9話 勇者様と出産準備
地下迷宮での飛行訓練も順調に進み、みんな空中戦で魔物に後れを取る事は無いレベルまで上達した。
第一階層の空を飛ぶ魔物達には空中戦でも余裕で勝てる様になったのだ。
この第一階層には下級の魔物しか出現しない。
この階層に出現する鳥型の魔物達は、飛行速度は速いのだが攻撃力はそれほど高くなく、油断しなければダメージを受ける事は無い。
私たちは第二階層への入り口まで自力でたどり着ける様になっていた。
第二階層には中級の魔物も出現するようになるらしい。
そして・・・問題の上級の魔物は第三階層に出現するらしい。
第二階層以降は、出産後の楽しみという事にして、まだ立ち入ってはいない。
そして、私とジオ様、それにシィラの三人は既に臨月を迎えていた。
神様の言った通り、本当に一ヶ月足らずで出産を迎える事になったのだ。
「地下迷宮での訓練はいったん中止して、そろそろ出産のための準備に入りましょう」
通常よりも妊娠の進行が早いので、三人ともお腹はぱんぱんに膨らんでいる。
もしかしたら今日にも陣痛が始まるかもしれないし、陣痛から出産までも普通より早いのかもしれないのだ。
そうだとしたらかなり慌ただしい出産になるよね。
そうなると、さすがに空中で産気づいたら危ないからね!
「それにしても臨月の妊婦が三人揃うと壮観ですね」
別荘のリビングで、ミラが私達三人を見て言った。
「わぁい!赤ちゃん生まれるの楽しみ!」
子供好きのレダは早く赤ちゃんが見たくて仕方ないらしい。
「でもジオ君は赤ちゃんなのに、もう赤ちゃんを産んじゃうんだね!」
・・・しかも男の子の赤ちゃんだった。
「女性の体には慣れたから大丈夫だ。妊婦の体にも慣れてきたところだ」
・・・ジオ様、時々女の子っぽいしぐさをする事が多くなってきたんだけど、言葉遣いは男らしいままだよね。
でも、声がかわいいから、それはそれでボーイッシュな美少女って感じでかっこいいんだけどね!
「わたくしも妊娠という貴重な体験が出来ました。一生独身のままララ様にお仕えするつもりですので、こんな事でも無ければ経験できませんでした」
「ちょっと!シィラ!何言ってんの!ちゃんと自分の幸せを掴んでよ!」
「結婚だけが幸せの形ではありません。わたくしにとってはララ様とジオ様、それにルル様にお仕えする事が何よりの幸せなのです」
「それは嬉しいんだけど・・・好きな人が出来たらちゃんと言ってね!」
「・・・そうですね、わかりました・・・・・好きです!ララ様」
シィラが真顔で私に告白してきた!
「そういう事じゃなくて!」
「ちょっと待って下さい!わたくしも好きです!ララ!」
そこにミラが割り込んできた。
「あたしも!ララだーい好き!」
レダも私に抱きついてきた。
するとジオ様が無言で私を抱きしめてみんなから引き離した。
「ジオ様?」
・・・もしかしてやきもち焼いてる?
「ジオ君、独り占めはだめだよ!」
レダが再び私に抱きつくと、ミラとシィラも抱き着いてきて、もみくちゃになってしまった!
「もう!私はみんな大好きだからね!」
でも、なんだかんだで、みんなに抱きしめられるのは悪い気はしなかった。
翌日からは、ミラとレダの二人だけで訓練に行く事になったので、私とジオ様とシィラの三人だけが別荘に残った。
「ジオ様とシィラは初めての出産だよね?その点私はもうベテランだから、わからない事があったら何でも聞いてね」
「・・・ララ様?・・・ベテランと言っても、ララ様もまだ二回目ではないですか?」
「初めてと二回目じゃ全然違うんだよ!」
「まあ、確かにそうですけど・・・そういえば、神様が痛みの無い出産を希望する者にはそういう処置をするって言ってましたけど、ララ様は普通に出産するのですよね?」
「うん、あんまり楽に産んじゃうと勿体ないっていうか、やっぱりちゃんと本来の段取りを経験したいんだよね」
「痛みよりも好奇心が勝っているというか・・・苦痛も含めて全てを経験したいというのがララ様らしいですね」
・・・まあ、それが『強欲の魔女』の『強欲』たるゆえんだよね!
「ララがそうするなら俺も同じ方法でいい。ララと同じ体験をしておきたい」
「それではわたくしも普通に出産しようと思います」
ジオ様もシィラも 自然分娩の方針だね。
「じゃあ、二人に陣痛が始まった時の心がけから説明するね!」
私はジオ様とシィラに出産までの段取りを経験談を絡めて説明したのだった。
「そういえば聞きたかったんだけど・・・シィラって男性と付き合った事あるんだっけ?」
そう、私の知っている限りシィラが男性と付き合っているのを見た事は無いのだ。
「もちろんありません。子供の時からお屋敷につかえておりましたので」
「やっぱりそうだよね?・・・っていう事はもちろんあっちの経験もゼロって事だよね?」
「はい、そうなります」
「そっか・・・そういう機会って無かったんだ?」
「身近にいた年齢の近い男性はジオ様だけでしたので・・・もしその様なご用命がありましたら快くお受けしておりましたが、その様なお誘いは一度も無く・・・」
「えっ!シィラ、ジオ様の事好きだったの?」
「そういう訳ではありませんが、お仕えしている身ですので命令には従います」
「ジオ様!メイドとそいういう事ってあったりするんですか!」
そういえばうちのメイドたちって、シィラを筆頭にかわいい娘揃いだった。
「いや、そういう対象に見た事は無いし、それはメイドの仕事では無いだろう?」
「そっ、そうだよね!」
「もちろん冗談ですが」
「びっくりしたぁ!実はジオ様がハーレム状態だったのかと思ったよ!」
「メイドを雇う際には、ジオ様に対してそういう感情を抱かない者をバトラー様が選定しております」
うーん、それはそれで安心なんだけど・・・ジオ様にときめかない女の子がそんなにいるものなのかな?
「それはそうと、つまり私達三人とも男性経験の無い体のまま出産する事になるんだよね?」
ジオ様はもちろん女性の体になってから男性経験が有るはずないし、私も魔法で経験前の体に戻っちゃってるんだよね。
「何か問題でもあるのか?」
「うん・・・大丈夫だとは思うんだけど・・・ちょっと痛みが強いのかな?って思っただけ」
「でも、この国ではそれが当たり前なんですよね?」
「あっ、そうか!そういえばそうだった」
それもあって神様は無痛分娩コースを用意してたのかな?
まあ、でも、これはこれで貴重な経験だよね!




