12話 勇者の弟子と竜の息
私とジオ様は水中の魔物を倒しながら時々水面に顔を出して、上級の魔物の動向を確認していたが、女王たちは劣勢を強いられていた。
早く応援に行きたいのだけど魔物の数が多すぎてそうも行かない。
「ララ、ここは俺に任せてララだけでも先に行け」
「でも、ジオ様一人でこの数は・・・」
「何とかする。いいから女王たちを助けてこい」
「わかりました。お願いします!」
私は魔物を倒す事を中断し、上級の魔物の方を目指す事にした。
ジオ様が死ぬなんて事はまずありえないけど、魔物の処理が一人では追いつかないかもしれない。
そうなると、ジオ様が取りこぼした魔物で他の兵士たちの被害が広がってしまう。
そのため、私は上級の魔物をできるだけ迅速に倒して、ジオ様の元に戻らなければならない。
とはいっても、私の行く手にも多くの魔物がいるので、すぐにはシス女王たちのところまでたどり着く事が出来ない。
その間にも上級の魔物は川岸に接近し、触手の攻撃も激しさを増している。
シス女王とテンちゃんが、少し離れた場所でそれぞれ防御の要となっている様だ。
でも、二人とも他の兵士たちの援護をしながら無数の触手を相手しているため、防戦で手いっぱいだ。
テンちゃんは剣で戦いながら同時に複数の魔法も操れるから、触手との乱戦状態を一人でもなんとか持ちこたえているが、シス女王の方は、特に劣勢だった。
そんな時、シス女王の周囲を守る兵士の一角が崩れたのだ!
触手の攻撃に晒される兵士の防御にまわろうとした女王の隙をついて触手が迫った。
その女王を庇う様に、一人の女性が女王を突き飛ばして触手の攻撃をまともに受けてしまったのだ!
「あれは!・・・アヌさん?」
距離が遠くてはっきりとはわからなかったけど、アヌさんは複数の触手に体を切り刻まれていた。
そして、倒れたアヌさんにシス女王が縋り付いている。
シス女王の様子からしてアヌさんはかなりの重傷だ。
この上級の魔物の触手はエッチな事をしてくるなどと言いう生易しいものではなかった。
完全に人を殺すつもりの攻撃だ。
・・・魔物なのだからそれが当然だった。
そして女王たちに触手の次の攻撃が迫っていた。
このままでは女王たちが全滅してしまう!
私が上級魔法を放てば一撃で上級の魔物を仕留められるかもしれないけど、速射できる上級魔法を今の私の位置から放つとみんなを巻き添えにしてしまう。
かといって、『グラビティキャノン』みたいな発動に時間のかかる魔法では間に合わない!
そうだ!テンちゃんなら!
テンちゃんの位置からだったら、強力な魔法を放ってもみんなに被害が及ば無い。
(テンちゃん!女王たちを守って!方法は何でもいいから!)
私はテンちゃんに念話でよびかけた!
ここからでは遠くて声が届かないからだ。
(了解です)
今のでテンちゃんは全てを理解したみたい。
もうこうなったら竜の正体を現しても構わない。
人命の方が優先だよ!
テンちゃんは竜の姿に戻ると思いきや、そのままの姿で息を思いっきり吸い込んだ!
テンちゃんに向かって強烈な風が吹き、周囲の気圧が低くなった気がする。
そして次の瞬間・・・
・・・大きく開いたテンちゃんの口の前に、一筋の光が走ったのだ!
光っているけど、これは強烈な風なのかもしれない。
そしてその光は上級の魔物の体を貫いた!
それは最初、細い一筋の光だったのだが、それは次第に太く膨らんでいった。
それはテンちゃんの口を頂点とした円錐形をしていた。
「これって・・・ドラゴンブレス?」
そう、これは天空竜のドラゴンブレスだ!
てんちゃん、人間の姿のままでもブレスを打てたんだ!
テンちゃんの口から放たれた光が消えていくと、イカの形をした上級の魔物の体は、その大半が円形に消失していた。
上級の魔物から生えている触手は動きが止まり、バサバサと水面に落ちていった。
そして、残った部分が蒸気を噴き出して消失し始めたのだ。
おそらくさっきのテンちゃんのブレスで魔結晶が吹き飛んだのだろう。
とりあえず最大の脅威が去ったが、女王の陣営の被害も甚大だ。
私は急いで女王たちのいる川岸に向かった。
「アヌ!アヌ!しっかりして!」
川岸に近づくとシス女王がアヌを抱きかかえていた。
アヌは片手片足が無くなり、胴体にもいくつか穴が空いて瀕死の状態だった。
すぐに治療しないと死んでしまう!
私は全速力で川岸に向かって泳ぐと、岸の直前で下半身を元の人間の姿に戻し、そのまま岸に飛び上がった。
そして着地と同時に女王たちの元へ駆けつける。
「シス女王!アヌさんは?」
「ララ殿!アヌが、アヌが我を庇ってこの様な・・・」
アヌは瀕死の状態だけどまだ息がある。
「すぐ治療します!アヌさんを地面に寝かせてください!」
シス女王がアヌを寝かせると私はその上にまたがり、アヌの胸に手を当てて内臓の修復を始めた。
とにかく、ずたずたになった内臓をすぐに治さないとアヌは数分で死んでしまう。
「シス女王はアヌさんが意識を失わない様に声をかけ続けてください!」
「わかった!アヌ!しっかりしろ!死ぬでないぞ!」
内臓の治療を続けていると、アヌの瞳に次第に生気が戻ってきた。
「・・・陛下・・・ご無事で?・・・」
「お前のおかげで我は何ともない。それよりもお前の方が大事だ!」
「・・・良かった・・・」
アヌの意識は大丈夫みたいだね。
内臓の修復は何とか間にあってアヌは何とか一命を取り留められそうだ。
完全に死んでしまっては魔法でも生き返らせる事は出来ないからね。
「シス女王、アヌさんはもう大丈夫です。これから手足を再生しますね」
「そんなこともできるのか?さすが大聖女殿だ」
「はい、元通りきれいに治りますよ」
「ララ、こっちは大丈夫か?」
私がアヌの手足の再生を始めたところで、ジオ様の声が聞こえた。
声の方を見るとジオ様がこちらに向かって泳いできているところだった。
ジオ様が人魚の姿のまま上陸しないかと心配していたら、ちゃんと水から出る前に人間の姿に戻っていた。
そう、下半身裸のジオ様が、なにも隠そうともせずに河から上がってきたのだ!
「ジオ様!下半身を隠してくださ・・・・・あっ!」
・・・しまった!・・・よく考えたら私も下半身裸のままだったよ!