2話 勇者の弟子と浮遊大陸の秘密
「この国から出ると死ぬって、どういう事?」
私はシィラに尋ねた。
「この浮遊大陸で生まれた人間は、ここでしか生きられない体なのだそうです」
「そんな・・・」
この浮遊大陸が、単に空に浮いているだけでは無くて、私たちのいた世界から、少し外れた世界にに存在している事は気が付いていた。
でも、ここに暮らす人たちは、元々は私たちの世界の人間から発祥しているのは間違いない。
それなのに元の世界に戻ったら死んでしまうというのはどういう事だろうか?
そもそも、この浮遊大陸が何なのか神様に聞いてみる必要がありそうだ。
「私、神様のところに行ってくるよ!」
私は、抱いていたルルをシィラに預けて駆け出していた。
「俺も行こう」
ジオ様も私について来た。
「お供いたします」
テンちゃんもついて来ちゃったよ。
神都の城門をくぐり、神城を目指して駆け抜けた。
城門で、手続がどうとか言われたが、強行突破して城に入り、神様の部屋を目指した。
途中の妨害を全て力技で突破し、神様の執務室にたどり着いた私は、部屋に踏み込むなり神様を見つけると開口一番に食らいついた。
「ちょっと!子供達がこの国の外に出たら死んじゃうってどういう事よ!」
「おお、生きておったか、よかったよかった」
「生きておったかじゃないよ!どういう事なの?」
「ひさしぶりの再会なのにせっかちな奴じゃな」
「いいから説明して!」
「説明も何も、そのままの意味じゃ。この大陸で生を受けた人間は、おぬしらの世界では生きてはいけぬのじゃ」
「だからそれはどういう事なの?あなたが何か細工をしたのならそれを解除しなさい」
「わらわは何もしておらんよ。おぬしもこの浮遊大陸がおぬしのいた世界と異なる世界にあるという事は気付いておったじゃろう?」
「それは、うすうす気が付いていたけど、それが、どうして子供達がここでしか生きられない事になるの?」
「この大陸はおぬしらの世界と時間の流れ方が異なるのじゃ」
「・・・時間の?・・・流れ方が?」
「そうじゃ、おぬしがいた世界と、ここでは時間の概念が異なるのじゃ。単に時間の進み方が速いとか遅いとかいう事ではなく、時の流れる速さも前後関係も複雑に入り乱れておるのじゃ」
「それって・・・つまり私たちはもう元の世界の同じ時間にはもう帰れないって事なんじゃないの?」
「それは大丈夫じゃ。今のところは、おぬしのいた世界とこの大陸は、比較的並んで時間が流れておる。今戻れば、おぬしたちがここに来た時の少し後の時間に戻れるじゃろう。こちらの方が少しだけ時間の流れが速い様じゃから、今すぐ帰れば、おぬしらが来た日の数日後くらいには戻れるのではないかの?」
・・・それでも、そんなにずれがあるんだ。
こっちでは二ヶ月以上過ごしてるのに。
「じゃが、それも、こちらの時間で後一ケ月くらいじゃな。それを過ぎるとそれぞれの時間が大きくずれ始めて、同じ時代には戻れなくなるじゃろう」
そうか、今回ここに来れたのは本当に偶然だったんだ。
「とりあえず一ケ月以内にここを出なければいけないのはわかったよ。でもそれと子供達が出られないのは何か関係があるの?」
「この場所で生を受けた人間は、自身の時の流れもこの場所と同じになるのじゃ」
「それってつまり、ここで生まれた人間が私たちの世界に戻ったら・・・」
「そうじゃ、突然年をとったり、若返ったり、あるいはいきなり消滅してしまうじゃろうな」
「そんな!それって何とかならないの?」
「わらわも長い事その研究を続けておる。その副産物として、僅かに成長を早めたり遅らせたりする程度の事は出来るようになった。じゃが、それも誤差の範囲内じゃ。二つの世界の時差が、人の寿命を越えてしまえばどうにもならん」
「あれっ?それじゃ私たちの方はどうなってるの?」
「おぬし達も同じじゃ。今は比較的二つの世界の時間の進み方が近いから影響が出ていないが、一ヶ月後、時間の流れが大きくずれ始めるとどうなるかわからんな」
このまま浮遊大陸に残っていたら、みんな死んじゃうかもしれないって事だ・・・
「あと一ケ月で子供達と離れ離れになるなんて・・・」
「だから最初に子供は置いて行ってもらうと言ったじゃろうが!おぬし、はなからこっそり連れて帰るつもりであっただろう?」
そんな事をしなくてよかったよ。
下手をしたら子供達を殺してしまうところだったんだ。
でも・・・どちらにしても、もうすぐ別れなければならないんだ・・・
そう思ったら、目からぽろぽろと涙がこぼれ落ちていた。
産んでからまだわずかな時間しか一緒にいないけど、これからの生活を楽しみにしてたんだよ。
それがもうお別れなんて・・・
「・・・一つだけ子供と別れないで済む方法があるぞ」
神様がぽそっとつぶやいた。
「・・・えっ・・・方法があるの?」
だったら、もったいぶらないで先に言ってくれればいいのに!
「教えて!どうすればいいの?」
私は神様に詰め寄った。
「簡単な事じゃ。おぬしがこの国に残ればいいのじゃ」
「えっ?・・・それじゃあ私が死んじゃうんじゃないの?」
「おぬしは不老不死の魔女であろう?どんな時間がずれても死ぬ事は無い」
あっ!そうだった。
殺されるか、自殺するかしない限り死なないんだった。
「あれっ、でも他の人たちは?」
「当然、他の者たちは寿命があるからな。ここに残るわけにはいかんだろう?」
・・・つまり私一人だけがここに残るって事だ。




