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勇者の弟子はお嫁さんになりたい!  作者: るふと
第13章 時の魔女
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8話 勇者の弟子と青い闇

 テンちゃんが上昇する事が出来なくなったので、私たちは迷宮の第三階層をどこまでも落下していく羽目になってしまった。


 既に上も下も、どの方向を見ても青空しか見えない。

 雲も浮遊島も、もちろん鳥や魔物すら見えない。


 全てが均一な青空の色の中をどこまでも落下していく。


 いや、既に落下しているのかどうかすら、わからなくなっていた。


 テンちゃんに色々試してもらったが、上昇しようとしても、下降しようとしても、違いが分からないのだ。


 ただ、上下の方向は間違いなく存在している。

 試しにテンちゃんに逆さまになってもらったら、私とジオ様はテンちゃんから落っこちそうになったので、これは間違いない。


 まあ、あたりまえの事なんだけど、何にもない真っ青な闇の中で、どっちが下なのか分かるだけでもまだ拠り所があって良かったと思えてしまう。

 これで上下方向も分からなくなってしまったら、本当にどっちに進んでいいのかすら分からなくなってしまうからね。


 魔法で出来る事も色々試してみたけど、どれも効果は無かった。


 というか、下降速度や進行方向に変化があったかどうかも分からなくなってしまっているのだ。

 どの魔法でどのような効果があったのかも確認が出来ないのでむやみに魔法を使い続ける訳にもいかない。


 転移魔法が使えればこの状態から脱出できるかもしれないけど、さすがに魔法の制限がかかった状態で上級魔法である転移魔法は発動できなかったのだ。




 このまま帰れなかったらどうしよう?


 こんな事なら残りの時間をラルやジルと一緒に有意義に過ごせばよかったよ。




「いざとなったら俺が勇者の力を開放してララだけでも帰してやる」


 私がガラにもなく落ち込んでいるとジオ様がそんな事を言い始めた。


「だめです!それだけは絶対にだめです!」


 前回は運よく赤ちゃんとして復活出来たけど、次も上手くいくという保証は無いのだ。

 そんな無謀な事は絶対に避けたい。


「しかし、このまま永遠にこの空間を落下し続けるかもしれないのだぞ」


「幸いにも私もジオ様もテンちゃんもそう簡単には死にません。どんなに時間がかかっても助かる方法を見つければいいんです!」


 そうだった。


 どんな時でもあきらめないのが私だったよ!

 こんな事くらいで絶望している場合じゃなかった!


 いつだって可能性にかけてみないとね!


「テンちゃん、こうなったら真下に向かって最高速度で降下してみて!」


「ララ!どうするんだ?」


「降下し続けてる状況が変えられないのなら、いっその事、最速で降下して早く結果を出した方が良いかなって」


「・・・まあ、確かにそうだな。これまでもララいう通りにして、良い方向に問題が解決した事が何度もあったからな。今回もララの勘を信じてみよう」


「ありがとうございます!ジオ様。じゃあ、テンちゃん、お願いね」


(わかりました。しっかり摑まっていて下さい)




 テンちゃんは頭を下に向け、体を縦にして、六枚の羽を大きく広げると、羽が青白く光り始めた。


 そしてその羽を一斉に後ろに羽ばたかせると、真下に向かって一気に加速した。


 あまりの加速に危うく降り落とされそうになったけど、ジオ様が私を支えてくれたので、何とか振り落とされずに済んだ。


 やはり、上方向にはどうやっても進む事が出来なかったのに、下方向ならいくらでも速度を上げる事が出来るみたいだ。

 この空域は完全に一方通行になっているんだ。


 テンちゃんは後ろに畳んだ六枚の羽から青白い光を放ちながら、更に加速していく。


 普通だったら風圧で吹き飛ばされてしまうはずなのだけど、テンちゃんの周囲には空気の膜の様の物で覆われているみたいで、落下速度の割には、わたしとジオ様の周囲の空気はそれほど強烈に吹きつけてくる訳ではなかった。


 それにしても、周りの景色が変化しないからわからないけど、今のテンちゃんの速度はとんでもない事になっているはずだ。

 それこそ元の世界の端から端まで、瞬く間に移動できてしまうのではないかという速度では無いだろうか?


 そして、それだけの速度で下降しても底が見つからないこの空間って、どれだけの広さを持ってるんだろう?

 おそらくだけど、既に私たちのいた世界を何周もするくらいの距離を落下しているのではないだろうか?


 ここまで来たら、さすがにもう上に戻る事は絶対に不可能だろう。

 とにかく、この下に何があるか突き止めるまで進むしかなくなったわけだ。


「テンちゃん、まだ大丈夫?」


(大丈夫です。このまま何日も飛び続ける事も出来ます)


 ・・・さすがにそれは避けたいけどね。



「ジオ様、もしかしたら永遠にこのままかもしれません」


 さすがにこれだけ落下して何も変化が無いと少し不安になって来た。


「大丈夫だ。俺はララの思い付きを信じる。それに何もしなくても同じだったからな」


「ジオ様」


 ここまで私の事を信じてくれるなんて、本当に、今一人じゃなくてジオ様が一緒にいてくれてよかったと思うよ。




(下の方に何か見えます)



 するとテンちゃんが何かを見つけたらしい。



「なに?何が見えたの」



(小さな点がいくつか見えました。まだ遠すぎて点にしか見えません)


 私も下を見たけど肉眼では何も見えなかった。


 そこで遠視魔法で遠方の様子を確認したところ、遥か遠方の小さな点が急激に近づいてきている事がわかった。


「テンちゃん!速度を落として!このままだと一瞬で通り過ぎちゃう!」


(わかりました、減速します)


 テンちゃんが六枚の羽尾を大きく広げると、急激に速度が下がっていくのを感じた。


 私とジオ様は危うく前に放り出されるところだったけど、テンちゃんが姿勢を変えて頭を水平にしてくれた。


 するとようやく前方の小さな点がその姿を確認できる距離まで近づいていた。


「あれは!浮遊島だ!」


 小さな点は浮遊島だったのだ。




 ついに私たちはこの第三階層の遥か下方にある浮遊島を見つけたのだった。


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