5話 勇者様と大河の女王
魔物の上陸を阻止するための防衛線の最前線では、女王自らが陣頭指揮をとって魔物と戦っていた。
しかし、魔物の数が多すぎて劣勢を強いられている。
・・・これは、女王が圧倒的な強さでなんとか戦線を保っているが、もし女王が倒れれば、一気に崩されてしまうだろう。
「着いたか?戦況はどうなっている?」
そこにシンも起きてきた。
「思わしくありません。たった今ジオ様が支援に向かいましたが、間に合うかどうか・・・私も行きます。テンちゃんも一緒にきて!」
「はい、お供します」
「シン、申し訳ないのだけど魔道馬車をお願いします」
「わかった、宜しく頼む」
テンちゃんには私とお揃いのレイピアを渡した。
「テンちゃんはできるだけそのレイピアで戦って。魔法は中級魔法までなら使っていいけど、くれぐれも兵士に被害が及ばない様に気をつけてね。それから竜の姿になったり、竜の力は絶対使っちゃダメだよ」
「了解しました」
テンちゃんが竜の姿に戻れば、一瞬で魔物を殲滅できるけど、兵士や、地形にも被害が出てしまうからね。
一応、テンちゃんには人間の姿で、剣の稽古もつけてある。
飲み込みが早くて、すでにかなりの腕前になっているのだ。
攻撃魔法も無手順で発動できるから、近距離の敵と剣で戦いながら、同時に遠距離の敵に魔法で攻撃できる。
こういった一対多数の乱戦では有利に戦う事ができるのだ。
私も普段の戦闘ではできるだけ魔法は使わない方針なんだけど、今はそんな事言ってる場合ではないので出し惜しみは無しだ。
魔道馬車から飛び出した私とテンちゃんは、ジオ様と同じ要領で魔物を足場にして水面を跳躍しながら進んでいった。
魔道馬車の進路上の魔物はジオ様が一掃してしまったので、それぞれ左右に分かれて両脇の魔物を足場にしつつ殲滅していく。
前方では、前線が押し切られ、体勢を崩した女王に、まさに魔物の群れが襲い掛かろうとしているところだった。
しかし、ジオ様は速度を一気に加速して、女王に襲いかかる魔物の群れを後ろから一気に殲滅してしまった。
そして、女王に噛みつこうとしていた最後の一体を切り捨てると同時に、倒れていた女王を抱き抱えると、そのまま戦線の後方に跳躍したのだ。
「大丈夫か?」
「・・・助かった。何と礼を言って良いか・・・」
女王は顔を上げてジオ様を見た瞬間固まっていた。
・・・これって・・・
なんかやな予感がしたけど、まずは魔物たちを何とかするのが先決だ。
とりあえず、テンちゃんと二人で残りの魔物を片っ端から駆逐していった。
岸までの進路が確保できたので魔道馬車で乗り付けたシンも合流した。
「またせたなララ、ジオ殿と女王は無事か?」
「ジオ様は、女王を助けて助けて一旦内陸の方に連れて行きました。今は向こう側で上陸した魔物と戦っています」
ジオ様と女王の方を見ると、女王も体勢を立て直したみたいでジオ様と共に川岸で撃ち漏らした魔物の掃討を再開していた。
・・・でもなんか、二人の距離が近すぎる気がするんだけど・・・
とにかく私とシンとテンちゃんの三人は、大河の国の兵士達と協力して川岸から上陸しようとする魔物を倒し続けた。
川岸から川に向かっての攻撃は中級魔法が使いたい放題なので、私は水中型の魔物の苦手な炎系の中級魔法をバンバン使って、水から出てきた魔物を殱滅しまくった。
テンちゃんはどちらかというと風系魔法が得意らしくて、ウィンドスラッシュやウィンドランサーを連発していた。
制御技術はまだ未熟だけど、とにかく数が打てるので、水面上を水平に撃てば適当に魔物に当たる。
撃ち漏らして接近した分を剣で倒せば良いのだ。
やがて、川岸のから上陸しようとする魔物がほとんどいなくなった頃、陸側から魔物の残党を駆逐してきたジオ様と女王が合流した。
「ララ殿!わざわざ応援に駆けつけて頂けるなんて恐悦至極!それに、皇帝殿も自ら応援に駆けつけてくれたか?」
「皇帝として、属国の危機を放ってはおけないからな。それで、被害状況はいか程だ?シス女王」
「おかげさまで最小限の被害にとどめる事ができたぞ。それに・・・我の危機をこの勇者パーティーのジル殿が救ってくれた」
ジオ様、自分の名前をジルって名乗ったんだね。
「ジル殿!そなたは我の命の恩人じゃ!ぜひ我が妻になってくれ!」
シス女王はそう言ってジオ様に抱きついたのだった。
・・・うん、手に取るように展開が予想できていたよ・・・
あの、美少女好きのシス女王が、ジオ様を見て好きにならない理由が見当たらないからね。
「ララ殿も、保留にしておった返答はまだかの?」
前回訪問した時に、私もシス女王に求婚されていたのだった。
「いや、その件ははっきりとお断りしたはずですが?」
「時間が経てば考えが変わるかもしれぬではないか?我はいつまでも待っておるぞ」
「シス殿、ララは俺の妻だ。求婚はご遠慮願いたい」
「何を言っておる。この帝国は多夫多妻制、それは王族であっても変わらぬ・・・そうではなかったか?」
「確かにそうだが、それはあくまでも本人の同意があっての事だ。王族であってもそれを強要はできない」
「ふふっ、本人の同意が得られれば問題ないという事よの。我は欲しいものは必ず手に入れる。この二人を必ず我が妻にして見せよう!」
・・・うーん、やっぱりこうなったか・・・




