1話 勇者の弟子と魔女の使い魔
第二部 第13章 開始です。
「ララ様!よくぞご無事で!」
私とジオ様が別荘に帰ると、シィラが泣きながら出迎えてくれた。
迷宮の第三階層の奈落の底に落下した私とジオ様は、一ケ月ぶりにこの別荘に帰って来たのだ。
ちなみに迷宮の入り口ではミラとレダが待っていてくれたので、合流して一緒に帰って来た。
顔を合わせたら二人にも泣きつかれたのだが・・・
「心配かけたね、シィラ。私もジオ様も無事だったんだけど、帰ってくる手段が無くてね」
「はい、神様に聞いても、第三階層で落下した者は今まで帰って来た事が無いと言われて、どうしようかと思っていたんです」
「私達がいない間、子供たちの世話をしてくれたんだよね?ありがとう」
「いえ、わたくしにはそれくらいしかできませんでしたから・・・ミラ様とレダ様はララ様達の救出方法をずっと探し回って頂いていました」
「申し訳ありません。結局何の力にもなれませんでした」
ミラが申し訳なさそうに頭を下げた。
「あたしも何にもできなかったよ」
レダも一緒に頭を下げた。
「そうでもないよ。二人がこの子たちを第三階層まで連れて来てくれたからこうやって帰って来る事が出来たんだからね!」
私とジオ様はそれぞれだっこしていたラルとジルを地面に下ろした。
「二人とも一ケ月でこんなに大きくなっちゃったんだね」
「はい、毎朝見るたびに成長していまして、言葉などは神様が教えていたのですが、すぐに覚えてしまったのです」
「ところでララ様、この一ヶ月でもう一人お子様をおつくりになられたのですか?」
・・・さっきから気になっていたのか、ちらちらとテンちゃんの方を見ていたシィラがそう訊ねた。
実はミラとレダにも全く同じ事を聞かれたのだ。
「この子はテンちゃんっていって、迷宮にいた天空竜だよ。この姿は仮の姿で、私とジオ様の子供じゃないからね」
「ええっ!この子が『竜』ですか?」
このへんのリアクションも一緒だね。
「はじめまして、ララ様に使い魔としてお仕えする事になりましたテンと申します」
「はじめまして、ララ様の専属メイドを務めさせて頂いておりますシィラと申します」
一瞬驚いたけど、すぐに素に戻るところがさすがシィラだよ。
二人して深々とお辞儀をして挨拶していた。
「という事はシィラ様はララ様にお仕えする先輩ですね?宜しくご指導お願いします」
「そういう事でしたらわたくしが教育係を引き受けさせて頂きます。そうですね、まずは身なりからでしょうか?」
そう、テンちゃんは裸だったので、今は簡素な布を巻いているだけの恰好だったのだ。
「着るものを用意して着替えさせてまいりますので、少々お待ちください」
シィラはそう言って、テンちゃんを連れて服を探しに行ってしまった。
「そうだ!ルルは?ルルはどこ?」
「ルルお兄様でしたら隣の部屋で寝ていると思います。どうぞこちらへ」
ラルが案内をしてくれた。
・・・それにしてもルルがもうお兄さんか・・・まさかルルまで成長している訳じゃないよね?
「どうぞ、こちらです」
隣の部屋に入ると、ベビーベッドでルルがすやすやと寝ていた。
良かった、まだ赤ちゃんのままだったよ。
「ルル!ごめんね、長い間会えなくって!」
私は寝ているルルを抱き上げた。
ルルは私が抱いても寝たままだった。
「最近は、ルルお兄様のお世話は私とジルがやらせてもらっていたんですよ」
・・・妹たちにお世話をされる兄ってどうなんだろう?
「そうそう、ルルお兄様は、先日はいはいができる様になったんですよ!」
「えっ!そうなの?初めてのはいはい見たかったな」
「ふふっ、ルルお兄様の初はいはいは私とジルがしっかりと見届けました。兄の成長を見守るのって嬉しいものですね!」
・・・うん、色々おかしな事になってるね。
「ララ様、テンの着替えが終わりました」
シィラとテンちゃんが私たちのいる部屋にやってきた。
テンちゃんはかわいらしいメイド服姿になっていた。
「どうでしょうか?ララ様。似合いますか?」
「わあ!かわいい!」
私が着ていたミニスカートタイプではなく、普通の丈のスカートだったが、装飾がかわいらしくアレンジされたメイド服だった。
「よく丁度いいサイズのメイド服があったね?」
今のテンちゃんは、私が初めてメイド服を着た時よりも幼い。
こんな年齢の子のメイド服がどうして都合よく用意してあったんだろう?
「わたくしの娘が成長した時のために用意していた物が、丁度ぴったりのサイズでした」
「そうだ!シィラの子供も成長してるの?」
「はい、紹介しますね。入って来なさい」
するとシィラとテンちゃんの後ろから、メイド服を着た5歳くらいの女の子が入って来た。
「娘のシィラです。ラル様やジル様と同じ様に成長しています」
「はじめまして、ララ様。シィラと申します」
そう、シィラはなぜか、自分の娘に自分と同じ名前を付けていたのだ。
「わあ、可愛いね、でもどうしてこんな小さいうちからメイド服なの?」
「この子にはラル様とジル様のお世話ができる様に、メイドの仕事を教え込んでいるところですので」
「えっ、こんな小さい頃から?」
「はい、あまり時間もありませんので」
「時間が無いって?どういう事?」
「この子はラル様やジル様と一緒にこの国に残る事になりますから」
「ちょっ!ちょっと!シィラ!」
私はシィラに近づいて耳元で小声で話しかけた。
「大丈夫だよ、シィラちゃんもラルたちと一緒にここから連れ出してあげるから!」
するとシィラは、少し困った顔をして答えた。
「神様から聞いていないのでしょうか?子供達をこの国から連れ出す事は出来ないのです」
「うん、わかってるよ。だから神様に内緒で連れ出すんだってば」
シィラは少し悲しそうな顔になった。
「そうではなくて・・・この子たちはこの国から出ると、死んでしまうそうなのです」
 




