10話 勇者の弟子と別れの時
私とジオ様は、ラルとジルと一緒に充実した毎日を過ごしていた。
しかし、ついに別れの日が来てしまった。
結局、これと言った対策は見つからなかった。
色々考えてはみたけれど、どれもリスクの高い方法ばかりだったのだ。
私たちのいた世界とこの浮遊大陸とでは時間の流れが異なるので、何をやるにしても時間を操る魔法が必要不可欠になる。
しかし、時間にかかわる魔法は必ずと言っていいほど何かしらのリスクを伴ってしまうのだ。
自分達だけに被害が及ぶならまだしも、最悪の場合、世界そのものが崩壊してしまう危険を伴う魔法を自分のわがままで実施する訳にはいかなかった。
「ごめんね、ラル、ジル、それからシィラちゃん、みんなを一緒に連れて帰る方法が見つけられなかったよ」
「仕方ないよ、お母様はあんなに頑張ったんだし、私たちは覚悟はできてるから!ねっ、ジル」
ジルも静かにうなずいた。
ラルもジルも5歳とは思えないしっかりした意志を持っていた。
「わたくしもお二人と一緒にここに残る覚悟は最初から出来ています」
シィラちゃんもしっかり者だった。さすが、シィラの娘だけの事はあるよ。
私たちが浮遊大陸を去る最後の日の前日の夜は盛大なお別れ会を行なった。
私とラルでたくさんのご馳走を作ってみんなに振舞った。
ラルはこの短期間でほんとに多くの料理を覚えた。
私がいなくなっても自分は大丈夫だって事をアピールしたいのかもしれない。
みんな、次の日でお別れだという事はあまり考えずにパーティーを楽しんだ。
その夜は私とジオ様、それにラルとジルとルルの五人で一緒に寝た。
五人そろうのはこれが最後になる。
ルルはいつも通りすやすやと寝ていたが、ラルとジルはなかなか寝付けない様だった。
だから夜更けまで話をしていた。
「ラルは大きくなったら何になりたいの?」
「私は料理人になりたいです。お母様から教わった料理をたくさんの人に食べてもらって、その人たちをしあわせにしたいです!」
「ラルだったらもう立派な料理人だよ!」
「はい!これからももっと頑張ってレパートリーを増やしていきます!」
「ラルなら自分で創作料理も作っていけるよね。がんばってね」
「はい!」
「ジルは何になりたいの?」
ジルにも聞いてみた。
「・・・剣士になりたいです」
「そっか、ジルは剣が好きなんだ?」
「はい、お父様の様にみんなを守る人になりたいです」
「うん、ジルなら立派な剣士になれるよ」
「ああ、大丈夫だ。俺が保証する」
ジオ様の直伝だもの、最強の剣士になれるよね。
四人とも別れの事は何も言わずに、将来の夢についてばかり語っている内に気が付いたらいつの間にか眠っていたのだった。
翌日、いよいよ出発の時を迎えた。
神様が見送りに来てくれていた。
「これでお別れじゃな」
「色々あったけど、ありがとうございました」
「結局子供らは置いていくのじゃな」
「はい、無理して連れて行っても、誰かが不幸になる可能性があるので仕方ありません」
「ここで子供を作った事を後悔しておるか?」
「いいえ!後悔なんて絶対にしません。みんなとてもいい子たちです。あの子たちは私の誇りです!」
「そうじゃな、おぬしならそう言うと思っておったよ」
別れが辛いからラルたちを産まなければ良かった何て事は絶対にないよ!
「ところで、その竜は向こうの世界に連れて帰るのじゃな?」
神様は私の斜め後ろにいたテンちゃんを見てそう言った。
「使い魔ですから、主にお供するのは当然です」
テンちゃんは当然の様に私について来るつもりだった。
「本人もそう言っているし、向こうでは竜の姿に戻らせるつもりは無いから、まあ、大丈夫かな?」
テンちゃんはこの浮遊大陸でも私たちの世界でもない別の時代の別の世界からやって来ている。
ここに残しても連れて帰っても異端であり、その世界にとって脅威である事には変わりは無い。
それなら私のそばにいてもらった方が安心だよね。
でも、テンちゃんの姿はラルとジルを模したものだからテンちゃんを見ていると二人の事を思い出しちゃうかな?
ううん、二人の事は絶対に忘れないつもりだからむしろその方が良いよね。
「ララ様、そろそろ出発の時間です」
「そうだね、でもラルたちはどこに行っちゃんたんだろう?」
実はさっきからラルとジル、それにシィラちゃんの姿が見えないのだ。
「きっと別れが辛くて顔を見られないのじゃろう」
ラルもジルも大丈夫そうに振舞ってたけど本当は別れが辛かったのかな?
「シィラはシィラちゃんとのお別れは大丈夫なの?」
「はい、別れは済ませましたから問題ありません」
シィラは相変わらずクールだけど、自分の娘と今生の別れになるかもしれないのに、本当に平気なのかな?
「それよりララ様、もう出発しないと時間のずれが始まってしまいます」
「そうだね、最後に一目ラルたちを見たかったけど、別れが辛くなっちゃうかもしれないし、残念だけどこのまま出発するよ」
私たちは魔動馬車に乗り込んだ。
「ラルたちの事を宜しくお願いします」
私は最後に神様にラルたちの事を頼んだ。
「任せておけ。達者でな」
神様に見送られて、魔動馬車は静かに浮かび上がり、浮遊大陸を後にしたのだった。




