3話 勇者の弟子と海の階層
「じゃあ、いよいよ今日は地下迷宮の第二階層に挑戦するよ!」
「皆さま、お気をつけて行ってらっしゃいませ」
ラルをだっこしたシィラが私達を見送ってくれている。
シィラは最近ラルをだっこしている事が多い。
他の三人は、放っておいてもベビーベッドでおとなしく寝ていてくれるのだが、ラルだけは起きている事が多く、やんちゃでよく動き、よく泣き出すのだ。
そのため、いつも誰かがラルをだっこしてあやす事になる。
とにかく一番手のかかる赤ちゃんなのだ。
まったく、誰に似たんだか!
って、私なんだけどさっ!
今にして思うと男で一つで私を育てたお父さんって、大変だったんだろうな。
よくできたお父さんで本当によかったよ。
「じゃあ、よろしくね!シィラ」
「はい、かしこまりました」
「わらわもいるから大丈夫じゃ」
いつの間にか神様も来ていた。
まあ、折角だから遠慮なく手伝ってもらうけどね。
私達四人は魔動馬車で迷宮の入り口まで移動し、地下迷宮へと入っていった。
第一階層はすっかり手慣れたもので、羽を使って宙に浮かび上がった私達四人は、魔物を難なく蹴散らして、第二階層へ続くゲートまで向かった。
第二階層へのゲートは教えてもらった魔法で解錠できた。
ついに浮遊大陸の地下迷宮(?)の第二階層に挑むよ!
ゲートを抜けた先は、第一階層と同じ様に洞穴の中だった。
洞穴を抜けた先には、やはり空中に開けた狭いステージだった。
しかし下を見ると第一階層とは大きな違いがあった。
そう、この第二階層は地面の代わりに広大な海が広がっていたのだ!
そして海があるのは下側だけではなかった。
上を見上げると、空の遥か上にも海が広がっていたのだ!
そう、この第二階層は上と下を海に挟まれ、その間の空中にいくつもの島が浮遊している階層だったのだ!
「わあ!すごーい!」
レダが壮大な風景に感動している。
純粋で感受性の高いレダは感動していると本当に分かりやすい。
「どうなってるんでしょうね?上の水はどうして落ちて来ないんでしょう?」
ミラの言う通り、普通だったら天井の水は下に落ちるはずなんだけど。
「まあ、魔法で作られた疑似空間だからね。重力の方向とかどうにでもなるんだろうね。二つの海の中央付近に島が浮いてるから、上に行くと上が下になるんじゃないかな?」
「どういう事?」
「行ってみればわかるよ」
私はステージを飛び立って上の方の海を目指した。
みんなも後からついて来る。
すると、頭上の海に近づくにつれて上側に向かって吸い上げられ始めたのだ。
「やっぱりね!」
そのまま上の海に向かって飛び続けると、上の海に墜落しそうだ。
「みんな!進行方向を変えて下の海を目指して!」
・・・と言ってもすでに上と下が逆転しているのだが、海面に向かって飛んでいた私は方向転換して上昇を開始した。
他のみんなも私に続く。
「どうなってるの?これぇ!」
レダはパニックになっているみたいだ。
「なるほど・・・こういう事か」
ジオ様はわかったみたいだね。
「そうです。この階層は中央付近は重力が無くて、上下の海に近づくとその方向に重力が発生しているんです」
「そして中央に浮いている島々の上に降り立つと、その島に向かって重力が発生しているみたいですね」
中央の島々は上下の面にそれぞれ逆方向に木が生えている。
おそらくどっちの面にも降り立つ事が出来るのだ。
「へぇー!不思議だね!」
「だから空を飛ぶ時は自分の場所と海や島の関係に気を付けてね。うっかりしてると海に墜落しちゃうよ」
「うん!わかった!」
一番危ないのはレダなので、最初はレダの動向に気を配っておこう。
この第二階層は、空中を飛んでいる飛行型の魔物と、浮遊島に生息している歩行型の魔物に分かれるみたいだ。
第一階層から出てきたゲートが浮遊している島の一つにあったから、第三階層に繋がるゲートもどれかの浮遊島にあると思われる。
それを見つけて第三階層に行くのが目的だ!
浮遊島には木が生い茂っている場所が多く、上陸して見ないとゲートが見つけられない。
一つ一つ探していくしかないかな?
おそらく、離れた場所の島だとは思うけど、それらしい島を一つづつ探してみよう。
空を飛んでいると、飛行型の魔物が寄って来る。
これは第一階層と同じだ。
でも、空中の魔物はやはり第一階層の魔物より強敵だ。
中でも羽の生えた蛇みたいな中級の魔物が一番厄介だ。
大きさの割に動きが素早くて、口からブレスを吐いて来る。
このブレスをまともに受けると、おそらく一撃で死んでしまう。
『羽蛇』がブレスを吐くモーションに入ったら警戒しなければいけない。
一度目を付けられると私たちの飛行速度では振り切れないから確実に倒すしかない。
これは難易度が高いのでジオ様と私の連携で倒す事にした。
私とジオ様が二人揃って正面から羽蛇に向かって急接近する。
すると羽蛇は正面の私達に向かってブレスを発射する。
私とジオ様はブレスが当たる直前で、足の裏を合わせ同時にお互いを足場に逆方向に跳躍し、ブレスを躱す。
羽蛇は逆方向に跳んだ二人のどちらかを追尾しようとするので、もう一人がその首を側面から切り落とすのだ。
結構、この作戦が効果的で、短時間で確実に羽蛇を仕留める事が出来た。
「ララとジオ君、かっこいい!」
「息がぴったりのお二人ならではの作戦ですね」
そう、今のジオ様は私と体格も体重も同じくらいなので連携が取りやすい。
女性バージョンのジオ様限定の連係プレイが楽しめるのは今だけの特典なのだ!
折角だから思いっきり堪能しないとね!