4話 勇者の弟子と浮遊大陸の調査
別荘に帰って来た私は、みんなに事情を説明した。
ラルとジルは既にその事を知っていたみたいで驚かなかった。
「お母様たちと別れる覚悟は既にできています・・・でも、その時までは甘えさせてもらっていいですか?」
ラルは笑顔で私に尋ねた。
「もちろんだよ!というか、私がラルとジルに甘えてもらいたいよ!」
私はラルとジルを同時に抱きしめた。
「それでララ、どうするのですか?このままただ諦めるララではありませんよね?」
「もちろん、ミラの言うとおり、このまま諦めるつもりは無いよ」
折角魔法が使えるようになったんだし、この一ヶ月で出来るだけの事はやってみるつもりだよ!
「まずはこの大陸の調査からやり直すよ」
「どこから調査するのですか?」
「私とジオ様で、この浮遊大陸を周りから観察してみるよ。テンちゃん、お願いね!」
「かしこまりました」
「私たちも一緒に行っていいですか?」
ラルとジルが私との同行を求めてきた。
「お母様たちと少しでも一緒にいたいのです」
「わかった。いいよ!一緒に行こう!」
「はい!お母様!」
「では、わたくしとレダは町の中や地上で、何かヒントが無いか探してみます」
「お願いね、ミラ、レダ。シィラと小さなシィラちゃんはルルの事をお願いね」
「はい、かしこまりました」
「かしこまりました」
シィラとシィラちゃんが揃って頭を下げた。
シィラちゃんも出来るだけお母さんのシィラと一緒にいたいだろうからね。
別荘の外に出ると、テンちゃんには元の姿に戻ってもらった。
メイド服はどうするのかと思ったら、服を着たまま光りにつつまれ、竜の姿に戻ってしまったのだ。
単に体が変形して大きくなるのではなく、どうやら別の次元にある体と入れ替わるみたいな事らしい。
服も一緒に別の次元に保管されるみたいだ。
それにしても、テンちゃんの本当の姿は何度見ても美しいよね!
最初、敵だと思ってた時は、この美しさが脅威だったけど、身内になってあらためて見ると、本当にため息が出るほど美しいのだ。
(さあ、お乗りください)
テンちゃんが頭を地面に付けたので、私たちは頭の上に飛び乗った。
「お願いね、テンちゃん」
(お任せください)
テンちゃんは六枚の羽をゆっくり動かして静かに浮かび上がった。
迷宮の外でテンちゃんが飛ぶのはこれが初めてだね。
町の人たちに見つかると大騒ぎになるからあまり町には近づかない様にしないとね。
「テンちゃん、まずはゆっくりと上にあがっていって」
テンちゃんが、地面から離れて行くと、次第に浮遊大陸の全貌が明らかになって来た。
やはり、島というよりは、はるかに大きく、大陸と呼ぶのがふさわしい。
私たちが行動していたエリアの他にも、遠くの方まで陸地が続いている。
やがて浮遊大陸の全体が見渡せる高度まで上昇した。
浮遊大陸の遥か下方に海が見える事から、大陸がかなり高い高度に浮いている事がわかる。
そして海面が、結構速い速度で流れていく。
この浮遊大陸は下の大地に対してかなりの速度で移動しているみたいだ。
更に上昇を続けていたら異変が起きた。
ラルとジルが赤ちゃんに戻ってしまったのだ!
「ジオ様!これって」
「浮遊大陸のエリアの外に出てしまったという事ではないのか?」
「そっか、元の世界の時間では、この子たちが産まれてから数日しかたってないんだ!テンちゃん!高度を下げて!」
テンちゃんが高度を下げていくと、ラルとジルは再び5歳くらいの姿に戻っていた。
「大丈夫?ラル、ジル」
「はい、大丈夫です。お母さん」
「よかった。元に戻って」
私はラルを抱きしめた。
「ジルも大丈夫か?」
「はい、何ともないです。お父さん」
「そうか、良かった」
ジオ様はジルの頭に手を置いた。
・・・こういう事か・・・
今のは時間のずれが少なかったから良かったけど、これが寿命の範囲外だったら存在が消滅してたって事だ。
私はあらためてこの状況が怖くなった。
「テンちゃん、さっきの高度まではもう上がらないでね」
(わかりました)
「じゃあ、次は浮遊大陸の周りを一周してみようか」
(了解しました)
「あまり大陸から離れすぎないようにね」
(はい、気を付けます)
テンちゃんは高度を下げて、浮遊大陸の側面にまわった。
「じゃあ、ゆっくりと大陸から離れて行って」
地平線の高さで大陸から少しづつ距離を離して行く。
「ラル、ジル、体に違和感を感じたら教えて」
「はい、まだ大丈夫です」
テンちゃんは、ゆっくりと水平に大陸から離れて行った。
大陸がだいぶ遠くに見えるところまで来た。
「体に変な感じがします。さっきと同じ感覚です」
ジルが教えてくれた。
「私もです!多分ここが限界です」
ラルも感じた様だ。
「テンちゃん、止まって!それから少しだけ大陸に近づいて」
(はい、もどります)
テンちゃんは移動をやめて、ゆっくりと頭の向きを変えた。
そして少しだけ大陸に近づいた。
「治まりました」
「私も、もう大丈夫です」
ジルもラルも体の違和感が無くなったみたいだ。
「ここら辺が浮遊大陸と外の世界の境界みたいだね。テンちゃん、大陸からこれくらいの距離を保ちながら周りを一周してみよう」
(かしこまりました)
私たちはそうやって、大陸の周りを一周した。
途中からテンちゃんには速度を上げてもらったけど、それでも一回りするには半日かかってしまった。
大陸の下側にも回ってみた。
下側は丸で地面から引きちぎられたかのようにギザギザになっていた。
そしてどう考えても、あの迷宮の中の空間が存在できるほどの厚みは無い。
やはり、迷宮内は別の空間になっているのだろう。
そこから高度を下げてみたが、思った通り大陸の下側も一定の距離まで離れるとラルとジルに異変が起きる。
そして、それ以上高度を下げると大陸が次第に透けていって見えなくなるのだ。
おそらくこれ以上離れると浮遊大陸に戻れなくなってしまう可能性がる。
どうやら大陸を中心とした球体の範囲が外の世界と隔離されていて、外からは見えない様になっている様だった。
この浮遊大陸にはじめてきた時も、いきなり目の前に岩壁が現れたけど、あれはこういう事だったんだ。
つまり、偶然この浮遊大陸を囲む球体のエリア内に入らない限り、浮遊大陸を見つけてたどり着く事は出来ないという事だ。




