6話 勇者の弟子と迷宮の果て
浮遊大陸の外側はおおむね調べ尽くした。
この浮遊大陸は地上の国がいくつも入るくらいの面積を持っており、まさに大陸と言って差し支えない大きさだった。
その大陸とその周囲の一定の距離までの空間が、元の世界と隔離させた別の世界として、異なる時間の流れの中に存在しているのだ。
その境界線は出入り自由だが、そもそも、この浮遊大陸は地表からかなり離れた高い位置に存在し、普通の鳥などの空を飛べる動物が飛行できる高度をはるかに超えている。
私の様に魔法で飛行するか、あるいは高い高度を飛ぶ事が可能な魔物や、テンちゃんの様な竜でもなければ、到達する事が出来ない高度なのだ。
しかも、浮遊大陸の有効エリアの外からでは、大陸は見えないのだ。
だから、地上で暮らす人たちは浮遊大陸に行くどころか、その存在も知る事が出来なかったのだ。
そしてこの広大な大陸全体が神様の統治下にあり、その上にはいくつもの町が各地に点在している。
住人は女性のみで男性は一人もいない。
・・・ジオ様とルルを除いてだけど、その二人のも今は魔法で女性の体に変えてある。
羽を持った有翼人たちが町の統治を行ない、羽の無い人たちを治めているが、特に圧政を強いているという事もなく、みんなが落ち着いた生活を送っているのだ。
みんなで手分けして、いろんなところを調べ尽くしたけど、特にこれと言って問題の解決に繋がるヒントは見つからなかった。
転移魔法も試してみた。
浮遊大陸内の移動は問題なく出来たのだけど、外の世界に転移する事は出来なかった。
というか、無理にやろうとすると、どちらの世界でもない訳の分からない世界へ飛ばされる可能性が高いとわかったのでやめたのだ。
この浮遊大陸の時間の流れの謎を解明できない限り、二つの世界観で転移魔法は使えない。さらに言うと時間も移動する方法を合わせて実行しないと、転移が成立しないのだ。
とにかく二つの世界間の転移魔法は危険なので封印する事にした。
「後、調べていないところと言えば・・・迷宮の第三階層の果てぐらいかな?」
第一階層と第二階層は『果て』がある事を確認している。
ただ、第三階層だけはどこまで行っても果てが無いのだ。
私とジオ様が落ちた場所よりも更に下の方にも空間が続いており、あの先もどうなっているのかわからない。
もしかしたらそこに何かヒントがあるかもしれないのだ。
「テンちゃんは気が付いたら迷宮の第三階層にいたんだよね?」
私はテンちゃんに尋ねた。
「はい、最初の記憶は迷宮の第三階層の空中に浮いている時からです」
「その前にどこにいたとか、どこから第三階層に入ったとかはわからないんだよね?」
「そうです。全く記憶にありません」
「神様の話だと、テンちゃんみたいな『竜』がいたのって、人間が誕生するよりずっと前って話だったんだ。時間がその時代に繋がっとしても、どうやってこの第三階層に入って来たかなんだけど、もしかしたら迷宮の第三階層は直接別の世界や時間に通じている可能性があるって事だよ」
「ララ、もしかして第三階層の『底』を調べるつもりか?」
「はい、そうです、ジオ様。第三階層は高度が下がるほど、魔法が弱くなっていく傾向があるので、前に私たちが落っこちたあたりまで下がると何もできなくなってしまいます。でもテンちゃんなら魔法と関係なく空を飛べるのでもっと下まで行く事ができますよね!」
「確かにそうだが・・・調べる価値はあるのか?」
「何もしないよりはマシかなって」
「わかった、調べてみよう。だが危険を感じたらすぐに引き返すぞ」
「もちろん!そのつもりだよ」
翌日、私とジオ様はテンちゃんと三人で迷宮の第三階層に向かった。
レダやミラ、それにラルとジルも一緒に行きたがったけど、何が起きるかわからないから、人員は最低限にしておきたかったのだ。
「すぐに帰って来るから心配しないで待っててね」
私はラルとジルにそう声をかけて別荘を出発した。
ミラとレダは第三階層のゲートまで見送りに来てくれた。
「本当に無理はしないで下さいね」
ミラは心配そうに声をかけてくれた。
「今回、待ってばっかりで退屈だよ」
レダはちょっと不満そうだった。
確かに最近レダの事はあまりかまってあげられていないな。
その分ミラがレダの事を気にかけていてくれている。
二人の仲がいいのはいい事だけどね!
「じゃあ、行ってくるね!テンちゃん、お願い」
「かしこまりました」
テンちゃんは元の姿に戻って頭の上に私とジオ様を乗せてくれた。
最近はすっかりテンちゃんが乗り物がわりになってるよね。
テンちゃんはゆっくりと高度を下げていった。
いくつもの浮遊島を通過して、やがて私とジオ様が遭難していた浮遊島にたどり着いた。
「せっかくだからここで一休みしていこう」
「そうだな、ここから下は未知の高度だし、一旦ここで方針を考えよう」
「テンちゃん、あの島におりて」
(了解)
テンちゃんは島の平原に着地した。
そして私たちを頭から降ろすと、テンちゃんは人間の姿に戻った。
「ひさしぶりだね・・・って、まだ何日も経っていないけどね」
私たちが作った家はそのまま残っていた。
数日ぶりなのに何だか懐かしいって不思議だよね?
私たちはとりあえず中に入って、お茶を入れて休憩したのだった。




