10話 勇者の弟子と小物作り
私とジオ様が第三階層の下層の島に落ちてから、既に一ケ月が過ぎていた。
無人島生活にもすっかり慣れて、結局ここにも家を建ててしまった。
最初の数日はすぐに救助が来るのを期待して、野宿していたのだが、五日ほど過ぎたあたりで、これは長引くかと思い、やる事も無くなってしまったので家を作る事にしたのだ。
さすがに大きな家は必要ないので、二人で暮らすのに丁度良い、小さな家にしてみた。
間取りは、玄関を入ると小さなリビングがあり、リビング脇にはカウンターキッチンがある。
奥に扉があり、扉の奥は二人の寝室だ。
部屋はこれだけである。
家づくりのベテランの二人にかかったら、三日程度で完成してしまった。
幸いにもジオ様の勇者の能力は健在なので、木を伐り出したり、力仕事はジオ様に任せている。
私の仕事は細かい仕上げと家具作り、それから小物作りだ。
家具と言ってもテーブルと椅子、それからベッドくらいだけどね。
ベッドはシングルサイズのベッドを一つだけ作った。
今は二人とも小柄だし、寝る時は密着して寝ればいいのでこれで十分なのだ!
・・・というか、密着して寝たいので、あえて私がそうしたのだ。
目論見通り、夜は毎晩いちゃいちゃしながら寝ているよ!
小物作りだが、まずは食器からそろえ始めた。
木製の食器は木材など現地で入手可能な材料から削り出して作るので問題無い。
今回は陶器の食器作りに挑戦してみた。
陶器の材料は土なので、まずは地面の土を掘る。
陶器作りには普通の土では粒が荒くて、粘土の様なきめの細かい土が必要になるのだが、中々丁度良い土を探すのは大変だ。
ましてや、この小さな浮遊島では適した土が見つかるかどうかも怪しい。
そこで私は魔法を使って、その辺で掘った土を陶器作りに適した土に作り変えた。
魔法が制限されているのにどうやったかって言うと、実はこの程度の事は下級魔法でできてしまうのだ!
今の私は下級魔法レベルの魔法しか使えなくなったと言っても、一度に出せる最大出力が制限されているというだけであって、魔力量は元のまま無尽蔵にあるのだ。
通常の下級魔法使いは、魔法の出力も小さいけど魔力の総量も少ない。
だから下級魔法を使えても、すぐに魔力切れを起こしてしまうので回数や持続時間に制限がある。
下級魔法使いでも勉強すれば魔法の知識は身に付くし、練習を続ければ魔法の仔魚技術も向上するのだけれど、そんな感じであまりにも使い勝手が悪いから、魔法が使いこなせる様になるまで技術を習得する者は少ないというだけなのだ。
その点私の場合は、魔力切れを気にせずに魔法を連続で使い続ける事が出来るし、魔法の知識や技術に関しては全く問題ない。
今回の土の組成変更は、少量なら下級魔法の魔力出力でも出来てしまうので、後はそれをひたすら繰り返していけば、必要な量の土が作れてしまうのだ!
土が出来たら形を作って、次は焼くのだけど、これも下級魔法で出来るのだ!
土で作った食器を同じく土で作った窯に入れて、高温で長時間焼く必要がある。
これは最初に温度を上げる時だけ魔力が必要なんだけど、時間をかければ温度はいくらでも上げていく事が出来るし、薪を使って火を焚いても同じ事が出来る。
窯が必要な温度まで熱くなったところで、次は温度を一定に保つ魔法を窯にかければいいのだ!
この一定温度に保つ魔法は、魔法陣が複雑なだけで大した魔力を必要としない。
その上、一度発動してしまったらその後は魔力は不要なのだ。
これは自然界に存在する希薄な魔力を利用して魔法を継続させる事が出来るからだ。
つまり下級魔法でも、高度な魔法知識を習得して、制御技術を磨けば結構使える魔法はたくさんあるのだ。
ただ、下級の魔法使いでそこまで修行を積んで高度な魔法を習得しようって人はほとんどいない。
人生の大半を魔法の修行につぎ込んだ挙句に、魔法が使えるは一日数回のみ、しかも派手な魔法は使えないとなっては、わざわざ、そのために時間を費やそうって気にはならないだろう。
それでも過去に、『下級魔術師』まで登りつめた魔法使いがわずかだがいるのだ。
よっぽど魔法が好きだったんだろうね。
魔女である私は、当然ながら魔法の知識と制御技術は十分に持っているので、結構いろんな事が出来てしまう。
瞬間的に大量の魔力を消費する魔法だけが使えないけど、そういうのって主に攻撃魔法ばっかりなので、生活魔法だったら魔力消費の少なくても役に立つ魔法はたくさんあるのだ!
陶器の食器が作れるようになったところで、次に金属の小物が作りたかったんだけど、鉄や金、銀、銅などは、それらを含んだ鉱石が見つからないとどうにもならない。
そこでこれも普通の土から抽出する事にした。
普通の土の中には鉄などの重金属はごく僅かにしか含有されていないのだが、鉄よりも軽くて柔らかい金属がそれなりに多く含まれているのだ。
私は魔法でこれを土から分離して集めた。
これもそれなりに技術と時間が必要なんだけど、この辺の技術は魔技士の修行で習得してるんだよね。
集めた金属を更に魔法で成形する。
この金属は鉄よりも柔らかいし、低い温度で融けるのでスプーンやフォークの形を作るのは比較的楽にできるのだ。
ただ、柔らかいのでそのままでは使っていると曲がってしまう。
そこで私はこの金属にわずかな不純物を混ぜて強度を上げる事にしたのだ。
大抵の金属は不純物が入る事によってその性質が変るのだ。
混ぜるものによっては硬さを変えたり強度を上げたりできるのだ。
そして今回私が混ぜたのは・・・魔結晶の粉末だ。
魔結晶は魔力が残っていると硬くて加工が出来ないのだが、魔力を完全に枯渇させると、急に脆くなるのだ。
意図的に魔力を枯渇させた魔結晶を魔法で出来るだけ細かい粒子に粉砕し、これを熱で溶かしたさっきの金属に微量に混ぜて、魔法で形を成型しながら冷やして固め、最後にこれに魔力を注入すると、本来柔らかかった金属が鉄よりもはるかに固くなるのだ。
実はこれ、魔道具士の秘伝なんだけどね!
同じ方法で、ナイフや包丁も作ってみたけど、軽くて扱いやすいわりに抜群の切れ味の物が出来てしまった。
これって、武器も作れるんじゃないかな?
まあ、同じ方法で鉄や希少金属を使った方がもっと性能のいいものが作れるんだけどね。
そしてこの魔結晶の粉末を利用した強化方法は、木材や革製品なんかにも応用できる。
実はそうやって作ったのが附加装備なんだよね!
家が出来上がって手持ち無沙汰になったジオ様も小物作りを覚えたいというのでやり方を教えたら、わりとすぐに習得してしまった。
相変わらず器用で物覚えが早いよね。
こうして二人で黙々と小物作りに明け暮れていたのだった。