4話 勇者の弟子と魔法庁
「じゃあ次は魔法庁に行こうか?」
魔法庁は王城を出て少し歩いた場所にある。
魔法庁は魔法の運用、施行、魔法士の資格管理、魔法の研究開発の統括管理を行なう機関だ。
セナ様は肩書上は魔法庁長官で、そこの最高責任者となっている。
ちなみに魔法庁の上には魔法省があり、そこでは魔法大臣の元、魔法に関する法律の整備と管理を行なっている。
「ここだよ!」
金属なのか石なのかわからない光沢のある鏡の様な外壁の窓のない四角い建物だ。
セナ様が近づくと何もない壁に入り口が現れた。
「さぁ!入って入って!」
中に入ると広いロビーだった。明らかにロビーだけでも建物の外観よりも広い気がする。空間魔法だろうか?
セナ様は顔パスのようで、さくさく奥へ進んでいく。
「ここが僕の執務室だよ。まぁほとんどここにはいないけどね」
魔法庁長官の執務室に案内された。
壁には本棚がありたくさんの本と怪しげな魔法グッズらしき物が並んでいる。
「ララちゃんに会わせたい人がいてね! どうぞ」
「失礼します」
扉から入ってきたのは、上級魔法士の豪奢なローブを纏い大きな杖を持ったメガネの女性魔法士だった。
頭には大きなつばのとんがり帽子をかぶっている。
黒みがかった灰色の長髪はぼさぼさで、目の下にはくまがあり、茶色の目は寝不足のためか生気を失って黒っぽく見える。
年齢は若くも見えるが老人のようにも見える。
その姿は絵本でみた『魔女』の風体そのままだった。
「僕の部下で『上級魔法士』のミトさんだよ。魔法庁魔法陣研究室の室長をやってる」
セナ様が紹介してくれた。
「ミトです・・・ララさんお久しぶりです」
「え? あれ? 先生ですか?」
見覚えがあると思ったら、学院の魔法講座の先生だった。
入学試験の時の試験官で、入学後はララを熱心に魔法講座に勧誘していた人だった。
でも前にあった時はもう少し健康的だったような・・・
「あらためまして、ミト様、ララです。宜しくお願いします」
「ミトさんはね、魔法庁の室長と学院の講師を兼任してたんだけど、ララちゃんの魔法陣を見てからララちゃんの魔法陣に心酔してしまってね。ララちゃんに振られたあと研究室にこもりっきりで魔法陣の研究に没頭しはじめて気が付いたらこんな状態になってたんだよ」
「見た目が変わっていたのはそのためだったんですね?」
「さすがにこのままではまずいと思って一度ララちゃんに会わせたかったんだ」
(確かにこのままだとミトさん死んでしまうかもしれない)
「ララさんの魔法陣は本当にきれいなんです!あの感動が忘れられなくて、自分でも描けないか何度も何度も挑戦したんですが、描画速度も精度も全然追いつかなくて・・・」
「あの速さは僕でも無理だよ」
「速さの方は、元々自分がどんくさいのは知ってますので早々に諦めました、でも精度の方もいくらゆっくり慎重に描いてもあのレベルにならないんです」
「行き詰って悩んでいるときに長官からララさんの描いた魔法陣を長官が発動できたよって自慢気に話すのを聞いて・・・」
(セナ様、なぜそこで自慢?)
「あぁぁぁ!そうかぁ!あれだけきれいな魔法陣なら他の人でも発動できたんだぁ!」
「って目から鱗でした。何で私はあの時気が付かなかったんだろう? 試験の時のあの美しいヘルフレイムの魔法陣を自分が発動できたかもしれなかったのに!って思った時は一晩中泣きあかしました・・・」
「・・・いや、あそこでヘルフレイムが発動してたら学院が無くなってますよね?」
ヘルフレイムは町一つ丸ごと焼き尽くすと言われている上級魔法だ。
「それ以前に僕の許可なしで勝手に上級魔法を使ったらダメだからね!」
「とにかくこのままだといろんな意味で危ないから、申し訳ないんだけどララちゃんにちょっと手伝ってもらいたいんだよ」
「ええと?私は何をすればいいんですか?」
「学院の魔法陣の講座に参加して時々ミトさんの相手をしてほしいんだけど」
「・・・わかりました。もうすぐ弓術の講座が終了するのでその後からでもいいですか?」
「ほんとですかぁ!?ありがとうございます!!!」
ミト様は私の手を掴んで激しく握手してきた。
「くれぐれも上級魔法は勝手に使ったらだめだからね!」