11話 勇者様と魔法の解除
魔動馬車は浮遊大陸から離れて、もうすぐ浮遊大陸のエリア外に出る境界線のあたりまで来た。
そろそろ時間のずれが広がり始めるので、これ以上離れると浮遊大陸には二度と戻る事が出来なくなる。
「最後に一目だけでもラルたちに会いたかったな」
「会ったら別れが辛くなったのではないですか?」
シィラの言う通り、顔を見たら別れられなくなってたかもしれない。
「いつかきっと再会する方法を見つけるからシィラも期待して待っててね」
「わかりました。期待しないで待っています」
・・・信用ないなぁ。
まあ、期待してダメだった時の事を考えたらその方がいいか?
「さて、ジオ様とルルを元の姿に戻さないとね」
ジオ様とルルは、女性だけの浮遊大陸で暮らすために魔法で体を女性の体に変えていたのだ。
ジオ様はさらに年齢も上げられている。
でもジオ様を見ててわかったんだけど、長い期間女性の体のままでいると、性格まで女性らしくなってくる傾向があるみたいなんだよね。
ルルはそれでもいいかなって思ったんだけど、やっぱり男の子だし、早めに体を元に戻した方がいいよね。
私はルルの魔法を解いて男の子の体に戻してあげた。
女の子のままでいたら、きっとジルや今のジオ様やみたいな超絶美少女に成長するだろうから、それはそれで楽しみと言えば楽しみなんだけど、本人の意思を無視して親の身勝手でそんな事は出来ないよ。
もっとも本人が自ら女の子になりたいって言い出したらそれは仕方ないけどね。
・・・まあ、そんな事を言い出すなんて事は、まず無いだろうけどさ。
私は久しぶりに男の子の体になったルルを抱きしめた。
赤ちゃんだから顔つきとか見た目的にはほとんど変わらないんだけど、ルルはどっちでもかわいいよ!
そして次はジオ様の番だ。
ジオ様は私の魔法が復活した後も、本人の希望で赤ちゃんの体より少女の体の方が活動しやすいという理由から、ずっとこのままだったんだけど・・・すっかり少女の姿でいる事が板についてしまって、私もたまに、これがジオ様の本来の姿だと勘違いしそうになってしまう事があるんだよね。
言葉使いこそ以前と変わらないけど、ちょっとした仕草や考え方が、結構女性的になって来ているのだ。
あまり長い事この姿でいると、後で男性に戻った時に、女性らしさが残ってしまうかもしれない。
それはそれでちょっと興味があったんだけど、やっぱり以前のクールでかっこいいジオ様に成長して欲しいからね!
それに体の年齢を本来の年齢より上げる魔法は長時間使っていると寿命に影響が出てしまう可能性もあるのであまり使いたくなかったのだ。
ただ、神様が使ったこの魔法は、少し特殊な魔法で寿命には影響が無いと言っていた。
一般的な姿変えの魔法は体の組織を変化させるだけなのだが、神様が使ったのは時間の進み方を変化させる魔法を合わせているのだそうだ。
だからラルやジルたちも、赤ちゃんから5歳くらいまでの成長を早めてもトータルの寿命が縮むわけでは無いという話だった。
いつか、この魔法も解析して使える様になりたいけど、解析にはかなりの時間がかかりそうだ。
時間にかかわる魔法は、魔法の中でも特に複雑で難しいのだ。
でも、この魔法の解除の方法だけは神様から聞いていたので、解除だけなら私にもできる様になっている。
「さあ、ジオ様も魔法を解除しますよ」
「いや、俺はしばらくこのままでいい」
「どうしてですか?」
「何かあった時、この姿の方がララを守れるからな」
「でも、ずっとその姿でいると性格が女性っぽくなっちゃいますよ?」
「・・・いや、別にそんな事は無いだろう?」
・・・どうやら本人には自覚が無い様だった。
「ジオ様がそう言うのでしたらそれでもかまいませんが、元に戻りたくなったらいつでも言って下さいね」
ジオ様が女性っぽくなったとしても、それはそれでいいんじゃないかな?
「それなんだが、どうやら自分の意志でこの姿に変る能力が身に付いたらしいのだ」
「えっ、そうなんですか?」
「ああ、どうやら『勇者』の能力として追加された様だ」
ジオ様はそう言うと体が光りに包まれて小さくなり、赤ちゃんの姿に戻ってしまったのだ!
「ジオ様、姿変えの魔法を覚えたのですか?」
(魔法ではなく、勇者の固有能力の様だ。今のところこの姿にしか変えられないみたいだがな)
ジオ様は再び光に包まれて少女の姿に戻った。
でも一度赤ちゃんになった時に服が脱げてしまったので、全裸のまま少女の姿に戻ってしまった。
少し恥らいながら手で体を隠しつつ、服を着る姿が完全に女の子の仕草になってるんだけど、ジオ様、自覚なくやってるって事だよね?
でも、勇者の能力って普通の魔法とも魔女の魔法とも原理が異なるので、よくわからない事が多いんだけど、これって時間を操る能力も合わさって使ってるって事だよね?
どうやら勇者の能力って進化するものみたいなんだけど、いずれ時間を自在に操る能力に目覚める事もあるのかもしれないね。
そんな事をしていると、突然、浴室の方で赤ちゃんの泣き声が聞こえ始めた!
「あれ?ルルはここにいるのにどうして赤ちゃんの泣き声が?」
私たちが魔動馬車の浴室を調べに行くと・・・
そこでは三人の赤ちゃんが泣いていたのだった。




