13話 勇者の弟子と竜翼の魔女
5歳くらいの少女の姿になった天空竜は、水色の髪にコバルトブルーの瞳を持っていた。
人間の姿と言っても、頭には小さな角が生え、背中には小さな六枚の羽が生えている。
それに尻尾も付いていた。
顔や体の皮膚のところどころには鱗も残っている。
そして、その子の顔は、ラルとジルから姿を写し取ったのだろうか?二人の特徴を合わせ持った様な顔をしていた。
まあ、すごいかわいい美少女なんだけど、これじゃあ、まるで私とジオ様の子供って感じだよね?
ルルは完全にジオ様よりの見た目だし、ラルとジルはそのままなんだけど、この子は見事に私とジオ様の特徴を半分ずつ融合した様な顔なのだ。
「・・・こ・・・んに・・・ちは・・・ラルと・・・ジルの・・・お母様・・・それから・・・お父様」
女の子の姿になった天空竜は、片言だけど言葉を話し始めた。
「こんにちは、天空竜さん・・・って勝手にそう呼んでるだけか・・・ええと、あなたのお名前は?」
「・・・なまえ?・・・ありません・・・」
天空竜は首を傾げながら片言で答えた。
「そっか、名前が無いと不便だよね・・・ええと・・・天空竜だから、『テン』ちゃんってどうかな?」
・・・我ながら安直なネーミングセンスだと思うけどね。
「・・・テン・・・・・・・わが名は・・・テン・・・」
天空竜が自分の名前を繰り返している。
「ララ、出会っていきなり名前を付けるっていうのは」
ジオ様に注意された。
「あっ、ごめん!嫌だったら別にその名前じゃなくてもいいんだよ?」
「・・・わが名は・・・『テン』!」
天空竜が、少し舌っ足らずのかわいらしい声でそう叫ぶと、全身が光りに包まれた。
光の中で、天空竜の姿は少し大きくなった。
どうやら成長したらしい。
光が徐々に収まると、7~8歳くらいに成長した美少女が姿を現した。
先程と違い、角や尻尾、それに鱗が無くなってより人間に近い姿になっている。
六枚の羽だけは相変わらず背中から生えていた。
光が完全に収まると、天空竜はいきなり片膝をついて、私に向かって頭を下げた。
そして、年の割には少し発育の良い、かわいらしく膨らんだ胸に片手を当てて叫んだ。
「我が名は『テン』!『強欲の魔女』より名を授かり、これより魔女の使い魔として忠誠を捧げます」
先程とは異なり、活舌良く、流調に喋っていた。
・・・・・というか・・・私、何かやらかした?
「どうしたのテンちゃん!そんな、忠誠なんて捧げなくてもいいんだよ?あなたは子供達のお友達なんだし」
「『竜』は『魔女』より名を授かる事により、『格』が上がり『名』を授けた魔女と同等の魔力を得るのです。ただしそれは『魔女』に絶対の忠誠を誓う事が条件となるのです」
・・・何だか物騒な話になって来たよ。
『竜』が『魔女』の力を得るって・・・それって、とんでもない脅威になるんじゃないの?
確かに過去に『竜』使い魔にしている魔女がいたって話は聞いた事はあったけど、強欲の魔女ですら、実際に『竜』に会った事は無かったのだ。
「いや、使い魔って言っても、竜なんて連れて歩けないし・・・」
「命令が無い限り普段はこの姿でお傍におります」
「それにその羽も目立つし」
「羽ですか?羽なら皆さんにもありますよね?」
あっ、そうか。ここでは人間にも羽があるんだった。
「私の国に帰ると羽は無くなるんだよ」
「そうなんですね。この羽も隠す事が出来ますので問題ありません」
・・・うーんどうしよう?引き下がる様子が無いよね。
「あの、お母様、皆さんが心配していらっしゃいますので、とりあえずこの島から脱出してはいかがでしょうか?」
私が困っているとラルが提案してくれた。
そうだね、この件は後で考えるとして、まずは早くみんなを安心させてあげないとね。
・・・ええと、テンちゃんに運んでもらわないといけないんだよね?
「テンちゃん、元の姿に戻って私たちをゲートのある島まで連れて行ってくれるかな?」
「承知しました」
するとテンちゃんの体はさっきと同じ様に光り輝き、その光が大きくなったかと思うと、光の中から元の天空竜の姿を現したのだった。
(さあ、頭の上にお乗りください)
テンちゃんの声が頭の中に聞こえてきた。
これはジオ様との会話で使っていた『念話』と同じだね。
私達四人はテンちゃんの頭の上に乗った。
(では、飛び立ちます)
テンちゃんが六枚の大きな羽をゆっくりと動かすと、その巨体がふわりと浮き上がった。
羽の風圧だけでこの巨体を浮かせる事は不可能だし、魔法を使っている様子もない。
やはり何か別の方法で浮かび上がっているみたいだった。
テンちゃんはゆっくりと上昇していった。
短い間だったけど、ジオ様と暮らしていた家が、段々と小さくなっていく。
そうしてテンちゃんはいくつもの浮遊島を通り過ぎて上昇を続けた。
・・・私たちってこんなに下の方まで落ちてたんだね。
やがて見覚えのある浮遊島が見えてきた。
第二階層に繋がるゲートのある浮遊島だ。
テンちゃんは、ゲートのある洞穴の前に静かに降り立った。
「やっと帰って来れたよ!」
私達がテンちゃんの頭から降りると、テンちゃんは全身が光りに包まれて再び少女に姿に戻った。
「ありがとうね、テンちゃん!おかげで助かったよ!」
「こちらこそありがとうございます!受諾した命令を達成した事により、魔女の正式な使い魔としての契約が成立しました!これから末永くお仕えいたします!」
「あれっ?今のって私が命令した事になってるの?」
「はい!強欲の魔女様よりご命令を承り、それを遂行しました!」
テンちゃんは嬉しそうににっこり笑ってそう答えた。
・・・どうやら私は意図せずテンちゃんとの契約を締結しちゃったみたいだよ・・・
つまり天空竜の仮の姿である目の前の美少女は、事実上『強欲の魔女』と同等の力を持った『魔女』になってしまったのだ!
第二部 第12章 完結です。