10話 勇者の弟子と大河の決戦
私とシンが担当しているのは一番川下の上陸ポイントだ。
ここですべての魔物を殲滅できればいいのだが、この河はとんでもなく幅が広く1km近い川幅がある。
深さもあるので、上流に向かう魔物を全て食い止める事は難しい。
まあ、上級魔法を遠慮なく連発しちゃえば不可能ではないんだけど、さすがにこれだけの人眼がある中でそこまで常識外れの事をしでかしてしまうと言い逃れが出来ない。
一般的な勇者としての常識の範囲内で対処しないといけないのだ。
・・・『一般的な勇者』の定義っていうのも変な話だけど、実際にジオ様は勇者の新しい能力を次々開花してしまってるんだけどね。
『大聖女』の奇跡って言ってごまかせなくも人だろうけど、そんな事をしてこの帝国でますます『大聖女』の価値が上がってしまうと、今の様に身軽に動けなくなってしまうからね!
そういう訳で、このポイントで上陸してきた魔物だけを地道に剣と中級魔法で倒していく事になる。
あとは『大聖女』として、負傷者の治療に当たってるって感じだ。
幸いにも上陸してくる魔物は下級の魔物ばかりなので、それほど大出力の魔法は使う必要がなさそうだ。
・・・それにしても、中級の魔物が少なすぎないかな?
少し気になったので魔法で水中を索敵してみたら、中級の魔物はこのポイントを通過して上流に向かっていたのだ!
河口から河を登ってきた魔物たちが王都に向かうにはこのポイントから上陸するのが最も最短ルートなのだが、やはりある程度の数の魔物が、川岸から離れたルートを泳いでそのまま川上に向かって直進していた。
そして特に体の大きな中級の魔物は、このポイントでは川底が浅いため、深みのある川の中央をそのまま上流に向かって進んでいた。
そのためこのポイントで上陸する魔物は数こそ多いがほとんどが下級の魔物だったのだ。
「シン!大変です!中級の魔物がみんなここを通過して上流に向かっています!」
「なんだって、中級の魔物がいないと思ったら、河の中を通過していたのか?」
「はい、ここの川岸は浅瀬なので。小型の魔物にとっては上陸しやすい場所なのですが、魚型の大型の魔物にとっては上陸しにくいみたいで、河の中央の深い部分を直進していた様なのです」
「それでは次のポイントが大変な事になるのではないか?」
「はい、これだけの数の中級の魔物が相手となると、ジオ様一人では対処しきれずに、他に被害が出るかもしれません!ですから私がこれから応援に向かいます」
「ああ、ここは下級の魔物だけであれば俺たちで対処可能だ。ララには上流の援護に向かってほしいが、今からで間に合うのか?」
「泳いで行けば大丈夫です!」
わたしはそう言って河の中に入っていった。
そして水深がおへその辺りに来たところで、下半身の装備を外し、インナースーツも脱ぎ去ったのだ!
「シン!これを預かっていて下さい!」
私は脱いだ装備とインナースーツを丸めてシンに投げた。
「ララ!これは?・・・何をしてるんだ!」
それらを受け取ったシンが驚いてるけど、説明している時間は無いからね。
私は下半身を人魚の姿に変化させて泳ぎ始めた。
水中に潜ると、予想以上に多くの魔物が上流に向かっていた。
川の中央は水深も深く、河とは思えない広さだ。
これなら上級の魔物でも潜ったまま上流に行けてしまうんじゃないかな?
私は水中の魔物をできるだけ倒しながら上流へ向かった。
水中戦は何度も経験してすっかり慣れてきている。
この人魚モードと、風魔法をまとわりつかせたレイピアは相変わらず水中で無敵だね。
ただ、魔物の数がとんでもなく多いため、いくら倒しても追いつかないよ。
しかし、ジオ様の担当している第二ポイントにはそれほど時間をかけずに到達できた。
私は水面から顔だけを出してジオ様の様子を確認した。
第二ポイントは、下流の第一ポイントほど浅瀬が広くないため、一部の中級の魔物はここから上陸していた。
ジオ様はまさにその対応をしているところだった。
上陸する中級の魔物はそれほど多くは無いのでジオ様なら問題なく対処できる状況だ。
それよりも問題は、このポイントも通過して上流に向かっている中級の魔物が圧倒的に多いという事だ。
これは、私とジオ様の二人で、水中を通過していく中級の魔物を仕留めた方が良さそうだね。
私はジオ様に呼びかけた。
「ジオ様!水中にたくさんの中級の魔物がいて、上流に直進しています。ジオ様も水中に潜って私と一緒に戦ってください!」
「わかった。そっちに行く」
私の声に気付いたジオ様が、河の方に走ってきました。
「下半身は裸になっておいて下さい」
「ああ、了解だ」
私がジオ様も人魚モードに変えると悟ってくれたジオ様は、水に入る手前で一旦止まり、下半身の装備とインナースーツを脱いでしまった!
・・・当然、周りにいた男性の兵士たちがギョッとしていた。
そりゃそうだよね。
目の前で美少女がいきなり下半身裸になったんだから!
しかしジオ様は周りの目を全く気にせずに、装備を河原に残して河に飛び込んだのだった。




