失調になっちゃうよ!」
今の時期の栄養不足はこれからの成長に影響するからね!
「とにかく、現場の調査と、『静慮の魔女』が現れそうな場所の捜索に行こう」
「そうだね。こうしている時間がもったいない」
私とジオ様は、ルルを女性に預けた場所の近辺を入念に調査したが、一切の痕跡を見つける事が出来なかった。
シンにも連絡して、捜索の輪を広げてもらった。
ミラやレダが指揮をして、王都だけでなく周辺の村にも調査隊を派遣してくれたのだ。
しかし、それでも有益な情報は一つも得られなかったのだ。
「ララ様、申し訳ありませんわたくしがお二人に同行してルル様をお預かりしておけばよかったのですが」
ルルの捜索に加わったシィラが申し訳なさそうに私に謝った。
「シィラのせいじゃないよ。親子三人で出かけたいって無理にお願いしたのは私の方なんだし」
「俺がもっと警戒心を持っていれば良かったのだ」
「ジオ様も、あの場は仕方なかったです。人命救助の方が優先でしたから」
それを言ったら私にも責任がある。
「それにしても、ここまで何の手掛かりも無いというのはどういう事だろう?迷子の情報はいくつかあったけど、どれもこれもルルでは無さそうな話だったし・・・」
私を誘い出す事が目的なのは間違いないと思うんだけど・・・
「あるいはルル自身が目的だったのかも?」
「それはどういうことだ?ララ」
「ルルを何か儀式に使うとか、あるいは、後継者として育てるとか?・・・でもやっぱりかわいいから自分のものにしたくなっちゃったりとか?」
「・・・ララ様、さすがに最後のは無いとは思いますが・・・でも、そうなると厄介ですね。このまま闇雲に探しても見つからない可能性が出来てきました」
「ルルを儀式の生贄にってのはさすがに無いとは思うけど、あれだけかわいいと、つい自分の子にしたくなっちゃうとかは本当にありそうな気がするんだけどな」
結局、その日の夜になってもルルは見つからず、私はジオ様と夜通し探し続け、気が付くと次の日の朝を迎えていた。
「ララ、さすがに少し休んだらどうだ?」
ジオ様が私を心配して声をかけてくれた。
「魔法で回復してるから大丈夫です。それよりも早くルルを見つけてあげないと!」
夜の間に帝都中を調べて回ったけど、それらしい痕跡は見つける事が出来なかった。
今日は帝都の外の周辺の町や村を探しに行くつもりだった。
「ララ、寝ずに捜索していたのですか?」
一旦、後宮に戻って来ていた私たちのところに、ミラがやってきた。
「うん、私達は寝なくても大丈夫だから」
「こちらも交代で夜通し捜索を続けましたがそれらしい情報は得られませんでした」
「そっか・・・ごめんねみんなに迷惑をかけて」
「いえ!それよりもルル様の方が心配です!・・・それで、帝都の周辺の町や村で得られた情報をまとめたリストをもってきたので一応御確認をして頂こうと思いまして」
ミラはリストの書かれた紙を私に手渡した。
「ありがとう」
昨日の時点で報告のあった、それらしい女性の報告や迷子の報告などが並べてあったが、確かに静慮の魔女やルルに該当する内容のものは見当たらなかった。
・・・でもその中の一つに目が留まった。
「ミラ、これは?」
「実は帝都の西方の砂漠にある小さなオアシスの村で赤ん坊を保護したそうですが、女の子という報告だったので、とりあえず除外していました」
「もしかしてルルの事なんじゃないの!」
「ですが女の子と報告が?」
「今のルルって、誰が見ても女の子に間違えられるんだよ!報告した人が勘違いしているのかもしれない!」
「あっ!そうですね確かに」
「今すぐ西の村に出発するよ!」
私はその情報に期待を託して、西の村を目指す事にしたのだった。




