13話 勇者の弟子と時空の狭間
魔動馬車から離れたテンちゃんは、ほとんど消えかかっている浮遊大陸を目指して全力で飛んでいた。
テンちゃんの最大推力に加えて、私も魔力でテンちゃんに推進力を与えている。
それで何とか浮遊大陸との距離が近づき始めていた。
その甲斐あって、次第に浮遊大陸の輪郭がはっきりしてきた。
それに伴って三人の姿も若返ってきている。
浮遊大陸との時間の隔たりも開きつつあるのだけど、距離が近づけば、時間の流れは浮遊大陸寄りに変化していく。
老人の姿だった三人が若返ったという事は、本来なら私とジオ様は生まれる前に戻って消滅してしまうはずだけど、私とジオ様の年齢は変化していない。
魔女が不老不死になるのは、単に肉体が老化しないというだけでなく、肉体が時間の流れから隔離されるという事みたいなのだ。
だから、未来だけでなく過去に行ったとしても肉体が変化しなかったのだ。
そう考えると、今のジオ様の女性の体も、魔女と同じ性質を持っているという事になる。
「お母様、ごめんなさい、こんな無理をさせてしまって」
丁度今の私と同じくらいの年齢に戻っていたラルが、申し訳なさそうに私に謝った。
まるで自分を鏡で見ている様だよ。
三人とも時間が無かったので全裸のままテンちゃんに乗り移っていたので、当然ラルも裸だった。
今の自分の裸をこうやって客観的に見たのって初めてだけど・・・
うん、これはこれで悪くないかも?
胸の大きさはさっき程ではないけど、程よい大きさで形も美しい。
ジオ様がいつも言ってくれていたけど、大きすぎず小さすぎ、丁度いいバランスってこういう事か!
確かに、少女から大人に変わりきる直前の、絶妙な年齢の女性の体として、これって理想的な美しさなんじゃないかな?
って、自ら自分の裸体に見惚れてしまったよ。
年齢の上がったさっきの姿は、あれはあれで魅力的だったけど、この年齢の時はこのバランスが一番だよね!
何だかラルのおかげで今の自分に自信が持てたよ。
「・・・あの、お母様?・・・そんなじろじろ体を見られるとさすがに恥ずかしいです・・・」
ラルが赤くなって胸を手で隠しながらジオ様の陰に隠れた。
「ああ、ごめん、ラルの体があまりにもきれいで」
「ふふ、お母様のおかげですよ!」
「こっちこそありがとうね、ラル」
ジルの方も今のジオ様そっくりの超絶美少女になっていた。
シィラちゃんも出会った頃のシィラみたいで何だか懐かしい。
しかし三人とも、その年齢まで下がったところで変化が止まってしまった。
(浮遊大陸まであと少しなんですが、これ以上近づけません!)
「テンちゃん、どういう事?」
(時間の隔たりが大きくなりすぎて、これ以上向こうに行く事が出来ないみたいです)
「ええ、ここまで来たのに?」
私も魔力を強めてテンちゃんを前に進めようとしたけど、確かにこれ以上近づける感じがしない。
「三人はとりあえず大丈夫みたいだから俺も手を貸そう」
ジオ様はそう言って、三人を離し、テンちゃんを前進させるために力を貸してくれた。
ジオ様の時間を操る力が加わる事で、僅かにテンちゃんが前進した。
・・・でもそこまでが限界だった。
どうしよう?
このまま浮遊大陸に帰せなかったら三人は消えてしまうのに・・・
あと一歩というところまできて届かないなんて!
「何をやってるのじゃ!おぬしら!」
すると浮遊大陸の方から声が聞こえた。
「神様!」
神様が迎えに来てくれたのだ。
「こ奴らが見当たらんのでな、こんな事じゃろうと思ったわい」
羽を広げた神様が浮遊大陸と私たちの中間ぐらいに浮いていた。
「神様!この状況を何とかできますか?」
「かろうじてわらわの力で時間と空間を繋ぎとめているがこれが限界じゃ。それに長くはもたん」
まだ、テンちゃんと神様の間には距離がある。
「どうやって三人を返せばいい?」
「そ奴らをこっちに投げ飛ばせ。受け止めてやるわ」
「大丈夫なの?」
「他に方法が無いじゃろ?早くしないと間に合わなくなるぞ」
そうだね、迷ってる場合じゃない。
「ラル、ジル、シィラちゃん、大丈夫?」
「はい、お願いします。お母様」
「ジル、大丈夫だな?」
「はい、お父様」
「シィラちゃん、必ずお母さんを連れて会いに行くからね」
「はい、楽しみにしています」
「では俺が三人を向こうに投げる。ララは魔法でサポートしてくれ」
「わかりました」
「行くぞ!」
ジオ様は三人を次々と抱きかかえては神様に向かって投げ飛ばした。
私は更に魔法で三人を神様の方へ後押しする。
空中に放り出された三人は、神様の方に近づくにつれて次第に体が小さくなっていった。
そして、元の五歳くらいに戻ったところで神様が大きく広げた羽にふわりとキャッチされた。
神様は羽を丸めて三人を集めると、胸の前でぎゅっと抱きしめた。
「バカ者どもが!何をやっておるのじゃ!」
「ごめんなさい!ごめんなさい!」
神様に怒られたラルが平謝りしていた。
・・・何だか自分が叱られている姿を見ている様で、ちょっと複雑な気分だ。
「こいつらは無事に受け取った。もう心配するでない」
よかった、三人ともこれで大丈夫だね。
・・・でも、これで本当にお別れだ。
「じゃあね!みんな!必ず方法を見つけて会いに行くからね!」
「うん!待ってるね!お母様!」
三人は神様に抱かれながら、小さい手を思いっきり振っていた。
そして元気に手を振る三人と神様の姿は、浮遊大陸と共に消えていったのだった。




