8話 勇者様と奈落の底
目が覚めると、私は草原で寝ていた。
・・・えーと・・・天空竜と戦って・・・尾ひれで叩き落とされたんだっけ?
私の記憶はそこで途絶えていた。
「そうだ!ジオ様!」
天空竜に叩き落とされる前に、ジオ様に抱きしめられていたのだ!
上体を起こして辺りを見回したが、ジオ様の姿はない。
私の周囲は、前方には草原が広がっていて、後ろには草原の向こうに森が見える。
・・・ここは・・・第三階層の底まで落ちてしまったのだろうか?
上を見上げると、はるか上空にいくつかの浮島が見える事から、ここが第三階層である事は間違いない。
だが、かなり下の方まで落ちてしまったみたいだ。
「とりあえずジオ様を探さなきゃ!」
あれだけの高さから落ちたのに私はどこにも怪我をしていない。
それに、地面に激突した形跡もない。
つまり、ジオ様が、安全に着地して私をここに寝かせてくれたという事だ。
そして、意識の無い私を置いて、ジオ様が遠くに行く事はありえない。
だからジオ様は近くにいるはずなのだ。
むしろここで待っていればすぐに戻って来るに違いない。
そう思って立ち上がり周りを見回すと、草原の向こうからジオ様が走って来た!
ほらっ!やっぱり!
これぞ長年連れ添った夫婦の信頼関係ってもんだよ!
・・・まだ実質一年程度だけどね。
「ララ!目が覚めたのか!」
「はい!ジオ様が助けて下さったんですよね?」
「ああ、何とか無事に着地は出来たが・・・しかしかなり下まで落とされてしまった」
「ありがとうございます、ジオ様。ところでここは第三階層の底ですか?」
「いや、まだ下に空間がある。ここは途中に浮かぶ浮島の一つだ」
「そうなんですね?この階層ってどこまでの深さがあるんでしょう?」
上方に見える浮島は空の彼方にかすんで見えるくらい遠い。
相当な距離を落ちてしまった事には違いないのだ。
「わからない。まだ下の方にも、はるか先まで浮島があるのが見えるが、地面は見えない」
「そうですか・・・地面の確認は時間がかかりそうですね?取り合えずミラとレダが心配なので上に戻りましょう」
「ララ・・・そうもいかなくなったのだ」
ジオ様が少しすまなさそうな顔をした。
「どうしたのですか?ジオ様」
「ここでは飛ぶ事が出来なくってしまったみたいなのだ」
「えっ?どういう事ですか?」
・・・そういえば・・・体が重い・・・っていうか、これは元の世界にいた時の重さだ。
この浮遊大陸に来てから、ずっと体が軽かったので忘れていたけど、この感覚は間違いない。
「体が重くなっていますね?」
「ああそうだ。羽があっても、これでは浮き上がる事が出来ない」
そう、天空の国では重力が弱くなって体が軽くなっていたので、この様な羽で空を飛ぶ事が出来ていたのだ。
元の重力に戻ってしまっては、この羽で飛ぶ事は出来ない。
私は試しに羽をはばたかせてみたが、僅かに浮かび上がる程度で上昇する事は出来なかった。
「ほんとだ。これでは上にあがれませんね」
「それだけでなく、魔法も弱くなっている」
「魔法が?ですか?」
私は試しに魔法を使ってみた。
神様の結界魔法のために中級魔法までしか使えなくなっていたのだが・・・
試したところ今の私は下級魔法程度の魔法しか使えなくなっている。
「これは・・・魔法が更に制限されていますね」
「ああ、その様だ。俺の方も大した魔法は使えなくなっている」
「ええと・・・そうするとつまり・・・」
「そうだ、この島から脱出する手段が無い」
「ええっー!それじゃミラたちを助けに行けないじゃないですか!」
「それどころか、俺たちは帰る事すらできない」
「あっ、そうか、このまま一生ここから出られないかもしれないって事じゃないですか!」
「そうだ。助けが来るのを待つか、何か別の方法を見つけるしかない」
私は咄嗟に、島からの脱出方法を考察してみた。
魔法も羽もだめって事は、何か道具を使って上の島に登れないかって事になるけど、上に登るにしても一番近い次の浮島は、上空にかすんで見えるくらい遠いのだ。
おそらく、軽く千m以上離れている。
弓矢で縄を繋いだ矢を打ってどうこうとか、そういう距離ではない。
それならいっその事、下方向に降りてみるのはどうだろうか?
降りる事は可能だと思うけど、出口も何も無かった場合、結局登らなければいけなくなり、状況は今よりも悪化する。
「とりあえず、助けが来るまで待つしかなさそうですね?」
「ああ、ミラたちが無事に脱出して神様に相談すれば何か方法があるかもしれない」
「悔しいけどそれに期待するしか無さそうですね」
「ああ、今のところそうするしかないな」
こうなったら焦ってもしょうがない。
気長に待つしかない。
「そうと決まればこの島の探索をしましょう!しばらくここで暮らす事になるかのしれません」
食料の調達とか、飲み水の確保とか考えておかないといけないからね。
「草原の向こう側は今見てきたが切り立った断崖だった。森の方はまだ見ていない」
「じゃあ、とりあえず森を探索してみましょう!」
こうして私とジオ様の無人島ライフが始まったのだった。




